映像制作


山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 前回は,テープを使った従来のビデオ編集方法とノンリニア編集の違いについて解説した。
 今回は,ノンリニア編集システムについてより詳しく説明する。
 データの圧縮比と画質の関係,SCSIとハードディスクなど,
これからノンリニア編集システムを構築する場合に絶対に知っておかなければならない必須知識だ。
 今回も見逃せない。(本誌)
 正月気分もすっかり薄れ,もう2月。この号が出る頃は,ちょうど長野オリンピックの話で盛り上がっているところだろう。
 前回は,従来のテープによるビデオ編集の方法(リニア編集)とノンリニア編集の概論について述べたが,少しは理解していただけただろうか。今回はノンリニア編集システムについてさらに詳しくお話ししようと思う。
 さてその前に,ノンリニア編集と混同しやすい『ディジタルビデオ』や『デスクトップビデオ(DTV)』という言葉を,ここで整理する意味で簡単に定義してみたい(図1)。
 まず,このコーナーのタイトルでも使っている『ディジタルビデオ』だが,ディジタルビデオとは動画データをディジタイズしたり,ディジタイズしたビデオやフィルムの動画データとほかのディジタルデータ(CGアニメーションなど)を組み合わせてムービーデータを作ったり,作成したムービーデータをビデオ出力(あるいはフィルム出力)したりする,ディジタルデータを使った一連の動画処理のことと定義しよう。したがってコン
ピュータでディジタル動画データを編集するノンリニア編集はディジタルビデオの中の一つの作業ということになる。
 デスクトップビデオ(DTV)はパソコンなどのデスクトップコンピュータをビデオ編集に利用するシステムのことで,言い換えれば,『卓上のコンピュータでビデオ編集をやる』ということになる。したがってこの場合,テープ編集機をパソコンでコントロールする場合もDTVと呼ぶし,パソコンを使ったノンリニア編集もDTVである。


図1●ディジタルビデオ,デスクトップ
ビデオ(DTV),ノンリニア編集の関係

ディジタイズ:アナログのビデオ映像をコンピュータに撮り込んでディジタルデータにすること(RGB:221ページのディジタルビデオ一口メモを参照)

■さあ,ノンリニア編集を始めよう!

 ノンリニア編集とは,パソコンなどのコンピュータを使ってコンピュータ内で映像編集を行うことである。
 ノンリニア編集システムというと敷居が高いと感じる人もいるかもしれないが,CGアニメーションのビデオ録画という点で見れば,従来使われていたコマ撮り装置に取って代わるものに過ぎない。ノンリニア編集システムを使えば,手軽にしかも高画質に建築プレゼンテーションなどのCGアニメーションをビデオに録画できる。
 ノンリニア編集のメリットを簡単にまとめたのが図2である。一般の人にとってノンリニア編集の一番のメリットは映像編集が簡単に行えるということだろう。編集ソフトの力を借りることで,ビジュアル的に編集できるので楽しく簡単に映像編集ができる(図3)。これにより,今まで映像には程遠かった人や興味を示さなかった人も映像の魅力にぐっと引き寄せられるに違いない。ノンリニア編集による映像制作には魅力がいっぱいなのだ。


図2●ノンリニア編集のメリット


図3●ノンリニア編集ソフトのスタンダードPremiere4.2の操作画面

■まず,画質と圧縮の関係を知ろう

 ノンリニア編集を行うのに必要な知識として,画質と圧縮の関係がある。ちょっと退屈な話だ。だがとても重要なので,よく理解してほしい。
 コンピュータを使って映像データを処理する場合,そのデータ量は非常に膨大になる。例えば圧縮せずに(非圧縮),640×480の解像度の映像をRGBでコンピュータにリアルタイム録画(取り込み)またはリアルタイム再生する場合,1フレームは約900Kバイトでビデオは1秒間に30フレーム流れるので,約27Mバイト/秒のデータが流れることになる。これは,一般的なパソコンで使用するには荷が重い。したがって,どうしてもデータの圧縮が必要になる。
 そこで,コンピュータで映像や音声を利用できるようにしたのが,アップルのQuickTimeやマイクロソフトのVideo for Windows(AVI)である。そして,これらを利用して様々な圧縮コーデックが存在する(図4)。それぞれ特長があり,どのような目的で使用するかによって選択しなければならない。
 CD-ROMで動画データを使用する(再生する)場合は,流せる量が特に大きな問題となる。CD-ROMは1倍速で約150kバイト/秒,2倍速で約300kパイト/秒,4倍速で約600kバイト/秒なので,かなりの圧縮が必要になる。CD-ROMでよく用いられる圧縮コーデックは,RadiusのCinepak圧縮やインテルのIndio video圧縮である。これらのコーデックは高いデータ圧縮(50分の1〜200分の1)でも,できるだけきれいに見せることができるように考案された圧縮方法だ。
 しかし,圧縮するのにかなりの時間をかけてレンダリングしなければならないという短所がある。また,ビデオに出力して使用するには,高圧縮すぎるため画質は期待できない。高圧縮になればなるほど画質は悪くなるからだ。
 では,ディジタル映像をビデオ出力で使用する場合には,どのような圧縮方法が採用されているのだろうか。
 ビデオに出力する場合は,ある程度の圧縮比(2分の1〜50分の1)で,なおかつできるだけ高画質でなければならない。しかも,リアルタイムにコンピュータからの再生とコンピュータヘの録画(取り込み)ができなければならない。
 ここで一般的によく用いられているのが,MotionJPEGである。
 このMotionJPEGは動画用に開発されたJPEG方式で,これにより高画質に圧縮を行うことができる。ただし,ソフトウエアだけではリアルタイムの取り込み・再生ができないので,専用のビデオ圧縮/伸張ボード(圧縮/伸張アクセラレータとも呼ぷ)を使用する。ビデオ圧縮/伸張ボードにより,コンピュータからのリアルタイム再生とリアルタイム取り込みが可能となる。
 ただし,このMotionJPEGはビデオ圧縮/伸張ボードとセットになっておりボードメーカーによる方言があるため,あるメーカーのボードで取り込んだ(圧縮した)ものは,他のメーカーのボードでは再生(伸張)できない。しかし,最近ではリアルタイム再生はできないものの,データを開くだけならできるというものも登場してきた(図5)。
 このように,ビデオ出力用のノンリニア編集に用いられる圧縮方式はMotionJPEG方式あるいはこれに類似した(メーカー独自の)方式がもっとも一般的である。これらの圧縮方法を用いることで,ビデオへの高画質な映像記録が可能になっている。
 もっとも,皆同じような圧縮方法を用いているといってもビデオ圧縮/伸張ボードの性能によって画質は大きく左右される。購入の際は自分の目で画質をチェックすることをお薦めする。
 同じビデオボードを使用する場合は,画質に影響するのは圧縮率である。当然,低圧縮の場合が画質は良く,圧縮比を上げれば画質は悪くなる。しかし,画質の点を除けば,必ずしも低圧縮が良いとは限らない。というのも,低圧縮にするとデータ量は増えるので,データの転送レートを高めなければならず,ハードディスクなどのハードウエアの性能アップが必要になるとともに,必要となるハードディスクスペースも大きくなるからだ。自分が必要な画質を十分見極めて利用することが大切だ。
 ところで,ここで面白いことがある。それは,あるビデオボードが低圧縮時にほかより高画質だからといって,高圧縮の時も他のボードよりきれいとは限らないということだ。自分はどのような目的で使用したいと思っているのか,そのためにはどのくらいの圧縮をかけて使用するのかをまず決めて,ボードを選択しなければならない。
 最近ではディジタルビデオカメラに使用されているDVコーデックを使用したノンリニア編集システムも登場してきた。このシステムは撮影から編集まですべてディジタル化されているのできわめて高画質でノンリニア編集システムを組むことができる。DVノンリニア編集システムはこれからの期待のシステムだ。DV関連についてはまたの機会に詳しくお話ししよう。

コーデック:圧縮/伸長ソフトウエアのこと。コーディング・デコーディングの略。

レンダリング:3次元CGなどで最終結果をコンピュータに計算させることをレンダリングと呼ぶが,画像編集ソフトや画像合成ソフトで最終的な画像を表示(出力)するための計算もレンダリングと呼ぶ。ビデオ映像の場合1秒間は30フレームなので,静止画に比べかなりの計算時間が必要となる。ただし,最近のソフトは映像をただ単につなげたりする場合はレンダリングが不要なものも登場してきた。また,プラグインソフトと専用アクセラレーションボードによりレンダリングタイムを短くしたものもある。

JPEG方式:静止画像の圧縮方式の中で最も代表的なもの。フルカラーに対応しており,圧縮率が高い割に画質劣化が少ないのが特徴の圧縮のかけ具合を変えることができるので,圧縮次第では印刷に耐えうる高画質を維持できる。これを動画用に利用したのがMotionJPEG。

DVコーデック:221ページのディジタルビデオ一口メモ参照

図4●(a)Macintoshの圧縮コーデックの種類(Macintosh版premiereより)
(b)windowsの圧縮コーデックの種類(windows版Premiereより)
図5●RadiusのSoftStudioを使用すれば,ハードウエアが
なくてもRadiusのコーデックによる圧縮/伸張が可能だ
   
日経CG1998年2月号