映像制作


山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

ノンリニア編集システムの最近のトレンドは,エフェクトのリアルタイム化と非圧縮による高画質化。
今回は,前半で非圧縮による高画質化についてその必要性を考える。
そして後半で,今手に入る主なノンリニアビデオ編集ソフトについて簡単に紹介する。

 最近のノンリニア編集システムは,ハードウエアの進歩に伴ってエフェクトのリアルタイム化と非圧縮による高画質化に向かっていることは,先月号でもお話した通りだ。
 今月は,最初に非圧縮の必要性について考えてみようと思う。非圧縮によるノンリニア編集は最高画質を得られるが,その反面,膨大なメディア(ハードディスク)のスペースが必要になる。今回はこのあたりについて考えてみよう。
 続いて,現在販売されているノンリニアビデオ編集ソフトをいくつか紹介してみたい。

■非圧縮による高画質化は必要か?

図1●ロスレス圧縮が可能なMatroxのDigiSuite

 最近のビデオ圧縮/伸張ボードは,フルスクリーン・フルフレーム(60フィールド)のリアルタイム再生にほとんど問題なく対応している。
 しかし,ここで問題になってくるのは圧縮に伴う画質劣化の問題だ。以前にも本誌で,圧縮比/転送レートと画質についてまとめた表を掲載した(2月号を参照)。こうした情報をもとに,最低圧縮比をどれくらいにするかを検討しなければならない。注意を要するのは,圧縮比の定義がメーカーにより違う場合があることだ。最大転送レートを調べた方がいいかもしれない。
 最近では,低価格のボードでも2.5:1〜3:1の低圧縮で処理できるものが登場してきた。これくらいであれば一般的なビデオ編集には十分だろう。コンポーネント出力ができれば,業務用ビデオの制作でも十分通用する。CGアニメーションの出力用としても,きわめて十分なクオリティを得ることができると思う。
放送用のCG出力で使用してもほとんど大丈夫だろう。
 だが,本当に高画質を求めるなら,2.5:1以下の低レベル圧縮または非圧縮が必要となる。当然,非圧縮にすれば,最高の画質を得ることができる。
 とはいえ非圧縮の場合,YUV*データで扱ったとしても1秒間に18Mバイトが必要だから,10分間の映像のために10.8Gバイトものハードディスク容量が必要になってくる。ビデオ入出力ボードの価格も高額になってくるため,ストレージメディア(ハードディスク)を考えるとシステム全体の値段はかなり高くなる。また,非圧縮対応のシステムは圧縮での使用はできないものもあるので,注意が必要だ。
 非圧縮のディスク容量の問題を解決するのが,ロスレス圧縮である。これは,可逆的に画質の劣化を生じないように圧縮する方法である。データを間引きするMotionJPEG圧縮と異なり,データを間引かずに圧縮することで,完全な形で復元できるのだ。
 いずれにせよ,放送クオリティを目指すなら,このロスレス圧縮や非圧縮がどうしても欲しくなるところだ。最終的にどのような目的で使用するのか,どのくらいの画質が要求されるのかを十分吟味して,選択していただきたい。
 筆者の場合,今一重興味があるのはロスレス圧縮だ。MatroxのDigiSuite(図1)などのロスレス圧縮対応ボードは通常のMotionJPEG圧縮での使用も可能なので,圧縮比を変えた使い方もできる。あとはコストだが,従来の編集スタジオを考えるとかなり安く組むことができる。

*YUV:RGB信号を輝度信号と色差信号に分ける方法。輝度信号Yと色差信号U(R-V),色差信号V(B-Y)に分ける。

■今手に入るノンリニアビデオ編集ソフト

 さて,現在発売されているノンリニア編集ソフトにはどんなものがあるのだろうか。
 今月は,主なノンリニア編集ソフトをピックアップして簡単に紹介しよう。次号からは,さらに詳しく見ていくことにする。

■Adobe Premiere5.0日本語版

 Macintoshから始まってWindows NT,SGIへとマルチプラットフォーム化され,映像編集・合成ソフトの定番になっているのが,このAdobe Premiereだ。
 先月号の新製品評価室でも紹介したが,今回バージョンが5.0になってビデオ編集機能が大幅に強化された(図2)。以前はどちらかといえばマルチメディア向けソフトというイメージだったが,本格的なビデオ編集にも耐えうる映像編集ソフトヘと進化した。合成トラックは99本まで持てるので,本格的な合成も行える。デュアルストリーム対応のハードウエアを使用することで,リアルタイムエフェクトにも対応可能だ。
 プラグインフィルタはPhotoshop用が使える。Premiere4.2用のプラグインフィルタとしては,本格的な3次元DVEフィルタのBoris Effects ProやエフェクトフィルタのFinal Effectsなどが販売されており,5.0対応版もすぐに発売される予定だ。Final Effectsは当初After Effects用に開発されたものだが,その後Adobe Premiere用のFinal Effects APが発売された。画像に変形を与えたり,パーティクル効果を加えたりと面白い効果をアニメーションさせることができる(図3)。近々,Digital FusionやDiscreet LogicのPaint/Effects,Softimage:DS用にも発売される予定だ。
 インターグラフからは,Open GLを利用してエフェクトをアクセラレートできるVizFXも販売されている(ただし,日本ではインターグラフのマシンとのバンドルのみ)。


図2プロフェッショナルな映像編集ソフトに生まれ変わったPremiere5.0
図3●Final Effectsの例

画像をボール状に分解する

シャボン玉効果を付ける

2点を極座標として画像を変形する

万華鏡効果を作る

玉面に貼り付ける

レンズ効果を付ける

背景とパーティクル

パーティクルとして雨を降らせる
 
パーティクルとして雪を降らせる
  [次のページへ]
日経CG1998年7月号