映像制作


山田浩之
Yamada Hiroyuki

プロデューサ,
デジタルクリエータ

TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 「ノンリニアビデオ編集とオーディオ編集」の後編では,Matoroxのビデオキャプチャ再生ボードDigiSuite LEを搭載したノンリニアマシンにWindows用のオーディオ編集ソフトSamplitudeを組み込んだ使用感を報告しよう。
 合わせて,ユニークな音楽作成ソフトACIDを紹介する。
 前回は,映像の制作現場でのMAの作業手順やパソコンを使ったハードディスクレコーダーによるMAの現状,Macintosh用サウンド編集システムの「Pro TooIs」やWindows用サウンド編集ソフト「Samplitude」の概略についてお話しした。
 今回は,Windows用のサウンド編集ソフトSamplitude2496を実際にノンリニア編集システムに組み込んで使用してみたインプレッションをお届けしよう。今回使用した編集システムは,自作したデュアルPentiumマシン(PentiumII/450×2)にMatroxのビデオキャプチャ再生ボード「DigiSuite LE」を組み込んだマシンだ。

■映像と音声のシンク

 まず,映像とのシンク(同期)についてお話ししよう。これには2つの方法が考えられる。
1つは,映像は外部のVTRを使用し,VTRとパソコン上のオーディオをシンクロさせながら編集を行う方法だ。この方法は,ポストプロダクション(スタジオ)でのMA作業に近い。この場合,VTRをマスターにするかパソコンをマスターにするかは,使用するソフトウエアやシンク用のハードウエアに依存する。
 VTRをスレープにするには,そのVTRがSMPTEなどのタイムコードでコントロールできる必要がある。もし,VTRが民生機でこうしたコントロール機能を持っていない場合は,スレーブとしては使用できない。しかし,音声トラックにタイムコードを記録すれば,マスターとしては使用できる。この場合は,パソコン側がVTRに追従する。
図1●シンクロナイザーの例
上は,今回使用したMIF(MIDI timecode)。MTCとSMPTE(LTC)を相互に変換でき,正確なシンクロナイズが可能になる。下は,WIF(Word clock generater&interfece)。ビデオシンク(ブラックパースト/ハウスシンク)やVlTC,LTCをMTCに変換できるほか,さらに精度の高いWord clockにも変換できる。これらのインタフェース機器を使用することで,Samplitudeは外部の映像機器やシンセサイザーなどのMIDl機器とシンクロナイズが可能となる。
 もう1つの方法は,パソコン側で映像と音声を同時に立ち上げて映像を再生させながらオーディオの編集を行うというものだ。パソコンを使っている人には,きわめて当たり前のことに思えるかもしれないが,業務レベルや放送レベルのクオリティでこうしたことができるようになったのはわりと最近のことなのだ。
 Samplitude2496では,これら2つの方法を両方行うことができる。外部VTRとシンクさせるには,別にシンクロナイザーと呼ぶ機器を用意する。このシンクロナイザーは,パソコン側から出力されるシンク信号とVTR側のシンク信号(タイムコード)を相互に変換することができるものだ。もちろん,マスターとスレーブを固定すれば,どちらか片方の変換しかできないものでも,使用することができる。シンクロナイザーは,パソコン側の信号の種類こよって,製品を選択することになるが,注意しなければならないのは,シンクロナイザーは非常にデリケートなため,組み合わせによってはうまく動作しない場合もあるということだ。
 Samplitude2496はMTC(MIDI Time Code)を利用できるので,パソコン側のMTCとVTR側のSMPTEをシンクさせる独Rosendahl社の「MIF」(販売はフックアップ,03-5256-2853,価格はオープンプライス,実売7〜8万円,図1)というシンクロナイザーを今回は使用してみた。この時,MTCはパソコン側に取り付けたSound BlasterのMIDl出力から取り出した。このシンクロナイザーは,同時に相互変換はできないが,前面のスイッチにより,MTCをSMPTEに変換することもSMPTEをMTCに変換することもできる。シンクに関しても非常に良くできており,アナログVTRの徹妙なシンクの揺れにも見事に対応してきちんとMTCに変換してくれる。非常に高価なシンクロナイザーにも匹敵する
性能を持っているのである。
 Samplitude2496は,ソフト上に映像を読み込んで,これを再生させながらオーディオの編集を行うこともできる。当然,パソコン上で編集したものをそのまま利用して,MA作業を行うことができる。
 ただしこの時に問題になるのは,Samplitude2496上で映像がコマ落ちなく再生できるかどうか,ということだ。
一般的には,表示ウインドウを小さくするか,圧縮された映像を用いると,問題はないだろう。
 今回は,DigiSuite LE上で,問題なく映像を表示しながら編集が行えた(図2,図3)。しかし,Samplitudeは,DigiSuite LEに完全に対応しているわけではないので,NTSC上で確認することはできず,パソコンのRGBモニター上での確認になる(DigiSuite圧縮の映像をRGBモニターにオーバーレイ表示するには,Matorox製の2次元ビデオカードが必要になる)。Samplitude2496が,DigiSuite LEに完全対応してくれればありがたいのだが・・・。


図2●今回使用した機材の構成

 

図3●Samplitude
下図のようにRGBモニター上で映像を確認できる。 DigisuiteのNTSC出力に映像を出力できるようになるといいのだが・・・。

■DigiSuite LEとSamplitude2496を使ったMA作業

 Samplitude2496は,24ビット96kHzに対応したマルチトラックレコーダー/マルチトラックエディターである。
編集トラックもほぼ無制限(最大1024トラック)に使用することができるが,ミキシソグしながらリアルタイムに再生できるチャンネル数は使用するハードウエアに左右される。今回使用したハードウエアDigiSuite LEは4チャンネルの音声入出力を持っているが,実際にできるのは2チャンネルの同時録音または2チャンネルの同時出力までである。VTRから取り込んだステレオトラックに,ナレーショントラッスBGMトラックなどを重ねて編集し同時に再生させても,リアルタイムにミキシングが行える点は非常に有り難い。
 Premiereなどの映像編集用ソフトとひと味違うのは,細かい波形編集ができる点と編集トラックにダイレクトに音声を記録していくことができる点だ。Premiereは一度,ディジタイズ処理をして,その後でタイムライン上に張り込んでいかなければならない。やはりこうでなくては,本来のMA作業はできない。
 と,喜ぶのもつかの間,実はDigiSuite LEの音声部には弱点があった。というのは,DigiSuite LEは再生音をモニターしながら録音することができないのだ。実はこれはDigiSuite LEに限ったことではなく,ほとんどのノンリニア編集用ビデオキャプチャ再生ボードに搭載されているオーディオ部で同時録再は不可能なのだ。通常のMA作業では,音声を聞きながら音楽を付けていったりするのでこれは非常に残念だ。
 もちろん同時録再可能なオーディオカードを使用すれば,再生音をモニターしながら,パンチイン/パンチアウト*の録音も可能となる。同時録再可能なオーディオカードは,Sound Blasterなどより少し値は張るが,最近では24ビット96khzで16チャンネルの入出力ができる米Sonorus社の「STUD1/0」(販売はフックアップ,定価12万9000円,図4)なども登場しており,こうしたオーディオカードを使えば,Samplitude2496の最大の性能を引き出せることになる。
 ところで,Samplitude2496はマルチカードをサポートしているので,音声の入出力に使用するサウンドカードを複数使用することで,トラックごとにPlayとRecで使用するサウンドカードを別々に指定することができる。つまり同時録再に対応していないカードでも,カードが2枚あれば同時録再が可能になるのだ。
 今回はSound Blasterが手元にあったので,これで試してみることにした。この時に注意することは,再生トラックを複数のサウンドカードに割り振ってはいけない,ということだ。これは各カードのサンプリング周波数が徹妙に違うため,再生音の歪みを引き起こすことがあるからだ。
今回は,DigiSuite LEの音声部を録音用に,Sound Blasterを再生用に割り振った。これにより,クロック差による再生位置のずれもなく,快適にパンチイン/パンチアウトなどの録音作業を行うことができた。
 本格的なMA作業を行いたい場合は,DigiSuite LEの音声部に頼らすに,専用のオーディオカードやオーディオミキサーを用意すると作業効率がすこぶるアップする。
 例えば,「YAMAHA 01V」(図5)などは,MIDIを使った音楽制作者にも評判が良く,非常にコストパフォーマンスがいいミキサーだ。これは入出力にADAT規格のデジタル入出力インタフェースを持っているので,ADATの入出力を持ったサウンドカードを使用すれば,完全にデジタルでやりとりができる。先述したSTUD1/0はこれを2チャンネル持っている。このほか,Samplitude2496を使って便利なのは,オーディオCDのデータをダイレクトにインポーできる点だ。これによりDA/AD変換による音質の劣化を生じることなく,BGMを入力できる。
また.Samplitudeは,MTCによりシンク操作ができるので,MIDIシーケンサなどの外部機器との同期が可能だ。先に述べたように,MT/SMPTEコンバータを使用することで外部VTRとのシンクも可能で,VTRを再生しながSamplitudeのMTR操作を行える。作成したMAデータをビデオテープに戻すことも簡単にできる。


図4●本格的なオーディオカードSTUD1/0

図5●YAMAHA01Vオーディオミキサー

■簡単に音楽が制作できるACID

 話は少しそれるが,Samplitudeの販売元のフックアップが扱っているソウトにACID(フル機能版のACID Proが6万8000円,廉価版のACID Musicが2万2000円)というのがある。ACIDは米Sonic Foundryのループ・シーケンシング・ソフトである。このソフトは,あらかじめ用意されたドラムやベース,ギターなどのWAVファイルをルーピンクさせることで音楽を簡単に作ってしまえるもので,音楽制作者の間でも話題になっているソフトだ(図6)。
とにかく,実際に使用してぴっくりした。いとも簡単に音楽が作れてしまうのだ。
 ACIDで使う音の元データはWAVファイルで任意のテンポを持ったループできるものであればよい。貼り付けたWAVファイルのテンポを,指定するテンポに合わせたり,任意の音程に変更することもできる。このソフトを使うとシンセサイザーやMIDl,シーケンサーが使えなくても簡単に音楽ができてしまう。映像のBGMが必要な時に自分で作れてしまうのが非常にうれしい。このソフトをMA用のソフトとして使用すれば,もっとすごいことができそうだ。例えば,もう少しゆっくり話してもらいたい時に音程を変えずにテンポを変えたり,逆に音程だけを変えることもできてしまう。今回はまだあまり使い込んでいないが,もう少し使い込んだら,また報告したい。


図6●WAVファイルをループさせることで音楽を手軽に制作できるACID

 

さて,今回はノンリニア編集システムで組むMA編集環境としてSamplitudeを使って説明したが,いかがだっただろうか?また,機会があったらいろんなソフトやハードディスクレコーダーについても話してみたい。

日経CG1999年6月号