映像制作


■PART.1■
撮影素材が作品を決める・・・DVカメラ撮影テクニックの基本

 DVカメラの機能を押さえたら,次は使いこなしのテクニックだ。最近のカメラは基本性能が向上しているだけではなく,どんなユーザーでも簡単に使いこなせるように撮影を支援する機能も充実している。その代表例は,手ブレ補正機能だ。初心者でも安定した動画を撮影できる。だが,それでも1ランク上の映像をものにするためには,プロも常用する撮影のコツをマスターしておく必要がある。これを守れば,きっと納得のいく提影ができるはずだ。撮影した素材の良しあしが,編集後の作品の完成度にも影響を及ぼすことを覚えておこう。

■三脚で手振れのない映像を撮影

 フレーム内でやたらに揺れる映像を見ていると,とても疲れてしまう。これを防ぐには,撮影時にはカメラをきちんと固定しておくことが必要だ。できる限り三脚を使用した撮影が望ましい。カメラを三脚の上に固定したら,焦らず慌てず,落ち着いて撮影しよう。ズームやパンを多用したり,カメラを持ったままあっちこっちに移動しながら撮影しても決していい映像は撮れない。ここぞと思う撮影ポイントを探したら,その位置でじっくりと撮影を開始する。
 三脚はカメラを固定する意味があるので,できるだけ重たくてしっかりしたものを選ぶ。スムーズなパンニングをするためには雲台も滑らかに動くものを使う。また,足の長さは必要な分だけ高くできるものを選ぼう。センターポールを伸ばして高さを稼ぐ手もあるが,これは安定しないので,なるべく使わない。
 余裕があれば,軽量の小型三脚も用意しておきたい。例えば,子供の運動会の撮影など,人混みの中では大型三脚はじゃまになる。
 さらに手軽なツールに一脚がある。自分の2本の足と一脚を組み合わせて,三脚と同じ安定性を確保するのだ。カメラをしっかり固定できるようになるまでは練習がいるが,初心者でも縦方向のブレは簡単に抑えられる。


●三脚でカメラを固定して撮影すると,ブレを確実に防げる

●一脚なら三脚よりかさばらずに上下のブレをなくすことができる

■周囲の状況を常に確認

 撮影中はファインダーやディスプレイで撮影する領域を確認するのは当然だが,その外側で起こっている出来事にも注意を払っておくことが必要だ。ファインダーを覗くときは片目をつぶらずに周囲の状況を確認しながら撮影しよう。すると被写体の動きに追従しながら,かつ全体の構図を考えた最良の撮影が可能になる。ファインダーの外側の動きも把握していれば,披写体がどう動こうとしているのか予想しやすい。次の撮影ポイントをとっさに探して,すばやく移動することも可能になる。
 ファインダーの中央部にいた被写体が,突然動き出したとしても慌てて追いかけてはいけない。一度フレームから外れたとしてもゆっくりと追いかけてフレームに入れた方が,いい映像として揺れる。
 このはかの操影時の注意として,撮影開始や終了の操作時にカメラブレを撞こす場合が多いので,必要カットの前後5秒くらいは余裕を持って撮影するようにしよう。不要な部分は後から編集で削除できるから,多めに撮っておいて問題はない。

■手持ち撮影のコツ

 普通の立ち位置でカメラを構えるときは,両足を少し開いて立ち,両手でカメラをしっかりと持つ。脇を締めてカメラが動かないように構えた方が,画像のブレを小さくすることができる。肩や腕に舎計な力を入れすぎると,とっさの動きに対応できないし長時間の撮影では疲れるので,できるだけリラックスした状態で構えよう。
 このほか,壁に寄りかかったり,手すりやテーブルに肘を付けたり,掃影現場にあるものを利用して体を固定すると,安定して撮影できる。ただし,寄りかかるものが安定しているかどうかも確認しておこう。


●小さなカメラでも両手でしっかりとホールディンクする。脇を締めて,膝を柔らかくした状態で撮るとブレが小さくなる

■上手なズーミングの活用方法

DVカメラのズーミングを使用すると披写体を大写しにしたり,背景を広く取り込みながら撮影することができる。しかし,この効果を使い過ぎると,節操のない映像になってしまう。素人が陥りやすいのは,このズームの使い過ぎだ。
 ズームレンズのいくつかの位置(広角,中望遠,望遠など)で固定して使用するなど,ズーミングは極力使わないような気持ちで撮影することが大切だ。一般的な撮影ではカメラの広角側で撮影すれば,大体のカットは押さえられる。被写体に自分が近付いたり離れたりしながら被写体の大きさを調整すると,遠近感が一定の自然な画像に揺れる。ピンボケの少ない撮影ができるのも広角側を使うメリットだ。
 中望遠を使用すれば,被写界深度の浅い,雰囲気のある映像を掘ることができる。女性を美しく操りたい場合などは望遠側を使って背景をボカす。ただし撮影範囲を狭くして被写体を大きくとらえる望遠は,手プレを起こしやすいので注意が必要だ。また,動きの激しいものを追いかけながら掘ることも難しい。
 ズームの多用は危険といったが,ズームを使用せざるを得ない場合やズーミンクを使用した方がいい場合もある。例えば,客席からのステージ撮影など撮影場所を移動できない場合だ。また,披写体にズームアップするカットは,被写体の主観に入っていける効果を出す場面展開前用のカットとして有効だ。
 ズーミングの基本テクニックは,一定の速度でズームすることだ。撮影前に,ズーミングの練習を行い適度なスピードでズーミングできるように練習しておこう。ズーミングは,その速度によっても得られる効果が違うので,使う場合はいろいろと試してから撮影したい。


●ズーミングは被写体に注意を集めたいときに有効。だが使いすぎは禁物だ

■パンニングは効果的に使おう

 パンニングはレンズの広角側と望遠側を使った場合ではずいぶんと意味合いが違ってくる。広角側ではより多くの情報を提供するための説明的な映像になるが,望遠側で使用すれば被写体に注目させる効果が出る。望遠側でパンを使う場合は,いったんAFロックで被写体にピントをロックしてから,本番の撮影をすれば,被写体にピントが合った映像を得ることができる。
  手持ち撮影でパンニングする場合は,若干膝を曲げ,体を安定させながら腰を回転させる。この時,カメラが波打たないように気を付けてゆっくりと回軽させる。パンすることが分かっている場合は,パンする方向とは逆方向に体をひねった位置から撮影を開始するとパンニングの角度を大きく取ることができる。撮影中にカメラをパンする場合は5秒くらい固定した後にゆっくりをパンを開始する。カメラをパンし始めたら一定速度を保ちパンニングを行い,終わりもゆっくりとパンを終える。パン終了後も5秒くらいは固定して撮影する。


●パンニングは一定の速度でカメラを回す。
最初と最後を多めに撮っておく

●望遠側のパンニングは被写体への注目度をより
一層上げる効果がある

■移動する披写体をとらえる

 パンニングが撮影位置を変えずに被写体を追いかけるのに対して,ここで紹介するテクニツクは動く被写体を移動しながら追っかけて撮影するものだ。プロは,安定して撮影するためには三脚の下に車を付けたドリーや移動車を使う。
 一般的にはDVカメラを手で持って移動しながら撮影する。
カメラを両手でしっかり持つと同時に膝をやわらかく使って縦ブレがないように水平に移動する。ブラさずに撮影するのはなかなか難しい技術だが,液晶ディスプレイに注目し過ぎないのがコツだ。


●移動しながらの撮影はより一層ブレに配慮する。
手持ちの場合は縦プレに気を付けよう

■デジタルムービーを楽しむ基本の心構え いざ,撮影へ! 鉄則5カ条

 基本的な知識と技術を身に付けたら,いよいよ撮影に出かけることになるが,その前に撮影の心構えを紹介する。せっかくの撮影で失敗したくなければ,下に挙げた“鉄則5カ条”を守ることだ。
 まずは,自分の持っているDVカメラや編集ソフトの機能を知ることだ。何ができて何ができないのか,必要とする映像素材と照らし合わせて,撮影するべき内容を頭に整理してから撮影に挑もう。
 何を撮影するのか,どこで撮影するのか,タイムスケジュールはどうなっているのかなど撮影内容を確認しておくことも大切だ。場合によっては撮影場所の下調べも必要だろう。それによって撮影時間が決まり,準備するものも決まってくる。
 撮影機材の準備は掘影前日までにしておく。機材にはDVカメラ,三脚のほか,撮影時に使用するバッテリーを充電することを忘れてはいけない。バッテリーの数は撮影予定時間の2〜3倍の時間持つように用意しておいたほうがいい。AC電源が使える場合はバッテリーのほかにACアダプターも用意しておくと,予備のパッテリーで撮影しながら充電できる。また,DVテープも撮影予定時間より1〜2本多めに持っていけば万全だ。このほか,夜の撮影や室内撮影の場合,ライトを持っていく必要もある。
 装備に万全を期していれば,さまざまな状況に対応できるが,機動性を損なってしまう。逆説的だが重要度の低いものをおいていく覚悟も必要だ。

■状況説明の映像も押さえる

 次に大切なのは,撮影現場には撮影開始時間より早めに行くことだ。撮影会場や撮影場所を確認し,カメラポジションを考え,撮影の手順を予習しておく。また,会場外観や周辺の様子を先に撮影しておけば,撮影時間に余裕が持てる。
 メインの撮影を開始したら,被写体の魅力を最大限に引き出せるように,自分の技術を駆使して撮影しよう。被写体が人物の場合,フルショット,ミディアムショットクローズアップなど,いろいろな大きさで掘っておく。

 メインの被写体以外に撮影しておきたいのは,思いっきり引いた状況説明の映像や,場所を説明する映像だ。子供の演奏会などで自分の子供の顛ばかり撮るより,よその子供を少し引き気味で撮影したり,観客の表情を撮影しておくと編集後の映像に幅が出る。
 最後に,撮影に夢中になりすぎて,他人に迷惑をかけないように注意しなければ行けない。付け加えるなら撮影中は自分も楽しめるようにしたいものだ。楽しいイベントで,撮影だけに没頭していてはあまりにも寂しい。撮影枝術を身に付け,撮影にも慣れてくると,自然と余裕が出てくるだろうから,自分もイベントに参加して楽しむことも忘れないでほしい。
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日経MAC2000年10月号