映像制作


■目的別システム導入例

 ところで、ノンリニア編集機の導入にあたってまず考えなければいけないのは、なんの目的で導入するかである。
あえて、目的別で分類するならば

1)CD-ROMなどのマルチメディアタイトル制作のための映像編集として導入
2)リニア・オンライン編集で使用するEDLを得るためのオフライン編集機として導入
3)企業向けVPやセルビデオのオフライン・オンライン編集機として
4)放送向けオンライン編集機として

以上のような目的が決まれば機種の数も狭まり、後は予算やサービス、アップグレードが可能かなどの問題へと移っていけばいい。

1)マルチメディアタイトル制作


写真2●BUG Desk Studio Pro

 CD-ROMなどのマルチメディアタイトル制作にノンリニア編集機を使用する場合、AV機能が備わったMacintoshとAdobe Premiereがあれば制作することは可能である。CR-ROMなどのマルチメディアタイトルの場合、Cinepack圧縮を施したQuickTimeMovieやVideo for Windowsを上限15フレーム/秒のスピードで150k〜300kバイト/秒(CD-ROMの等速から2倍速の転送レート)の転送レートで再生できるように制作するのが一般的なので、ハード的にもそれを上回るシステムであれば制作は可能だ。したがって、AV機能付きのPowerMacであればぎりぎり可能ということになる。しかし、仕事で使うとなるとハード上でJPEG圧縮伸長ができるほうが望ましく、作業もスムーズに進むはずだ。
また、できるだけ高画質の素材を最終圧縮方式のCinePackで圧縮をしたほうが高画質が得られるようであるため、できれば圧縮伸長のできるビデオボードを搭載したほうがよいだろう。ここで使用できる圧縮伸長ボードには、価格的に安く、フルモーションフルスクリーンを実行できる潟CンタウェアのPower Video AV(定価7万8000円)やBUGのDeskStudio Pro(オープンプライス)、があり、NubusタイプのAVマックには最適だろう。PowerVideoAVにはAVID VideoShop2.0Jが添付されており、基本的なQuickTime編集はこれだけでできるのだが、定番のAdobe Premiere4.0Jを使用して、さらに幅広い編集も行ってほしいところだ。また、BUGのDeskStudio ProにはAdobe Premiere4.0Jのバンドルタイプとそうでないのとがあるので、注意が必要だ。
CD-ROM制作者に対しては、これより上位機種にRadiusのVideoVision StudioやTRUEVISION社のTARGA2000がある。両者ともAdobe Premiere4.0がバンドルされている。VideoVision Studioには、このほかVideoFusionやビデオコントローラーソフトProVtrが添付されている。
画質でいうと両者ともDeskStudio Proなどとは比較できないくらいの高画質再生が可能である。
ちなみに、DeskStudio Proの最高転送レートは2Mバイト/秒(カタログ値)であり、VideoVisionの最高転送レートは約6Mバイト/秒くらい(PM8100/110では5.3Mバイト/秒くらい)、Data Translation社MEDIA100は実測していないので不明。
一方、現在のところNubusおよびPCI版があるのはTARGA2000のみでPCI-Mac所有者には選択の余地はないだろう。もちろんMEDIA100(PCI版)といった選択もあるが、MEDIA100の場合、NTSCの映像処理
には強いがCD-ROM制作だけとなると値段的にいってもちょっと高くなりすぎる。
これらのCD-ROM制作にはMovie編集ソフト以外にMacromedia Directorも必要だろう。
Windowsマシーン用の場合、各種ビデオキャプチャーボードが販売されているが、筆者が性能を把握していないので多くは書けないが、画質的にも最も信頼がおけるのはDSPのPerception Video Recorder(PVR)であろう。これについては次号あたりで詳しくレポートしたい。


写真3●Data Translation社MEDIA100外観

2)EDLを得るためのオフライン編集

 つぎにリニア編集の本編集の効率化のためのEDL出力を必要とする場合を考えてみたい。
さて、この場合は、正確に30フレーム/秒のキャプチャーが必要になるわけで、1)よりもさらに条件が厳しくなる。データ量を小さく(高圧縮)して使う場合、PowerVideo AVでもスペック的には大丈夫だろうが、コマ落ちがないとはいい切れない。少なくとも、DeskStudio Proの性能があればある程度の画質(圧縮率を上げ転送レートを下げ)での取込みも可能だろう。したがって、最もコストパフォーマンスの高い組合せは、DeskStudio ProとPremiere、Performa630AV(Nubus)の組合せだろう。
この組合せでは、編集点のイン点、アウト点や、編集で使用したワイプパターンをオンライン編集機のスイッチャーのワイプパターンにあてはめたEDLデータを出力でき、これを利用することで、テープ編集の本編集の効率を上げることができる。すなわち、本編集のスタジオ費を削減できるメリットがある。
この場合、高画質での入出力はあまり必要はない。
極論すれば、フルスクリーンでなくとも、320×240ピクセルサイズででもかまわないということになる。とにかく30フレーム/秒でキャプチャーできればよい。

3)企業VPなどのオフライン・オンライン編集

 では、企業向けVPやセルビデオのオフライン・オンライン編集機として使用したい場合を見てみよう。これにはフルスクリーン、フルモーション(30フレーム/60フィールド)で、1/8〜1/4圧縮の画像クォリティが必要だろう。したがって、松下WJ-MX1000、RadiusVideoVision Telecast、TARGA2000Pro、MEDIA100、AVID Media Composer、VideoCubeなどがこの部類に入るだろう。
ここでの見極めとして、CD-ROMなどのマルチメディアタイトルでの使用も考えるなら、Radius VideoVision TelecastやTARGA2000Proなどが通しているであろうし、NTSC映像信号の処理のみで考えるなら、MEDIA100の画質や操作性には一目置くものがある。
また、AVIDのMedia ComposerにおいてはCM制作時のオフラインに多く使用される現状があり、操作性においても安心できるだろう。


写真4●VideoVision Telecast Workstation外観


写真5●TARGA2000パッケージ

4)放送向けオンライン編集

 最後に、放送レベルで使用することを目的に導入する場合、非圧縮のビデオ入出力ボードを搭載したマシーンが必要不可欠になるであろう。AVIDのMediaSpectrumなどがこれらにあたるが、ここまでくるとDTVの領域はすでに超えてしまっているので、今回は省略したい。

■ノンリニアシステムの導入例

 では、ここで導入を計画している架空のA氏、B氏、C氏、D氏に登場してもらい。導入例を示したい。

●A氏のケース

A氏はフリーのディレクター、最近流行のノンリニア編集に興味はもっているが予算がない。もちろんコンピュータもあまり触ったことがない。とりあえず、きたるべき将来に備えて練習をしておきたいと考えている。もちろん、画質を求めるより、普段行っているVHSでのオフラインの効率化ができれば本望である。
A氏が購入したのはDeskStudio LC ProとPerforma630の組合せである。これに、Premiere4.0を組合せて実売価格約28万円、ハードディスクはSeagateBaraccuda22.0Gバイトを1台購入、合計実売価格約40万円でとりあえず一式そろえることができた。
ここで注目すべきは、DeskStudio LC ProとPerforma630の組合せである。
Performa630はLCIIIPDSスロット搭載機の中では内部転送やSCSIスピードが高速(最高2Mバイト/秒)なので、30フレーム/秒でのコマ落ちはないと考えられる。その反面、CPUがPowerPCではなくMC68LC040/33MHzのため、カット編集ならよいが、エフェクト処理においてはスピードの低下はいたしかたない。まず、A氏の場合はいかに安くが問題であり、使用目的もVHSでのオフラインに代わるものということでは充分だろう。
ここで注意してもらいたいことは他のLC III PDSスロットを使用したPowerMac(Performaシリーズ)
の場合SCSIの転送スピードが上限で0.7Mバイト/秒のため、それ以上での高画質でのキャプチャーはコマ落ちが生じることになる。筆者の場合オフラインは0.5Mバイト/秒のレートで行っているので、ギリギリなんとかなるかもしれない。
もう少し予算のある人は、NubusタイプのDeskStudio ProとNubusタイプのPowerMac8100/100AV、80AVまたはQuadra840AVでの使用も可能だ。このシステムではキャラ(タイムコード)を画面に入れたVHSテープをデジタイズし編集することにより、編集データのEDL出力が可能で、このデータを使ってオンライン編集の効率化を図ることができる。操作性は別として、現在CMなどで行われているAVIDを使った仮編集も、このシステムで代行することができる最も安価なシステムだろう。
また、A氏の場合Premiereの操作に慣れるまで、1/2インチVHSのオフライン用のエディットシート自動作成ソフト『T.C.Editor Pro』(ライトスタッフ扱い 03(3725)3022)を使用することにした。これは、イン点、アウト点、デュレーンョンのいずれか2つを入力することにより、残りの1つとマスターラップを自動計算してくれるExcel用のテンプレートソフトだ。
PremiereでのDTV操作に慣れてきたら、PremiereのEDL出力からエディットシートへの書出しもできるので、便利だろう。


図3●TIMECODE Editor PRO

●B氏のケース

 続いて、B氏に登場してもらおう、彼はMacを使っているデザイナーで、最近はMacromedia Directorを使ったCD-ROMオーサリングも行っている。そこで、将来を見据えて、マルチメディアやビデオ編集に使えるビデオボードを探している。
そんな彼にぴったりなのはRadius VideoVision Studio2.0かTRUEVISION TARGA2000だろう。これらは、QuickTime完全互換なので、既存のMacのアプリケーションをあますところなく使用することができる。また将来的に高画質のビデオ編集をしたい場合は、VideoVision StudioはTelecastに、TARGA2000はTARGA2000Proにアップグレードでき、コンポーネントの入出力が可能となる。コンポーネント接続で使用した場合、ハードディスクの性能いかんではケーブルテレビや企業VP、社内ビデオ編集用としても充分使用できるクォリティを出せるだろう。
VideoVision StudioとTARGA2000の違いはTARGA2000のほうが新しいということもあって、ボード上にDSPチップを搭載している点で、このDSPを使うことにより、Premiereのいくつかのフィルターを高速処理してくれる。処理スピードは2倍(PowerPC604/132)〜5倍(PowerPC601/80)といわれている。また、VideoVision StudioはRGBモニターかNTSCモニターのいずれかにしか出力できないので、本体のビデオボードと合せて2モニターでの表示になるが、TARGA2000は同時にRGBモニターとNTSCモニターのいずれにも出力できるので3モニターとして使用することが可能だ。ただし、VideoVision Studioのほうがソフトが沢山添付されているので、初期投資は少なくてすむだろう。
B氏の場合、PCIバスのPowerMac8500/120を現在使用しているので、PCI版も出ているTARGA2000を購入することにしたようだ(早く、VideoVision StudioもPCI版を出してもらいたい)。

●C氏のケース

 C氏は制作プロダクションの社長、なんとかして安く編集ができないかと考えている。ノンリニアの場合の圧縮による劣化はある程度認めたうえで、レンタルスタジオでのテープ編集と社内でできるノンリニア編集を臨機応変に使い分けたいと考えている。使用目的はズバリ、NTSCのビデオ編集である。しかも、高画質でなければならない。
C氏が考えたのは、松下のWJ-MX1000、Video-Vision Telecast、TARGA2000Pro、MEDIA100、AVID MediaComposer8000である。
CM業界で使用されているAVID Media Composer8000はなんといってもリアルタイムエフェクトができる点で魅力がある。実績もあるので安心である。
しかし、これらすべてをそろえると約1000万円となり、C氏の会社だけでの購入はできないとあきらめた。
そんな中で、エフェクト処理も比較的速く行え、各種波形モニターなどの装備も行うことができるMEDIA100が目に留まった。
このMEDIA100はTARGA2000と同様ボード上にDSPチップを搭載しており、フィルターの高速処理を行うことができる。また、入力信号の波形モニターやカラーコレクター機能、オーディオミクシング機能など各種設定も可能となっている。
MEDIA100のフルバージョンセットが300万、これにPowerMac9500/132、そして8Gバイトのディスクアレー2セット、テープバックアップシステムEXB-8505XL、縮めて実売価格400万〜500万円。
どうやらC氏はMEDIA100の導入を検討しているようだ。

●D氏のケース

 続いて、D氏の登場。D氏はAMIGAでCGを制作しているCGデザイナー。以前からVIDEO TOASTERを使用しており、CGはもっぱらLightWave 3Dを使っている。最近LightWave 3DのWindows版が出たため、Pentium搭載のWindowsマシーンに乗換えようかとも考えている。そんな中、CG吐出し用のビデオボードを検討している。将来的にはノンリニア編集もしたいし、願望は果てしない。
D氏はAMIGA用のノンリニアシステムVIDEO TOASTER FLYERか、いっそPentiumマシーンを買って、DSPのPerceptionを買おうか悩んでいる。
VIDEO TOASTER FLYERの場合、現在使用しているA4000に載せることができ、VIDEO TOASTERのスイッチャーを使用することができるので、リアルタイムでワイプなどの処理をすることができる。いい換えれば1000万円するAVIDと同じようなことができてしまう。これは、おいしい話だ。しかし、現状(V4.0)では当初うたい文句のD-2クォリティには対応していない。V4.07でベータカムクラス程度だ。
片や、DSP社のPerception(PVR)のうたい文句はD-1クォリティだ。サンプリングも10ビットなので高画質が望め、CCIR601準拠4:2:2YUVのコンポーネント対応だ。また、DSP社なら以前から使っているパーソナルアニメーションレコーダー(PAR)の実績もある。
D氏はどうやらDSP社のPerception(PVR)に心ひかれているようだ。ところでPVRの場合、ビデオキャプチャーの際、オプションでドーターボードが必要になるので、注意が必要だ。

 さて、いくつかのパターンで、ノンリニアの導入例を見てきたが、これはあくまでも筆者から見た一方的な導入例なので、導入の際には自分がどういう立場で導入したいのかはっきりさせたうえで、再度、販売店と慎重に話し合って導入していただきたい。
導入後のアフターサービスを求めるか、自分でアフター処理をしていくかも販売店を決めるうえで考えておいたほうがよいだろう。
最後につけ加えるが、現時点ではノンリニア編集がすべて最高の到達点であるとはいいがたく、使い方によっては効率の悪いシステムになってしまう場合があることを肝に銘じておいてほしい。
諸氏の幸運を祈る。
ビデオアルファ1996年3月号