映像制作


■最終仕上げ別ノンリニア編集システムの構築
■用途に応じたインターフェースとハードディスクの選択
■ノンリニアの効率的な活用法〜キー信号を有効に使う
■効率的なデジタルメディア制作へのアプローチ
■映像制作におけるノンリニア編集のTQC
■システム構築のための主なノンリニアシステム一覧
最終仕上げ別ノンリニア編集システムの構築

はじめに

 最近は企業の広告・宣伝予算が削られ,映像制作の予算もかなり安くなった。筆者の周りでもそんな話はあたりまえになっている。放送業界においても番組の制作費が安くなっており、あるレギュラー番組の制作会社では、局の編成からおどしをかけられ予算を削られたそうである。
 しかし悪いことばかりではない。CSやBSなどの衛星放送やケーブルテレビなど以前よりも映像メディアが増えてきたため、映像のニーズは増加していることもまた事実である。もちろんこれらの映像制作費は放送番組とは桁違いに安い。しかしそれが現実なら、いかに効率よく制作し、制作費を抑えるかが勝負となる。
地上波のテレビ番組で構成作家をしている某氏は、自らDVを片手に取材をし、編集までこなしてCS番組をつくっている。氏が地上波にこだわらずCS番組を制作する理由は、地上波の番組とは違う、本当につくりたいものを実現できる場所があるからだろう。
 …しかし、予算はない。ここで、ノンリニア編集が登場する。といっても、ノンリニア編集を用いればかならず効率が良くなるとは限らない。場合によってはすごく効率が悪くなる場合もある。ノンリニア編集をする場合は使用する機材を知り、どのようにして編集を進めていくかを事前に考えておく必要がある。状況によっては、従来のテープベースのリニア編集室をうまく活用することで効率よい製作が可能となることもあるからだ。
 今回は、最終的にどのようなものを制作するかにより、効率アップを図るノンリニア編集システムの構築法や利用法をお話したい。

どんな映像をつくるか整理して考えよう

 ビデオ映像には結婚式のビデオ、会社PRビデオ、新製品紹介ビデオ、番組、CMなどさまざまだが、これから自分がどんな映像を制作しようとしているかを整理しておく必要がある。ここで、まず以下の点をチェックしてみよう。
・完パケにはどれくらいのクォリティ(画質)が要求されるか?
・完パケの尺はどれくらいか?
・トランジション効果は多用するか?
・2D DVE、3D DVEの使用個所はどれくらいあるか?
・合成映像(クロマキー、モーフィングや特殊効果など)を使用するか?
・テロップの使用頻度はどれくらいか?
・制作予算はあるか?
・編集に時間はかけられるか?
 ノンリニアシステムの構築にはこれらのことが複合的に絡んでくる。そこで、つぎにそれぞれについて具体的にシステムを考えていこう。

完パケにはどれくらいの画質クォリティが要求されるか?

 本来画質は劣化させることなく、素材の画質を保ったまま編集作業を終えるにこしたことはない。ノンリニア編集の言葉でいうと非圧縮ということになる。しかし、非圧縮の映像を扱うとなるとPCマシーンやビデオキャプチャーボード等にかなりの性能が要求される。まして、映像を取り込むハードディスクの容量もかなり要求される(YUV4:2:2D-1非圧縮の場合20Mバイト/s必要だ)。したがって、最終的に使用する目的や媒体に応じて必要な画質クォリティを設定し、ノンリニア編集時には必要な画質を保てる最大の圧縮をかけて使用することになる。逆にいえば、使用目的を知ることで、その圧縮比(画質クォリティ)に対応するハードウェアを選べばよいことになる。
 ノンリニア編集における画質は、ビデオキャプチャーボードの性能と圧縮比によって決まる。圧縮比はいい換えると転送レートということもできるが、ボードによってこの最大流せる転送レートが決まってくる。高画質を求めるには、最大転送レートの大きいもののほうが有利といえる。また、ベータカムなどのコンポーネントで記録された映像は、そのままコンポーネントで入力したほうが有利である。なぜなら、パソコンの中ではRGBまたはYUVのコンポーネント信号に分けられ記録されるからだ。したがって、業務レベルで使用する場合は、ビデオキャプチャーボードはコンポーネント信号の入出力を扱えるもののほうがよい。

完パケの尺はどれくらいか

 つぎに、作成するビデオの完パケ尺がどれくらいか、またデジタイズする映像素材がどれくらいあるかを考え、システムで使用するハードディスクの容量を決定する。ところで、映像を取り込む際は、できるだけOKカットのみを取り込むようにしたほうがいい。そうしないとハードディスクの必要容量が膨れ上がることになる。
 さて、先に決めた圧縮比により必要なディスク容量を算出しよう。たとえば、D-1解像度1/4圧縮で約20分の映像素材をキャプチャーするなら、20÷4×60×20=6000Mバイト、つまり6Gバイトは必要ということになる。しかし、実際にはプラスαのディスク容量も必要になるので、その分も考慮する必要がある。

ワイプやディゾルブなど2Dのトランジション効果は多用するか?

トランジション効果は多いにこしたことはない。しかし、実際に映像を制作していると、あまりけばけばしいものを多用するよりも、気品のある効果をさりげなく使ったほうがセンスのいい映像になることにだれしも気付いてくるものだ。したがって、編集ソフトを選ぶ場合、品のある使える効果がどれくらいあるかを知る必要があるだろう。
 そして実際の編集においては、予算が合えばリアルタイムエフェクトが可能なシステムを選ぶことで、飛躍的にノンリニア編集の生産性を上げることができる。
通常、デュアルストリームを搭載したビデオキャプチャーボードは、2Dのトランジション効果においてリアルタイムエフェクトが可能となっている。業務用で使用するには、ぜひともリアルタイムエフェクトは欲しいところだ。

DVEの使用効果頻度はどれくらいあるか?

 DVE効果は、編集ソフトウェアで比較的簡単に扱うことができる。3D DVEもサードパーティ製プラグインソフト、たとえばBoris FXなどを使用することで、簡単に多彩な効果を生み出すことができる。Boris FXはいろいろな編集ソフト向けがあり、いまやスタンダードDVEソフトになっている。またCPUのスピードアップにより、レンダリング時間も以前より短くなっている。しかし、DVE効果を多用するのであれば、予算が許せばリアルタイムが欲しいところだ。
 通常、デュアルストリームに対応したボードだと2DのDVE効果はそれ単体で行える。ピクチャーインピクチャーやレイヤーを重ねての回転やズームなどだ。
このとき、使えるDVEのチャンネル数がどれくらいあるかも調べておこう。
 リアルタイム3D DVEが欲しい場合は、通常、別売のオプションボードを使用することになる。
 3D DVEではPinnacle SystemsのGine Plusが有名だが、このボードのOEM製品が多く使用されている(ReelTime、Media100、DigiSuite(LE)用など)。そのほかAbekasのものはMicroSphereやTARGA2000RTX用に供給され、DPSのPerception RT用にはオリジナルのR 3DXがある。
 ところで、3D DVEのボードは3Dエフェクトを計算するハードウェアエンジンにすぎないので、そのハードウェアをソフトウェアでどのようにコントロールするかによってもその操作性は大きく異なってくる。たとえばPinnacle SystemsのOEMは基本的にハードウェアのみなので、操作性は各社のソフトウェアのできにかかっている。この点、Pinnacle純正のソフトは他社に比べてアドバンテージがある。


Gine Plusとほぼ同様のチップを備えた
リアルタイム3D DVEボードPinnacle Gine RT

DPS Perception RT専用リアルタイム3D DVEボードR 3 DX

3Dエフェクトやピクチャーインピクチャーが可能なプラグインソフトBoris FX。Ver.3.5からD-1解像度に対応

合成映像(クロマキー、VFX)を使用するか?


 取り込んだ後の画像の色調整(クロミナンス、ルミナンスなど)やクロマキー合成などは編集ソフトでソフト的に変更可能であるが、ビデオキャプチャーボードによってはレンダリングなしでリアルタイムに変更可能なものもある。一般的にデュアルストリームをもったボードは、ほとんどのものがリアルタイムでの処理が可能だ。キャプチャー後の映像を大きくいじることは頻繁にあるとは思えないが、いざというときを考えると、やはりリアルタイムで変更できるもののほうがいいだろう。なかにはクロマキー合成もリアルタイムで行えるものもあるので要チェックだ。 discreet logicの非圧縮ノンリニア・合成システムsmoke★
 しかし、かなり細かい髪の毛や煙、またブルーバックのレベルが整っていないときなどはUltimatteなどのサードパーティ製プラグインを使用することできれいに抜け、本格的な合成も可能となる。この場合は、レンダリングが必要となる。
 そのほか、モーフィングや特殊効果などの合成を行うには、一般的には専用ソフトを使用したほうがコスト的に安く抑えられるだろう。これらのソフトにはAfter Effectsやdiscreet logicのpaint*、effect*、またeyeonのDigital Fusion2.5やPuffin DesignsのCommotionなどがある。また、After EffectsやdiscreetlogicのPaint*、effect*用にエフェクトのアクセラレーターカードとしてBlueICE等が出ており、これを使用することで、2〜20倍の高速レンダリングが可能となっている。
 ノンリニア編集システムにはこれらの合成ソフトを統合したものもある。これにはdiscreet logicのsmoke*、AvidのSymphonyや、Softimage:DS等がある。これらはシステム化されたインターフェースにより非常に操作性がよく、1台で編集から合成までできる編集室が備わったのと同じくらいの能力をもっている。したがって、いずれも¥2000万〜3000万以上の非常に高価なシステムだ。

つい最近リリースされたばかりのAdobe After Effects4.0
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ビデオアルファ1999年4月号