映像制作


 今年のNABでPinnacle Systemsから突如TARGA3000が発表され、そのスペックを知り非常に驚いた。しかし、「いまのご時世まあ、それくらいのことができても不思議はあるまい」という思いと、「そこまでのスペックが本当に必要なのか?」という疑問がなかったわけでもない。そのTARGA3000がいよいよ日本でも出荷され、今回テストすることができたわけだが、実際に使用してみるとそのすごさを実感した。そして、改めてそのスペックのすごさを省みてしまった。
 TARGA3000はPinnacle Systemsが放つ久々のプロフェッショナル向けのボードといえるが、豊富なソフトウェア(編集ソフト、本格的DVDオーサリングソフトなど)を同梱し、価格面でも非常に意欲的なシステムに仕上がっている。
 今回はCOMPAQのSP750(PentiumIII Xeon 866MHz×2、512MバイトRAM)にTARGA3000を搭載し、映像用ディスクとしてBIOS UltraVXR−MTL(Seagate ST336704LC 36GB×4台)を使用してテストした(写真1)。


表1 TARGA3000の主な仕様

写真1 今回仕様したシステム。COMPAQのSP750にTARGA3000を搭載し、映像用ディスクとしてBIOS UltraVXR−MTLを用いた

■PinnacleSystemsについて

 Pinnacle Systemsはもともと映像スイッチャー系、DVEに強く、ノンリニア編集機の創生期にはTARGA2000シリーズで一躍市場に踊り出た。その後デュアルストリーム対応のTARGA2000RTXなどを出荷するとともに、廉価版のTARGA1000を出荷し、ノンリニア編集システムでも不動の地位をつかんだといえる。その後、ドイツmiroを買収しコンシューマー向けビデオ入出力ボードDCシリーズを販売、CG(キャラクタージェネレーター)製品などにも力を入れており、コンシューマーからプロシューマー向けまで、非常に幅広い層向けの製品がラインナップされている。
 そして、最近のノンリニア編集機器関連ではDVノンリニア編集システム用のDV500などコンシューマー向け製品の出荷が続いていた。そのようななかで、Pinnacle Systemsが久々に投入した業務レベルから放送レベル向けのビデオ入出力ボードがTARGA3000だ。

■TARGA3000のスペックを支えるHUB 3(図1)

TARGA3000はD−1解像度・非圧縮ビデオプロセッシングでリアルタイムトリプルストリームに対応したビデオ入出力ボードで、3ストリームの非圧縮映像+6ストリームのグラフィックス映像をリアルタイムに扱える(図2)。それに伴いPCIのバンド幅を上げるために、64ビットのPCIバス幅をもっている。しかし、外見上は非常にシンプルなシングルボードだ。
 扱える映像はYUV(4:2:2)、YUVA(4:2:2:4)、RGB(4:4:4)、RGBA(4:4:4:4)で、GBAの場合1ストリームが42Mバイト/sなので、3ストリームの場合126Mバイト/s流れることになる。また、TARGA3000は非圧縮映像のみでなくDVやMPEG2コーデックの圧縮映像も扱うことができる。この場合は現時点では2ストリームの動画映像プラス7ストリームのグラフィックスを扱える(近い将来ソフトウェアのアップデートで4ストリームの動画がリアルタイムで流せるようになるらしい)。これらの圧縮映像は非圧縮映像と混在してもリアルタイム再生できるようになっている。
 実は、これら膨大なビデオデータを流せる背景には、同社が開発したHUB 3(ハブスリー)プロセッサーに組み込まれたメモリー・セントリック・アーキテクチャーにある。
 このHUB 3は5つのA/V入出力ポートをもち、それぞれのポートが非圧縮のデジタルビデオ信号と8つのデジタルオーディオをサポートすることができる。また、128ビット(100MHz)メモリー使用時におけるメモリー・インターフェースへの帯域帽はDMA(ダイレクトメモリーアクセス)により1.5GBpsを有し、理論上75ストリームの4:2:2非圧縮ビデオ映像をリアルタイム転送でさるというすごいスペックをもっている。そして、デジタル映像は8ビット、10ビット、16ビットが扱え、4:4:4:4または4:2:2:4サンプリングで最大2048×2048の解像度をサポートできるという。このスペックを見ると将来的にはHD(ハイビジョン)映像のリアルタイム編集をも可能にしてくれる可能性さえ感じさせられる。
 メモリー・セントリック・アーキテクチャーのすごさは、3ストリームの非圧縮映像+6ストリームのグラフィックスすべてに別々にかけたスケーリングやキーイングなどのエフェクト処理を、これまたすべてリアルタイムで処理してくれるところだろう。この秘密はHUB 3内ですべてのデータをいったんピクセルアレーとして格納し、すべての処理を行った後に最終データのみを新たなピクセルアレーとして更新し、この新たにつくられたピクセルアレーだけがビデオフォーマットに変換されて出力される仕組みによる。いずれにしても膨大な帯域幅を有している必要があるわけだが、そのためにPCIスロット部も64ビット幅を採用し、HUB 3とのバンド幅は200Mバイト/秒の転送スペックを保持している。


図1 メモリー・セントリック・アーキテクチャー

図2 3ストリームの非圧縮映像+6ストリームのグラフィックス映像をリアルタイムに扱える

■Premiereで編集作業を行う

 TARGA3000には現段階では編集ソフトとしてAdobe Premiere5.1cが同梱されている(図3)。今後はin−Sync Speed Razor 2000やdiscreet editにも対応予定となっている。
 Premiereを実際に使ってノンリニア編集してみると、Pinnacle Systemsのオリジナルプラグインにより、TARGA3000の機能が充分に引き出せるようになっていることがわかる。
 まず、Settingパネルではキャプチャーするビデオフォーマットや人出力データの選択、設定、setupレベルの設定、GenLock設定、MPEG出力時の圧縮レベルの設定などが行えるようになっている。また、SMPTEなどの基準映像信号や基準オーディオ信号の出力もできる(図4)。
 また、Premiereには標準では音声のモニターは付いていないが、TARGA3000にはPinnacle Systemsの他のシステムと同様にTARGA Peak Meterがついており、キャプチャー時や編集時、再生時に常にチェックすることができる。これは実作業では当然必要なものであり、非常にありがたい。
 VTRコントロール用にはサードパーティPipeline DigitalのPro VTR Ver.6が同梱されている。Pro VTRはシンプルながら非常に信頼できるプラグインで、デジタイズやマスター出力時にVTRを完璧にコントロールすることができる。マスターテープの作成時など非常に安心して作成できる。


図3 TARGA3000で用いるPremiereの操作画面全体

図4 Settingパネルでは、SMPTEなどの基準映像信号や基準オーディオ信号の出力設定もできる。
DVDのコーデックではレート設定も可能

●豊富なトランジションエフェクト

 さて、TARGA3000の機能を最も引さ立てるのがトランジションエフェクトだ。
 TARGA3000のトランジションにはTARGA3000 Transition(図5)とTARGA Magic(図6)が搭載されており、Premiereのトランジショントラックで使用する。もちろんこれらのフィルターはすべてリアルタイムで処理される。
 TARGA3000 Transitionはごく普通の映像を切るトランジション、9つのグループからなり合計241種類搭載されている。これらのエフェクトはエフエクトパターンを変えたり、キーフレームをカスタマイズすることができる。
 TARGA3000に搭載された、映像がにじみながら切り替わるトランジション効果はTARGA Magicと呼ばれる。いわゆるグラジュエーションワイプなどとも呼ばれるが、これには8つのグループ、合計401種類ものパターンが用意されている。もちろん、カスタマイズも自由だ。用意されたパターンのボーダーカラーやボーダータイプ、ソフトネス、ブレンドを変更することで個性豊かなエフェクトをつくることも可能だ。もちろん自分で作成したアルファーパターンを使用することもできる。
 いずれのトランジションも当然リアルタイムで扱え、品質もPinnacle Systemsらしいクオリティをもっているので業務でも安心して供用できる。
 このほかに同社が買収したHollywood FX(図7)フィルターも同梱されている。このフィルターは3次元でのトランジションエフェクトを可能にするもので、非常にアグレッシブなパターンを制作することができる。その反面常用するにはつらいかもしれないが、単発で使用することでインパクトを与えられるだろう。品質は若干荒くエッジのジャギーがでてしまうため、業務で使うには少しつらい。このフィルターはリアルタイムでの使用はできないが、高速レンダリングが可能となっている。


図5 TARGA3000 Transitionは9つのグループからなり合計241種類搭載されている。
カスタマイズにより独自のワイプパターンをつくり出せる(左下)


図6 TARGA Magicは8つのグループ、合計401種類ものパターンが用意されている。
カスタマイズにより非常に効果的なエフェクトをつくることができる。
上段はMorning Starの設定パネルとその効果。下段はBlack Holeの設定パネルとその効果


図7 Hollywood FXはアグレッシブなエフェクト効果が得意だ

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ビデオアルファ2000年12月号