映像制作


 パソコンを使ったノンリニア編集システムは、いまやビデオ制作の関係者にとって最も関心のあるところだと思う。ここにさて、ハードウェアの性能もかなり良くなってきたため、オフラインからオンラインまでこなせるようになってきた。また、最近ではデュアルストリーム対応ボードの出現でリアルタイムエフェクトも可能となっている。放送業界では圧倒的にAvidのMedia Composerなどが支持されているが、Avidでなければならない理由はどこにもない。導入時のコストを考えるとほかのシステムのほうがはるかにコストパフォーマンスが良い場合だって多々ある。しかし、現在ノンリニア編集システムは多数存在するため、導入に際しての悩みも多いことだろう。
 ここでは、ノンリニア編集システムの基本的なことを知り、自分に適したシステム構築ができるようにお話ししよう。また、構築後のシステムアップを初め、注意点も付け加えてお話しすることにする。

◆ノンリニア編集システムとは◆

 ノンリニア編集システムは、パソコン、ビデオ入出力のためのハードウェア、そして編集のための編集ソフトウェアから成り立っている。これにパソコン用RGBモニター、ビデオモニターを初めビデオデータを記録するためのハードディスクなどが必要とされる。
 映像信号をデジタル信号としてパソコンで扱うことにより、いままでのテープ編集では考えられなかったようなランダム編集が可能となる。もちろんやり直しが何度でもきくので、試行錯誤の繰り返しが可能である。また、編集ソフトウェアを利用することで、ビジュアル的に編集作業が進められるので非常に効率が良い。これによりいままでビデオ編集をやったことがない人でもたやすく(最低限の努力は必要)ビデオ編集が可能となった。これらはノンリニア編集システムの最大のメリットといえる。最近では価格も安くなり、画質も良くなってきたので、いままで使用していたポストプロのビデオ編集室を使用せず、プロダクション内で編集するケースが増えている。経済的にもメリットがあるといえる。
 しかしその反面、弱点もある。長尺の場合、ビデオデータをデジタル化するため、かなりのハードディスクの容量が必要となる。併せて、パソコンのOSの制限で1ファイル2Gバイトの上限があったりと、あまり長いビデオ編集には向いてないかもしれない。ただ、最近ではハードディスクの金額も安くなる傾向にあり、1ファイル2Gバイトの制限も編集ソフトウェアで擬似的になくしていたりするので、今後の展望は明るい。

◆Motion JPEG圧縮とDV、そして非圧縮◆

 ビデオをパソコンに入力し、そのままデジタル化させると、非常に大さなデジタルデータとなってしまう。これではハードウェアヘの負担が非常に大きく、正常にビデオ映像を記録したり再生することができない。そこで登場したのが、MotionJPEG(M-JPEG)という圧縮方法だ。この圧縮を使用することでデータ量を減らし、ハードウェアヘの負担を少なくすることができる。またこれにより、フルサイズ・フルモーションでのビデオ録画・再生が可能となった。M-JPEG圧縮は不可逆圧縮のため、圧縮比を大きくすると画質が劣化する。したがって、オフラインなどの使用目的では圧縮比を高め、オンラインでの使用目的では低圧縮・高画質で使用することになる。
 最近、注目を集めているのがデジタルビデオで使用されているDVコーデックを使用したノンリニア編集システムだ。デジタルビデオで使用されているDVはYUV4:1:1を使用し、さらに1/5圧縮(DVコーデックによる圧縮率は一定である)にされ、ビデオテープに記録されている。ここで使用されているDVコーデックは1/5圧縮にもかかわらず同じ転送レートのM-JPEG圧縮よりも非常に高画質だ。このビデオテープにデジタル記録されたDVデータをそのままパソコン上に移動し編集できれば、高画質を維持したまま編集作業ができることになる。DV入出力ボードには単にDVデータの入出力のみ行えるものと、DV圧縮/伸長機能をハードウェアで行えるハードウェアコーデック搭載のものがある(後述)。
 以前はハードウェアの負担を減少させるため、さまざまな圧縮方法が使用されてきたが、最近ではハードウェアの進化に伴い本当の画質を追求する動きがでてきた。そのため、ハイエンド向けに非圧縮のノンリニア編集システムも登場した。また、画質を犠牲にせずにデータの可逆的圧縮を行うロスレス圧縮も登場した。これは、データの圧縮は行うが、M-JPEG圧縮のようにデータを削減する方法ではないので、データを完全に非圧縮の状態に復元できる。そのうえ、非圧縮より小さいデータ量で扱えるので、ハードウェアの負担を軽減でさるというメリットがある


Media100xr。M-JPEG圧縮方式のノンリニアビデオシステム。標準でコンポジット、Y/C、コンポーネントのビデオ入出力に対応


Matrox DigiSuite。デュアルストリーム対応のロスレスノンリニアビデオシステム

◆画質を左右するビデオキャプチャーボード◆

 アナログビデオデータをデジタルビデオ信号としてパソコンに取り込むのに必要なのが、ビデオキャプチャーボードだ。ビデオキャプチャーボードは先に述ベたM-JPEG圧縮などを使用し、取り込み時に圧縮し、出力時に伸長してデータの復元をするためのハードウェアアクセラレーションを行っている。したがって、ここで映像信号をうまくデジタル化でさるかが画質を大きく左右する。
 画質を左右する条件には圧縮率の設定値は当然だとして、ボードのもつ基本的な性能(スループット)と圧縮/伸長による性能も関係してくる。したがって、同じ圧縮比で使用しても各種メーカーのビデオボードによって画質の違いが生じてくる。
 また、入出力されたビデオ信号は、RGBまたはYUVのコンポーネント信号でデジタル化されるので、入出力にはコンポーネントを使用したほうが画質面で有利である。少なくともY/C(S端子)を使用すればコンポジットより高画質での入出力が可能なはずだ。


TARGA2000RTX。M-JPEG圧縮方式のデュアルストリーム対応ノンリニアビデオシステム。標準でコンポジット、Y/C、コンポーネントのビデオ入出力をもつ。MacとWindows両対応

◆DVボードに違いはあるか◆

 デジタル信号であるDVデータを、IEEE1394端子を使用してデジタル入出力するのがDVボードだ。DVではIEEE1394端子1つでデジタル映像・音声信号の入出力からDV機器のコントロールまですべて行うことができる。最も普及しているボードはAdaptec社のAHA−8940とAHA−8945(UltraWideSCSI搭載)である。これをOEM使用し各メーカーが独自のドライバーソフトウェアと編集ソフトウェアを添付して製品化しているケースが多い。
 一方、独自にボードを開発しているところではRadiusなどがある。これらのボードはあくまでもDVデータの入出力のみを行っているだけだ。したがって、DV機器から取り込んだデジタルデータはそのままパソコンに入力されるため、ボードによる画質の違いは生じない。しいていえば使用する編集ソフトや合成ソフトの違いにより、映像の合成結果で微妙な違いは生じるかもしれない。また、DVデータを映像として見るときや、合成時にDVデータに変換するときにはパソコンのCPUに依存したソフトウェアコーデックを使用している。したがって、リアルタイムでの映像確認に難があったり、NTSCモニターでのモニタリングの際、DVカメラやDV VTRなどのほかのDV機器が必要になる。
 それらの問題を解消するために登場したのが、ハードウェアコーデックをもったDVボードだ。一般的にこれらのボードにはソニー製のDVコーデックチップDVBK-1が使用され、IEEE1394端子からダイレクトでデジタルデータを入力できるほかに、アナログビデオ・オーディオ信号の入出力を可能にしている。ハードウェアコーデックを搭載したことで、作成した編集データをリアルタイムで確認できたりするので、その生産性は格段に上昇する。
 余談だが、最近発売されたカノープスのDVRaptorはハードウェアコーデックではないが、ハードウェアコーデック搭載のDVボードのように扱える。これは、自分がもっているDVカメラのハードウェアコーデック部分を利用し、DVカメラの出力する映像部分をDVボードに入力しコンピュータ内に表示させることで、DVボードが表示しているかのようにして使用するものだ。これにより、コスト的にはソフトウェアコーデック搭載DVボードと同じ価格でハードウェアコーデックをもった使用感覚が得られる。

DVボードとUltraWideSCSlボードを1つにまとめたAdaptec社のAHA-8945は多くのDVノンリニアシステムに採用されている


DPS・SPARK Plus。Adaptec社のAHA−8945を採用したソフトウェアコーデックのDVノンリニアシステム


ProMAX FireMAX-2。Adaptec社のAHA-8945を採用したソフトウェアコーデックのDVノンリニアシステム


カノープス DVRaptor

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