映像制作


◆プロに必要なノンリニア編集システムとアマチュア用との違い◆

 アマチュアの場合、オフラインやオンラインで分けて考えることは少なく、導入コストを抑えながらも操作性やエフェクトの数など機能面での充実がほしいというのが本音だろう。時間はいくらでもかけられるが、お金はかけられない、しかし面白いエフェクトなどはほしいといった欲張りな考え方になる。
 しかし、プロにとって必要なノンリニア編集システムは、使用目的がある程度はっきりしている場合が多い。具体的には“オフラインでのみ使用する”、“オフラインからある程度のオンライン編集まで行う”、“完全にオンライン編集ができる”の3種類に大別される。そして、これらの目的を達成しつつ、操作性や作業効率、あるいは導入コストを充分に検討して導入することになるだろう。導入コストを少し削ったために作業効率の悪いシステムを構築してしまっては、最終的に損をすることになってしまうからである。ここで、先の3つの場合に分けて、導入検討時の注意点を考えよう。
 まず、オフラインでの使用を考えた場合。ここでは正確なカット編集とディゾルブやワイプなど基本的な編集能力と、オンラインで使用するためのEDLデータが出力できることが前提となる。したがって、ハードウェア的には高画質なビデオ入出力ボードは必要ないが、正確なタイムコードでの入力と編集ソフトがEDLデータの出力をサポートしていなければならない。ドロップフレーム、ノンドロップフレームにも対応していればベスト。
 オフラインからオンラインまで使用できるシステムを考えた場合。上記オフラインの条件に加え、オンライン使用に耐える画質が要求されるので、用途によってビデオ入出力ボードの選定が必要になる。
 完全なオンラインでの使用を考えた場合は、画質が最優先される。さらにテロップ機能やトランジションエフェクトの充実を初め、できればこれらがリアルタイムで操作でさるデュアルストリーム系のビデオ入出力ボードをもったものを中心としてシステムを構築するとよいだろう。

◆リアルタイムかレンダリングか◆

 パソコンを使用したノンリニア編集のトランジションやほかのエフェクトは、通常パソコンのCPUを使ってレンダリング(計算)されて処理される。したがって、その分どうしても計算時間(レンダリング時間)がかかってしまう。この時間をできるだけ短くするために、ビデオ入出力ボードにDSPチップを搭載し、エフェクト処理を高速化するなどの努力がされてきた。しかし、ここにきて、完全にリアルタイムでのエフェクト処理ができるリアルタイムボードが出現してきた。これは2chの同時再生が可能なデュアルストリームをもったビデオ入出力ボードと組み合わせて使用することで、2次元や3次元のエフェクトをリアルタイム処理することができるというものである。一般的にデュアルストリームをもったビデオ入出力ボードは、それ自体に2次元のリアルタイムアクセラレーション機能ももったものが多く、これに3次元のDVEやエフェクトをもったボードを組み合わせることになる。
 一般的な使用ではDSPチップによる高速エフェクトでも問題ないだろうが、作業効率を考えると、リアルタイムエフェクトは業務で使用する際、充分な能力を発揮してくれるはずだ。


DPS Perception RT。デュアルストリーム対応ノンリニアビデオシステム。標準でコンポジット、Y/C、コンポーネント、SDIのビデオ入出力をもつ


Matrox DigiSuite LE。デュアルストリーム対応ノンリニアビデオシステム。500kバイト/フレームをデュアルストリーム処理可能。標準ビデオ入出力はコンポジット、Y/C、コンポーネント

 

 

◆システムアップとワンポイントアドバイス◆

1)ノンリニア編集システムの構成とそれぞれの役割・コンピュータ

 すべての中心となるのがパソコン本体だ。この中にはCPUという演算チップが入っており、これによってすべての処理を行うことができる。Windowsでは一般的にMMX PentiumやPentium IIが使用されている。MacではPower PC604eやG3が使用されている。画像処理の面からいえば、G3のほうがPC604eよりも高速であるが、G3搭載機は本体内にPCIバスが3つしかないため、ノンリニア編集ではバスが不足する場合がある。
 また、キャプチャーボードがまだG3に対応していないものもあるので、注意が必要だ。

・ハードディスク

 OSをインストールするのに必要なのがハードディスクだ。ここにはこのほか、いろいろなデジタルデータを記録することができる。当然映像データも記録できるわけだが、ノンリニア編集の際は、ほかのデータとは分けた映像専用ハードディスクを用意する必要がある。ハードディスクの性能にはデータの記録速度や読み取り速度、そして転送レートが挙げられるが、どちらかというと高速で安定した転送ができることが第1条件になる。転送レートはハードディスクによって違いがあるが、RAIDを使用しハードディスクを複数台使用することで全体のパフォーマンスを上げることができる(後述)。しかし、搭載されたSCSI規格で最大に流せる転送レートの上限が決められている(SCSIアクセラレーターのところを参照)のでそれ以上の転送速度は望めない。ここも注意が必要だ。

・SCSIアクセラレーター

 SCSIアクセラレータカードは、コンピュータからのデータをハードディスクに受け渡すインターフェースカードである。SCSIの規格でその上限は決定されている。SCSI Tは5Mバイト/秒、Fast SCSIは10Mバイト/秒、WideSCSI、Ultra SCSIは20Mバイト/秒、Ultra WideSCSIは40Mバイト/秒、最近登場したUltra2 Wlde SCSIは80Mバイト/秒までに対応している。

・VTR

 撮影されたビデオ映像をデジタイズするのにはVTRが必要だ。VTRに9ピンコントロールが付いていれば、コンピュータ側から操作することも可能だ。この場合、編集ソフトがディバイスコントロール機能をもっていなければならないが、サードパーティから単体やプラグインとして使用するものなどが販売されているので、これらを利用する手もある。

・RGBモニター

 パソコンの表示モニター。編集ソフトを使って編集する際に必要になる。17インチ以上の解像度の高いモニターを使用したほうが編集作業がやりやすい。また、NTSC信号をパソコンのRGBモニターでモニタリングするには、NTSCモニターと同じガンマ値2.1に合わせておく必要がある。

・NTSCモニター

 編集している映像信号をモニターするのに必要なのがNTSCモニターだ。NTSC信号を常に監視することで失敗のない映像編集を行える。


Pinnacre ReelTime。デュアルストリーム対応ノンリニアビデオシステム。標準ビデオ入出力はコンポジット、Y/C、コンポーネント


Adaptec社Ultra2 SCSIアクセラレーターPowerDomain2940U2W。最大データ転送速度80Mバイト/秒。LVD(低電圧ディファレンシャル)信号伝送方式の採用で最大12mまでのケーブル長をサポート

2)圧縮率と画質

 圧縮率と画質の関係は本文中でも述べているが、M-JPEGを使用したビデオ入出力ボードの場合、自分に必要な画質(最終使用目的)をどのあたりにおくかをまずはっきりさせる必要がある。無駄に画質を上げても、使用データ量が大きくなるばかりで、編集作業にストレスを生じるだけだ。
 DVの場合、圧縮率は一定の1/5に国定されている。また基本的な画質は最初に記録された映像データが最後まで反映されるので、撮影の際に高画質で撮影する必要がある。また、出力時にアナログ変換(ビデオ出力)をする際、そのシステムの画質を左右する要因が生じる。

3)RAID(ディスクアレー)について

 RAID(ディスクアレー)とはハードディスクを複数台使用して、データを分散記録することで、1台のハードディスクの能力以上の性能をトータルで発揮させようというシステムだ。この方法は俗にストライピング接続とも呼ばれているが、これ以外に、同じデータを複数台のハードディスクに並行記録することで、万が一のセキュリティに対応させたものもある。そして、これらを組み合わせたものもある。
 ノンリニア編集で使用する際に使うのはストライピング接続である。デジタルビデオデータを高速に安定して流すには、ディスクアレーシステムが不可欠である。しかし、最近は1台のハードディスクでもかなりの転送速度をもったものが現れてきたため、使用する圧縮率によってはこれらの高速ハードディスクでも充分対応が可能となった。DVの場合、転送レートは3.6Mバイト/秒と決まっているので高速ハードディスク1台でも充分だ。


Adaptec社Macintosh対応RAIDアレーソフトウェアREMUS/REMUS LlTE

4)システム構築時の注意点

・MacとWindows

 いままで、パソコンを使用したことがなかった人が導入する場合は、しいていえばMacのOSのほうがすぐ使えるようになるといえるが、ノンリニアシステムを構築する場合、プラットフォームとしてMacがいいかWindowsがいいかは、現在自分がどんなパソコンを使用しているかで決めればよいくらいで、はっきりどちらが有利かとは断言できない。現在MacユーザーにはデザイナーやDTPの制作者が多く、Windows系ではビジネス系やCAD、CG系のユーザーが多いので、今後付き合うであろうこれらの人たちとの、データの受け渡しも考慮したほうがよいかもしれない。しかし、現実には編集時には編集ソフトを使用して行うので、自分に合った編集システムが組めるマシーンを選ぶことになるだろう。

5)ノンリニア編集システムにおけるタイムコードと同期信号の扱い

 業務レベルでノンリニア編集を行うにはタイムコードによる映像管理が必要になるため、映像と同時にかならずタイムコードを記録しなければならない。これはディバイスコントローラーの付いた編集ソフトやサードパーティ製のソフトを使うことで解決できる。これによって、オフライン、オンラインでの使用が確実に行える。また、ある程度の価格のビデオ入出力ボードには同期信号用の入出力を備えたものやアルファ出力を備えたものもある。これらは、GPI信号により編集機からノンリニアマシーンを走らせるとさに映像の同期をとることができる。

ビデオシステムと機材98-99