日経CG2000年2月号

テープ編集とノンリニアビデオ編集が融合した
ビデオ制作システム Trinity

問い合わせ●メメックス TEL(0466)35-0815 【URL】www.memex.co.jp 稼働●OS●Windows NT 価格●ベースシステムが94万1800円。映象入出力モジュールが別途必須。TimeMachineは72万4300円 出荷●1999年10月(Trinity V2.0ソフトウエア)

米Play社の統合型ビデオ制作システム「Trinity」(図20)は,これまで紹介してきたビデオキャプチャボードやノンリニアビデオ編集システムとは若干異質のものだ。というのも,Trinityは映像のスイッチングをはじめ,リニア編集(テープ編集)を行える上に,先ごろ登場したバージョン2.0からはオプションの「TimeMachine」を使用して,ノンリニアビデオ編集が可能となったからだ。つまり,映像の編集をリニア,ノンリニアの混在で行えるのだ。
 今回のバージョン2.0で,TimeMachineが加わったことでTrinityの目指す世界はほほ完成されたといっていいだろう。では,Trinity V2.0とTimeMachineの世界を見てみよう。


図20●Trinity本体

すべての処理をハードで処理するシステム

 Trinityの構成だが,Trinity本体とパソコンのPCIスロットに装着する「VideoNetカード」をケーブルで連結する。Trinityの処理は,すべてTrinity本体のハードウエアで行われるので,使用するPC自体の性能は高くなくても大丈夫だが,ほかのソフトウエアとの連携を考えた場合は高速のものに越したことはない。
 ハードウエアであるTrinity本体の中身はTrinityマザーボードに,パソコンとの信号の受け渡しをする「Coordinatorカード」,ビデオ入力用の「VideoInputsカード」,エフェクトを処理する「WarpEngineカード」,静止画キャプチャ用の「FrameStoreカード」,スイッチング用の「ProductionSwitcherカード」,パソコン上に映像をオーバーレイ表示させる「Clip Grabカード」,映像出力用の「Video Outputカード」などから構成されている。
 入出力のカードは,使用する映像機器により,コンポジットS-VHS,コンポーネント,SDIなどを選択し,組み合わせて使用する。このほかに,ノンリニアビデオ編集用のTime Machineカードを挿入し,最高6台までのハードディスクをノンリニアビデオ編集用として内蔵できる。

パワフルなTrinity Switcher

 バージョン2.0からは,「Trinity Switcher」(図21)などのソフトウエアが強力になった。見た目もずいぶんと高級感が増している。
 Trinity SwitcherはTrinityでライブ映像を制作するための心臓部だ。8つまでのビデオソース,2つの静止画,1つのアルファチャンネルなどのキー情報を持ったマットなど,すべてをリアルタイムに,D1品質で扱える。
 Trinity Switcherにはディゾルプ,フェード,映画やテレビの標準規格のワイプであるSMPTEワイプ,カラーコレクション(色調整)のほか,Trinity独特の機能として,ソフトエッジオーガニックワイプ,24ビットグラフイックスによるアニメーション,特定の色だけを別の色に変換するカラーリマッピングエフェクトなどを処理できる。CGアニメーションによるトランジションはTrinityの独特の世界を制作できる。


図21●リアルタイムにビデオを制作するためのTrinity Switcher

Personal FXでエフェクトのカスタマイズをする

 Trinityではハードウエアの「ワープエンジン」を使用することで,ライティング,影付け,透過効果付きのフライングビデオスクリーン,スフェア(球),キューブ,ページめくりなどの3次元ビデオエフェクト(3D DVE)をリアルタイムに処理できる。そのDVE効果をカスタマイズするのが「Personal FX」(図22)だ。
 あらかじめ用意された3Dオブジェクトを使ってモーション,形(シェイプ),フォント,グラフィックスなどをビデオレイアウトスクリーンへドラッグすることによって制作できる。ビデオレイアウトスクリーンにドラッグされたパーツは,移動,回転,拡大縮小,ストレッチを任意にできる。キーフレームも設定できる。用意された3次元形状以外に,Light-Wave3DやSoftimage3D,ElectricImageで作成したモデリングデータも使える。バージョン2からはElectricImageで作ったモーフィングデータも取り込める。ElectricImageのレンダーエンジンも搭載されたので,レンダリングしたオブジェクトをライブビデオと合成して使用することも可能になった。
 ビデオ編集ツールの「Preditor」(図23)では,リニア編集とノンリニアビデオ編集を融合させたビデオ編集を行える。今回のTimeMachineの登場により,ノンリニアビデオ用に2トラックとビデオ入力に最高8つのトラックまでを使用して編集していく。
VTRはRS-422シリアルポートを使って4台までのVTRをシリアルコントロールできる。


図22●エフェクトのカスタマイズをするPersonal FX

図23●ノンリニアビデオ編集とテープ編集を同一にあつかえるビデオ編集ソフトのPreditor

なんとか日本語が扱えるようになったキャラクタジェネレータ

 Trinityで文字やグラフィックスを出力する機能を果たすのが「TitleWave」(図24)だ。TitleWaveはテキストのアンチエイリアス,複数色のグラデーション,24ビットのテクスチャ,透過効果,ボーダー(境界線),シャドウなど,数々のテキストエフェクトをサポートしている。TrueTypeやPostScriptフォントなどを使用できる。しかし,これまでは日本語が表示できない不便さがあった。
 バージョン2では,TitleWaveに直接キーボードから文字を入力することはできないが,WindowsNTに付属する「メモ帳」といったテキストエディタに,一度文字を打ち込んでそれをコピーし,Title-Waveの文字入力フィールドにペーストすれば日本語を表示できる。これにより,日本語フォントでも,Trinityのパワフルなワーピングエンジンを併用することで,文字をひねったり,めくるような効果を与えたり,スピン,爆発,ペンド(曲げ)などの特殊効果までもが思いのまま使用できる。このほか,アニメーションロゴなどもこのエディタで制作できる。


図24●テキストにさまざまなエフェクトを加えられるキャラクタジェネレータのTitleWave

Panamationでペイントしたものをアニメーションに仕上げる

 「Panamation」(図25)はペイント合成エフェクトツールだ。オブジェクト指向のペイントのため,ペイントしたものをアニメーションさせることができる。ライブビデオソースに直接リアルタイムにペイント作業や透過効果を施したりできる。カスタマイズしたブラシストロークも使用でき,オブジェクト単位でポジションニング,リサイズ,回転,カラーライズ,透過効果,シャドー,アニメーション,スカッター効果(粒子分解)などを実行できる。2.0では,これらのフィルタ類も増えた。


図25●ペイントツールのPanamation

バーチャルセットの制作をこなせる

 Trinityでは3次元CGとライブ映像を合成してバーチャル空間を作ることができる。Trinityで言うバーチャル空間とは,ライブ映像の影をバックの3次元CGに映り込ませること(図26)。今回のバージョンから,ElectricImageのレンダーエンジンを搭載したことで,本格的なシステムに近づいた。
 Trinityの機能が多いだけに説明も大変だが,新しく追加された機能やインターフェイスの改良など理想のビデオ制作マシンに近づいたといえる。ただ,注意したいのはTrinityはリニア編集やライブスイッチを重視していることから,単にノンリニアビデオ編集しか必要のない人や,ソフトウエアによる合成を考えている人にとっては,Trinityよりもほかの製品のほうが向いているだろうということだ。あくまで使い方を考慮して購入した方がいい。
 今後のTrinityの方向として,筆者としては,非圧縮ノンリニアビデオ編集への対応と,オートトラッキングなどに早く対応してくれればと思う。このあたりの機能が揃えば,数千万円から1億円以上もする高価な英QuantelやDiscreetの超ハイエンドなビデオ制作マシンと同じようなことが,低コストで可能になるからだ。           


図26●CG映像に実写映像を映り込ませられるバーチャルセットを制作可能
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