3次元CGソフト

●大きな発表がなかった3次元CG分野放送よりもゲーム関係に軸足か?

 3次元CGソフトに関しては,今回のNAB2000で初めて発表されるというような,大きな発表はまったくなかった。
Avidの3次元CGソフト「SOFTIMAGE|XSI」(コードネームSumatra)は数年前から発表され続けていたもので,本来なら,既に市場に出回っているべきものだった。
 加Alia|Wavefront社の3次元CGソフト「Maya3.0」も発表の第1弾は,2000年3月のGDC(Game Developers Conference)だった。Alias|wavefront社もAvid社も,今後はゲーム関連を大きなターゲットと見ており,3次元CGソフトメーカー各社にとっては,放送関連機器展のNABはもはや大きな発表の場とは考えていないのかもしれない。

●米Avid「SOFTIMAGE|XSl」を5月末に出荷へ

加SOFTIMAGE(米Avid社の一部門)は,同社が開発しているハイエンド3次元CGソフトの新版「SOFTIMAGE|XSI」(図12)を2000年5月31日に米国で出荷すると発表した。
 XSIは最近まで「Sumatra」というコードネームで呼ばれていたソフト。次世代のハイエンド3次元ソフトとして注目を集めている製品だが,出荷が予定よりも大幅に遅れていた。今回は,ようやく出荷にこぎつけられそうだ。
 発表会場では出荷予定の同社のビデオ編集合成エフェクトソフト「SOFTIMAGE|DS」との連携に関してもデモが行われた。
 稼働OSはWindows NTとSGIのIRIX。価格は通常のSOFTIMAGE本体「Essentials」が7995米ドル。「Advanced」が1万1995米ドルの予定で,これはEssentialsにパーティクル(粒子の動きをシミュレートする機能)や,ソフトボディ(人体など柔らかな物質の動きをシミュレートする機能)が加わり,SOFTIMAGE用のレンダリングソフト「MentalRay」が2ライセンス付く(Essentialsでは1ライセンス)。


図12●SOFTIMAGE|XSlの画面

●加Alias|Wavefrontの「Maya3」 6月に日米同時発売

 Alias|Wavefrontの3次元CGソフトの最新バージョン「Maya3」(図13)は今年6月に日米同時に発売される。また,昨年発売された「Maya2.5」に搭載された「Paint Effects」(植物や炎,髪の毛やパスタなどの立体感がある画像を,ペンで線を描く感覚で作成できる技術)を,アドビシステムズの2次元ビデオエフェクト
ツール「Adobe After Effects4.1」用プラグインとして,今年夏にやはり日米同時に発売することを明らかにした。
 Maya3はこの2月に同社が概要を公表している。設定したアニメーションを切り貼りするなどして,ノンリニアビデオ編集の感覚でモーションを編集できる「Trax」,ポリゴンのモデリングを元に丸みを持ったモデリングができる「サブディビジョンサーフェス」,3次元モデルに直接テクスチャの色やバンプをペイントできる「テクスチャペイント」などの機能を持つ。
 Maya3のラインナップで,ハイエンドモデルの「Unlimited」(1万6000米ドル)とミッドレンジモデル「Complete」(7500米ドル)では,レンダリング用のプログラムをインストールできるコンピュータの数を無制限とする「ユニバーサルレンダリング」という椀念を導入している。ユニバーサルレンダリングのない「MayaBuilder」は,2995米ドルで発売される。
 Paint Effectsのプラグインは,AfterEffects4.1だけでなく同社のビデオエフェクトソフト「MayaFusion2」用にも出荷される。Windows版のみで,米国内での価格は499米ドル。


図13●Maya3の画面

●米FAMOUS,表情のアニメーション制作に持化した
 ツールの新版を発表

 米FAMOUS Technologiesは,顔の表情のアニメーション制作ができるツール「FAMOUSfaces」(図14)の新版を,6月頃に出荷する予定である。
 Maya,SOFTIMAGE,LightWave3D,3DStudio MAXなどの3次元CGソフトで作ったモデリングデータに,モーションキャプチャーデータなどを入力すると,顔の細かい動きを自動で生成しアニメーションを作り出す。
 6月頃にバージョンアップする製品は,NURBSで作られたモデルに対応する。従来は,ポリゴンで作成したモデルだけに対応していた。また,顔に目印を付けた人の表情を撮影したビデオ画像から,その目印の動きを自動抽出してFAMOUSface上でアニメーション制作に利用する「vTracker」というソフトもある。デモ版は,同社のWebページからダウンロードできる。
 価格はFAMOUSfaces,vTrackerとも,各4990米ドル,2つのソフトのセットが7990米ドル。Windows NT上で稼働する。日本での発売予定は未定とのことだ。


図14●FAMOUSfaces

その他

●簡易型のバーチャルヒットシステムに化ける可能性があるカメラが注目集める

 このほかの展示で目を引いたのはカメラである。とりわけイスラエルDreamTeam社や3DV Systems社のカメラは注目すべきだ。ブルーバックを使わずにクロマキー合成のようなリアルタイム画像合成ができるからで,バーチャルセットの代わりになるかもしれない。最初はカメラ自体が高価だろうが,将来は安くなる可能性がある。

●カメラトラッキングなどをソフトだけで処理するDreamTeamの技術

 イスラエルDreamTeam社は,特別な設定をしないでも,ソフトウエア技術だけでビデオカメラで撮影した実写と3次元
CGをリアルタイムで合成し表示できるカメラトラッキング技術「TotalTrack」(図15)と,手ぶれが発生した映像を手ぶれを抑えた映像にするスタビライゼーション技術「SteadyView」(図16)を開発中であると発表した。出荷時期や価格は未定。
 カメラトラッキング技術「TotalTrack」は,リアルタイムに3次元CGと実写映像を合成するようなバーチャルスタジオを制作するのに使える。通常,実写と3次元CGをリアルタイムで合成するには,カメラにセンサーなどの特殊なハードウエアを取り付けて,カメラがどのように動いたのかを検出し,その結果をCG表示システムに渡す必要がある。CG表示システム側では,受け取った情報をもとに,表示するCGの向きや大きさを変える。
 「TotalTrack」を使うと,特殊なハードウエアがなくても,ソフトだけで実写映像から自動的にカメラの動きを計算し,その結果を用いて3次元CGを表示できる。
カメラのパン(左右に動かす),ズームなどの動きに対応。
 スタビライゼーション技術「SteadyView」も特別なハードウエアなしで,手ぶれなどでゆらゆらと揺れた映像に対して,3脚を使ってカメラを固定して撮影したかのように,揺れを抑えられるソフトウエア技術。録画済みの映像だけではなく,生で撮影した映像に対してもスタビライズをかけることができる。


図15●カメラトラッキング技術のTotalTrack

図16●カメラのプレを低減するスタ
ビライゼーション技術のSteadyView

●ブルーパックなしで画像合成できるカメラ「Zcam」の出荷は来年から

 ブルーバックを使わずに,クロマキー合成のようなリアルタイム画像合成ができるカメラ「Zcam」(図17)を開発したイスラエル3DV Systems社は,2000年内に同製品を実用化する計画を明らかにした。
 展示ブースにいた担当者によると,まず年内はカメラ単体で販売することはなく,サポートスタッフとともに機材をレンタルする。来年にはカメラ単体として販売を開始したいとしている。価格は未定だが,20万米ドル程度になるかもしれないという。
 同社は日本ビクターと提携している。提携の内容は,Zcamをより小さなビデオカメラに搭載するために,光学系のノウハウを持つ日本ビクターがZcamの光学ユニット部分を開発するというもの。
 Zcamは,赤外線でカメラから被写体までの距離を測定し,あらかじめ設定した距離より遠い場所の画像を切り取って表示する。たとえ複雑な背景が後ろにあっても,切り抜きたい被写体と背景との間に距離があれば,背景は自動的にカットされ,通常の画像合成手法であるクロマキー合成時のブルーバックは必要なくなる。
 なお,同社は立体視にも力を入れている。Z方向の情報が得られるので,一つのカメラから左右両眼の映像をコンピュータで算出できるからだ。立体視のための映像をRealNetworksのビューワ「RealPlayer」上に表示するストリーミング用プラグインも展示していた。 


図17●99年型よりも小さくなった,Zcamのプロトタイプ
日経CG2000年5月号
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