■ノンリニア編集って何だろう?

 ノンリニア編集とは,テープで収録された映像データやフィルムで撮影された映像データをいったんコンピュータのディジタルデータに変換し,このデータをコンピュータ上でディジタル編集することである。ディジタルデータとして扱うことで,時間軸を考えずに自分の好きなところから好きなように編集していくことが可能である。仮に途中のカットがいらなくなっても後ろのカットを前にずらせばよい。これはビデオテープを使った編集では考えられないことである。
 これから分かるように従来のチープ編集の方法論とは比べものにならないほどの豊富な編集アプローチができる。“ノンリニア”という意味は,時間軸を気にしないで編集できるということなのだ。
 また,従来のビデオ編集はタイムコードという数字を中心に扱っていたので熟練者でないと分かりにくいという側面があった。ところが,ノンリニア編集ではソフトの力を借りることで,素材映像をビジュアル化し,それらをグローバルに見渡せるので,初めて使う人でも扱いやすくなっている。編集ソフトによっては,機械が苦手な人から完全なプロフェッショナルまで幅広い対応も可能である。
 そして,映像をディジタル化したことで単に編集するにとどまらず,ディジタル合成やディジタルエフェクト(図8)などを駆使でき,非常に高度な映像を作り出すことができるのも魅力である。机の上のパソコンでスピルパーク風映像を作り出すことも,時間と才能さえあれば決して不可能ではない。しかも,冒頭で述べた非常に高価なハイエンドシステムを用いなくてもパソコンを使ってある程度のことまでなら可能である。パソコンを使ったノンリニアシステムは,リアルタイム性や画質面で比較するとまだビデオ編集やハイエンドノンリニアシステムに歩があるが,コスト面ではるかに有利だと言えるだろう。
 ところで,先に述べたビデオで言う仮編集(オフライン編集)はノンリニア編集にはあるのだろうか。
 ノンリニア編集の場合,扱う素材が低画質(高圧縮)の場合はオフラインに当たり,高画質(低圧縮または非圧縮)の場合はオンライン編集に当たる。通常,素材の多いオフライン時は,ハードディスク容量を節約し,システムのパフォーマンスを上げるために低画質(高圧縮・低容量)で編集を行う。編集にはワイプやオーバーラップなどの特殊効果もかけて完成させる。一度編集を完成させると,ここでできた編集データを使用してオンライン編集を自動的に行うことができる。ビデオ編集(リニア編集)のようにオンライン編集を再度行うことは必要なく,当然エディットシート出しも必要ない。この辺のところは次回にでも詳しくお話ししたい。


図8●After Effectsの強力なライバルとなるEyeon社のディジタル合成/エフェクトソフトDigital Fusion

■教育や研究分野にも向く

 ノンリニア編集システムはビデオ制作者をはじめ学校,企業,イベント業界,医療関係,CGクリエータなど幅広い分野で使用され始めている。
 なにより,楽しみながら編集できるので,学校や企業で導入しても決して遊ばせることはないだろう。今までのように購入はしてみたがあまり使わず,最後には挨をかぶったままのテープ編集機のようにはならないだろう。
 ノンリニア編集システムでは,映像素材をディジタルデータで管理しており,しかも映像素材はビジュアルですぐ確認することができる。したがって,研究資料の作成や学会発表資料を作成する場合の管理がとてもやりやすい。このように考えると,ノンリニア編集システムを教育や研究の現場で利用するメリットは非常に大きいと言える。

■CGアーティストの仕事の幅が広がる

 今まで3次元CGソフトだけでCGを制作してきたCGデザイナやCGアーティストも,今後は編集ソフトや合成ソフト,エフェクトソフトなどいろんなソフトを組み合わせて使用する機会が増えだろうと思われる。なぜなら,今までと同じ映像を作るにしてもこれらのソフトを効果的に使うことで,レンダリング時間の節約や,制作時間の短縮を図ることができるからだ。
 また,今まではハイエンドシステムを持つポストプロダクションでしか不可能だったディジタル合成やディジタルエフェクトが一般のパソコンでも十分可能となったことで,ディジタル合成やディジタルエフェクトの分野もますます盛んになることが予想される。CGデザイナやCGアーティストが才能を発揮できる分野がさらに広がろうとしているのである。


 今回は従来のビデオ編集とノンリニア編集についてざっと話してきたがいかがだっただろうか。
 次回は現在売られているノンリニア編集システム(ビデオ圧縮伸張ボード)について,さらに詳しくお話ししたい。
 なお,このコーナーヘの質問やご意見があれば編集部宛にどしどしお寄せいただきたい。できるだけ,お答えしていきたい。また,筆者の主催するインターネットのWeb上でも質問を受け付けているのでちょっと覗いてみて欲しい(http://www.b-artist.com)。 

日経CG1998年1月号
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