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■ノンリニア編集システムの構成はどうなっているのか?
ノンリニア編集システムには,編集ソフトとコンピュータ,ビデオ圧縮/伸張ボードが一体になった専用システムと,パソコンにビデオ圧縮/伸張ボードを組みこんだシステム(図6)に大別できる。
専用システムの場合,ノンリニア編集に特化しているため,操作性は良いが他の汎用ソフトを使用することはできない,という欠点がある。
一方,パソコンにビデオ圧縮/伸張ボードを組みこんだ場合,自分の目的にあったシステムを構築することができる。
予算,目的にあわせて,システム化すればよい。汎用ソフトを使い分けられるので,制作の幅を広げることもできる。日経CGの読者の場合は,こちらが向いているのではないだろうか。
パソコンを持っている人がノンリニア編集を始める場合,その心臓部であるビデオ圧縮/伸張ボードと映像編集用の編集ソフトまたは合成ソフトを買うことから始まる。
しかし,それらに必要な周辺機器も忘れてはならない。そこで,ノンリニア編集システムの周辺機器についてちょっとお話ししよう。
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図6●ノンリニア編集システムの一般的な構成 |
■ノンリニア編集システムの周辺機器SCSIとハードディスクについて
表1●SCSIのタイプ別転送レートの上限 |
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ノンリニア編集システムの周辺機器でまず必要になるのは,ハードディスクだ。そして,コンピュータとハードディスクをつなぐインタフェースも必要になる。
コンピュータとハードディスクをつなぐインタフェースにはIDEとSCSIの2種類があるが,SCSIの方がCPUに負担をかけないので,ノンリニア編集では一般的にSCSIタイプが使用される。
表1に,SCSIのタイプ別の転送レートを,表2に圧縮率と転送レートの関係を示した。表1と表2を見て,必要なSCSIボードを取り付ければよいだろう。
このSCSIボードはあまり買い換えることもないだろうから,転送レートに余裕を持たせて,狙い目よりちょっと上の方を買った方がいいだろう。
さて,肝心なハードディスクについて述べよう。
まず,自分が目的とする画質を得るためにはどれくらいのデータ量を流さなければならないかをよく知っておかなければならない。もし,将来高画質な編集をしたいのなら,けちけちせずに始めから転送レートの稼げるものを買った方が後々得をする。これは肝に銘じてほしい。
ところで,ハードディスクの性能を見るのにシークタイムやアクセスタイムなどがあるが,ノンリニア編集で最も大切なのは転送レートである(図7)。しかも,瞬間の転送レートではなくいかに安定してデータを流し続けられるかが重要である。また,SCSIのタイプにより最大で流せるデータ量は決まるが,これはあくまでも最大値であって,そのSCSIにつないだハードディスクの能力が上がるわけではないので注意してほしい。
パソコンに最初から付属するハードディスクの転送レートは大体2〜4Mバイト/秒くらいだろう。高遠ハードディスクの場合4〜8Mバイト/秒くらいは流せる。最近ではSeagateのCheetaのように10Mバイト/秒を超えるものもある。これは正直言って驚異である。
とは言ってもハードディスク1台で流せる量は高々10Mバイト/秒程度である。ということは,ハードディスク1台では1/2圧縮や非圧縮は扱えないことになる(表2参照)。では,10Mバイト/秒以上の転送レートを得るにはどうしたらよいかというと,そのような場合はディスクアレイを使用する。
ディスクアレイとはハードディスクをRAID接続したもので,接続する目的によりRAID0,RAID1,RAID2,RAID3,RAID5などの種類がある。これらは,ほとんどがパックアップのための接続で,ノンリニア編集に関係するのはRAID0だけ。RAID0接続を使用することでデータを数台のハードディスクに交互に割り振れるため,数台のハードディスクを見かけ上1台のハードディスクとして使用できるわけだ。これにより,ハードディスク性能をトータルで向上させることができる。このRAIDO接続のことをストライピング接続と呼ぶ。
ディスクアレイはハードウエア式のものもあれば,ソフトウエア方式のものもある。安上がりなのはソフトウエア方式だ。Macintosh用だとREMUSなどがあり,WindowsNTには標準で付いている。これらのソフトを使うと自分で簡単にRAID接続できる。なお,RAID接続するハードディスクは,なるべく同じ機種の方が相性がいいようだ。ディスクアレイについては機会があったらもっと詳しくお話ししたい。
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RAID:Redundan Arrays of Inexpensive Diskの略。
データを数バイト単位に分解して複数のディスクドライブに対して並列に書き込み/読み出しを行う。 |
表2●圧縮率と転送レートの閑係
RGBで内部処理した場合と,YUVで処理した場合で異なる。データは640×480の場合。
クオリティはボードによって左右される(RGBとYUVについては次のページのディジタルビデオ一口メモを参照)。 |
図7●ユーティリティソフトでハードディスクの転送レートの性能を見る
左はディスクアレイ(2台),右はシングルドライブ。グラフ左側の山型の部分はハードディスクのキャッシュメモリー
によるもの。平坦な部分がディスクの性能を表す。ディスクアレイにより,転送レートの性能が約2倍高くなっている。
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ディジタルビデオ一口メモ |
RGBとYUV:RGBはレッド,グリーン,ブルーの色の3要素をすべて同時に扱っているので4:4:4とも言う。YUVはRGB信号を輝度信号と色差信号に分けて使用する。つまり,輝度信号Yと色差信号U(R-Y),V(B-Y)に分けている(G信号はこの3つの信号から復元できる)。
ベータカムの場合2つの映像トラックを持っており,一つにY(輝度信号)を記録し,もう一つのトラックにU(R-Y),V(B-Y)を半分づつに圧縮して記録する。言い換えると,色差信号は映像帯域を半分(色数を1/2)に圧縮記録することになる。つまり,YUVは4:2:2として扱われる。これは,NTSCモニター上で,人間の目は輝度(白黒のグラデーション)には敏感であるが,色のグラデーションには鈍感であることを利用している。これをディジタルビデオに利用した場合,少ないデータ量で高画質を得ることができる。コンピュータ上のデータ量で比べると,RGBの場合640x480は900KBだが,YUVでは600KBとなる。
DVコーデック:DV方式のビデオカメラのために開発された圧縮方式。信号はコンポーネントで4:1:1である(色差信号が1/4に圧縮されている。つまり,色数がフルカラーの1/4)。そして,この信号にさらに約1/5のJPEG圧縮がかけられている。この信号はデータ量の割にかなり高画質である。一見ベータカムにも匹敵する画質を持つ。民生機フォーマットでここまでくれば立派である。プロ用のDVPRO(パナソニック)やDVCAM(ソニー)でも基本的には同じ圧縮方法を用いている。
コンポジットとコンポーネント:民生用のVTRやレーザーディスクは一つの信号(ビデオアウト)で映像を扱っている。この信号には映像の色情報や輝度情報が一緒に入っている。これをコンポジット信号(略してコンポジット)と言う。これに対して,映像信号を分離して扱っているのをコンポーネント信号(略してコンポーネント)と呼ぶ。この方法はコンポジットよりも画質劣化が少ない。コンポーネント方式は,コンピュータの世界ではRGBが使用され,映像の世界では放送用ベータカムで採用されたYUVが多く使用されている。 |
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さて,ノンリニア編集システムについて前回よりも詳しく述べてきたが,いかがだっただろうか。
次回は,購入する前に知っておきたい目的別に見るビデオ圧縮/伸張ボードの条件についてお話ししよう。ノンリニア編集システムを導入するに当たっての注意点を,CD-ROM(マルチメディアタイトル)用,ビデオ出力用,オフライン編集用といった使用目的別に見てゆく。
また,次号以降いよいよいくつかのハードウエアにスポットを当てて詳しく紹介していく。合わせて編集ソフトや合成ソフトについてもお話ししていきたい。
ところで,1月号を見て早速励ましのお便りやメールをいただいた。使用機材についての質問も舞い込んでいる。例え
ぱ,DPSのビデオ圧縮/伸張ボード「Perception Video Recorder(PVR)」を使った場合,組み合わせるサウンドボードのベストチョイスは?といったものだが,実は筆者もこの件は色々と調べている最中だ。近いうろに『PVRと組み合わせる音質ベスト1サウンドボード』といったことが発表できればいいと思っている。お楽しみに。
なお,このコーナーヘの質問やご意見があれば編集部宛てにどしどしお寄せいただきたい。僕の主催するインターネットのWeb上でも質問を受け付けているのでちょっと覗いてみてほしい(http://www.b-artist.com)。では,また次号で。
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日経CG1998年2月号 |
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