■After Effectsで合成

図5 Ultimatでの合成
a)お笛のブルーパック
b)お笛合成後,髪の毛もきれいに抜けている

 制作された3次元素材と現場で撮影された実写映像を合成するのに使用されているのが「After Effects 3.1」だ(170ページ別掲記事図c参照)。このAfter Effectsは合成作業ではすでに定番になった感もあり,マリンポストでも実に巧みに使用されていた。特に,今回の「くノ一忍法帖 柳生外伝」は劇場版(ピスタサイズ)とビデオ版が同時に作成されているため,解像度の設定には工夫がされていた。
 ブルーパック合成で威力を発揮していたのは「Ultimat」というAfter Effectsのプラグインソフトだ。これはUltimatt社が特許を持っている独自のアルゴリズムによるキー合成用のプラグイン。適正なブルーパックを背景にした煙や髪の毛などを実に巧みに抜くことができる優れものである(図5)。しかし,ブルーパックにムラがあったりすると,いかにUltimattを使用しても髪の毛などをうまく抜くのには経験とコツがいるそうだ。ところで,合成にブルーパックが用いられている理由をご存じだろうか。これは,人の肌にブルーがほとんどないため,肌が抜けてしまうことなく,人間を合成することができるからだ。
 マリンポストでは前出のソフトはすべて英語版が使用されていた。大屋氏曰く,英語版の方がソフトの安定性や表示スピードなどの点で優れているからだそうだ。日本語化がすべて歓迎といったわけではなさそうだ。筆者もそれは同感である。特に英語版に馴れたソフトの日本語化はいやなものである。変な名前で翻訳されたりすると目も当てられない。しかし,日本語だと使ったことがないソフトでも習得するのは速い。日本人である宿命を背負っているのも事実である。
 さて,実際撮影された空舞台とブルーパックで撮影された人物,そして3次元CGで作成された樹木を合成したのが(170ページ別掲記事図g参照)であるが,何とも幻想的な映像の完成である。
 マリンポストではこのほか,Puffin designsの「Commotion」(本号88ページに関連記事)を使用し,ワイヤー消しや,ロトスコーピングなどを行った。After Effectsで合成を行うための前処理を行っているということだ。ベータ版ではあったが筆者もこのCommotionを使用したことがある。なかなか使い勝手の良いソフトだ。メモリーが許す限りリアルタイム表示ができる点は実に魅力だ。合成後の確認やビデオ編集システムにはMEDIA100(図6)を使用していた。

★撮影された動画からマニュアルでマスクを作成する作業。


図6●MEDIA100で作業をしているところ
天井と柳生十兵衛を合成

 天井に似せたマント(布巾)に隠れて貼り付いていた敵が,マント(布巾)から飛び出て柳生十兵衛に襲いかかるシーンがある。これは,小さめのセットの天井を床に置き,ここに役者を乗せて撮影した(a)。
 実写の天井(b)はセットのため小さいので,周りがバレている。これをPhotoshopで周囲を描き足し,さらにパースを付ける(c)。
マントをCGで作るため,ElectricImageを使って制作された天井を背景に置き,パースを取りながら動きのアニメーションを完成させる(図d)。出来上がったマントには天井の画像をマッピングする。これらの映像とブルーパック撮影された柳生十兵衛(e)とをAfterEffects(f)を使って合成する。完成した映像が(g)である


(a)天井に乗ったところを撮影

(b)撮影に使われた天井

(c)天井の画像データをPhotoshopで加工

(e)ブルーバック撮影された柳生十兵衛

(d)Electricimageでアニメーション

(f)AfterEffectsで合成

完成

 最後に,今回の取材ではいろいろ労をねぎらってくれた岡垣氏のスタジオであるフロントラインにもおじゃましたので紹介したい。氏はシネカメラマンであり,自らディジタルエフェクトも多数手がけられている。ここでもマリンポストと同様に,After Effectsを使用して合成が行われていた。その日はちょうどオープニングの合成が行われていた(図7)。聞くところによると,このシーンは岡垣氏が撮影も担当されたらしい。撮影からディジタルエフェクト合成までできる人はそうはいないだろう。今後も要注目の人だ。
 今回はフィルム(Motion Picture)のビジュアルエフェクトにおけるディジタルエフェクトの現場を紹介したがいかがだっただろうか。日本でもハリウッドに負けないディジタル技術が確実に育っているのである。
 先日,「くノ一忍法帖 柳生外伝」のディジタルエフェクトを除くラッシュを見せてもらったが,なかなかの仕上がりだった。これに,ディジタルエフェクトが加わればかなり面白いできになるのではないだろうかと感じた。完成が実に楽しみだ。個人的な趣味でなんだが,ラッシュの中で「忍法山彦返し!」といったお色気忍法にはどんなディジタルエフェクトが施されるのかも気になってくる。
 さて,「くノ一忍法帖 柳生外伝」は3月末完成予定で,劇場公開は7用,ビデオ発売は第1巻が8月,第2巷が9月に予定されている。機会があったら,ぜひご覧いただきたい。
 なお,このコーナーヘの質問やご意見などあれば編集部宛にどしどしお寄せいただきたい。僕の主催するインターネットのWeb上でも質問を受け付けているのでちょっと覗いてみて欲しい。


図7●岡垣亨氏が撮影し,ディジタル合成したオープニングシーン
日経CG1998年4月号
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