ビデオモニターとコンピュータディスプレイ

 ビデオモニターはインタレース,コンピュータディスプレイはノンインタレースという違いがある。
 テレビでは画面のちらつきを防ぐために,まず,走査線を1本おきに飛び越して描き(これを1フィールドという),次に残りの半分を描いて1画面(これを1フレームという)としている。これをインタレース(飛び越し走査)という。インタレースは各テレビ方式に採用されており,NTSCの場合60フィールド,30フレームの映像で構成される。
 これに対し,すべての走査線を順番に描いていく方式をノンインタレース(順次走査)という。これはコンピュータのディスプレイに広く採用されている。
 したがってテレビ映像をコンピュータディスプレイで表示した場合,インタレースの線が目立つ場合がある。静止画でキャプチャするとインタレースの線の入った映像になる。
 余談だが,最近キャノンから発売されたDVカメラのMV1やXL1にはプログレッシブモードという撮影モードが搭載されている。これを使用することで,ノンインタレースで撮影したような映像を得ることができる。したがって,コンピュータディスプレイで静止画を表示してもインタレースの線の見えないフレームを表示可能だ。60フレームで撮影した映像を1フレームずつ間引きし1枚のフレームからなる映像を奇数,偶数でフィールドに分離するという原理によって,NTSC信号としても記録することを可能にしている。

■アンダースキャンとオーバースキャン

 ビデオ用のモニターには,ビデオ信号の全体を確認するために一般のテレビより狭い範囲に画像を表示する機能がある。これをアンダースキャンという(図5)。こうすると画像サイズは小さくなるがそれまで見えなかった四隅まですべてをチェックできる。
 言い換えるなら,一般のテレビでは映像の周囲は見えていないことになる。このような状態をオーバースキャンという。
 映像制作時には必ず全体の映像を表示して確認できるようにしないと写ってないと思っていたものが写っていたりしてしまう。また,逆にコンピュータディスプレイで制作した画面の四隅は見えないことになるが,この度合いはTVモニター(家庭のテレビ受信機など)によって異なる。したがって,一般的に全画面の90%を動画のセーフティーエリアとし,テキストなどの文字は80%のセーフティー,エリアに収まるように作成する(図6)。

図5 アンダースキャンとオーパースキャン


図6 セーフティーエリア
2つの白枠がセーフティーエリア.外側が動画用,内側がテキスト用。

■カラーバーとセットアップレペル

 カメラやVTR,あるいはモニターなどの動作状態を確かめるための基準信号としてカラーバー信号を用いる。ビデオ信号を記録する際には基準となるカラーバーを必ず記録する必要がある。再生の際にこのカラーバーを基準にモニター類を調整すると,撮影された映像を適正の色で再現することが出来る。
 ジェネレータ(信号発生器)で発生されるカラーバーの色は光の三原色の赤(R),緑(G),青(B)とその補色であるシアン,イエロー,マゼンタおよび白と黒で構成される。カラーバーにはいろいろな規格があるが,一般的にはSMPTEカラーバーが多く使用されている(図7)。
 アメリカで録画された映像をアメリカのTVモニターで再生表示すると黒は真っ黒で表示される。しかし,そのテープを日本に持ってきて日本用のTVで再生表示すると黒が少し明るく表示される。
 これは,アメリカのNTSCと日本のNTSCではセットアップレベル(ビデオ信号の基準となる黒信号レベルのこと)が異なっているためである。このセットアッフレベルはアメリカでは7.5IREが,日本では0.01REが用いられている。したがって,日本で映像を使用する場合は,セットアップ0.0IREのカラーバーを使わなければならない。
 セットアップレベルは,Macintoshの場合は機能拡張で調整できる。Windowsの場合は,通常はビデオボードのユーティリティなどで設定する。セットアップレベルを7.5lREに設定した米国の映像を日本で使う場合は,TBC(タイムベースコレクタ)やカラーコレクタなどを使用して0.0IREに補正する。

*IRE:Institute for Radio Engineers
ビデオやテレシネにおいて,入出力の電圧などを100分率で示したもの。一般に,ビデオ出力画像の暗部(黒)を10とし,明部(白)の映像信号を100として表示する。現在,古本ではビデオ出力画像の黒(セットアップレベル)を0(アメリカでは7.5)とし,明部(白)の映像信号を100としている。


図7 SMPTEカラーバー
(a)セットアップレベルが0.0IREの映像を0.0IREに合わせて見た場合の画面。
(b)色の説明。右下の丸で囲ったところが黒レベルを調整するためのブルージ信号。

モニターの調整

 いよいよモニターの調整方法について解説しよう。手順を図8にまとめた。
 最終的にNTSCに出力する場合は.やはりNTSC用のマスターモニターを用意し,制作の過程で随時モニターチェックすることが望ましい。しかし、ビデオ映像をコンピュータ用ディスプレイでモニターする場合は,黒レベルやコントラストガンマ,色温度,ホワイトバランスなどを,NTSC用のモニターの特性に合わせることが必要である。
 このような調整はちゃんとやっておかなければならない。手順通りにやっておけば,制作したコンテンツをテレビで見てぴっくりするようなことにはならないはずだ。映像制作をする場合はモニターの調整が命だ。


図8 モニター調整の手順
 コンピュータデイスプレイ(CRT)を使った場合。 電源オン後,1〜2時間おいてから以上の調整をする。
1〜2はコンピュータデイスプレイの基本的な調整であり,本文では特に解説していない。

■黒レベル

 黒レベル(Black Lebel)は,フライトネス(Brightness)とも呼ばれる。言葉の通り,入力するビデオ信号と明るさの関係を調整する(図9)。具体的には次のように行う。セットアップレペル0IREのカラーバーの場合,その一部にビデオ信号レベルの-4IRE,0IRE,+4IREの3種類の黒からなる,フルージ信号と呼ばれる部分がある(図7)。この黒の部分を使ってビデオのモニターの黒レベルを調整する。調整の方法は,-4IREと0IREは真っ黒で,+4IREがかすかに見える明るさに黒レベルを調整すればよい。


図9 黒レベル調整の原理

■ピクチャー(コントラスト)

 ピクチャーの調整では,白をできるだけ明るくした方が,明るさのダイナミックレンジを広くとることができる(図10)。しかし,あまり明るくすると,細かい線がにじんだり,明るい部分の階調がつぶれて,白とびとなる場合もある。グレースケールを表示して,階調が綺麗に表示されるように調整する。


図10 ピクチャ(コントラスト)調整の原理

■ガンマ

 NTSCモニターの場合,ガンマ値は2.2に設定されているが,コンピュータディスプレイでは通常のグラフィック作成時は1.8に設定されている場合が多いだろう。しかし,コンピュータディスプレイでNTSC用のビデオをモニターする場合は,ガンマ値を2.2に設定し,NTSCモニターの特性に合わせなければならない。
 MacでPhotoshopを使っている場合,コントロールパネルでガンマ値の調整が出来る(図11)。
 Windows機を使用する場合,最近ではビデオボードに付属するユーティリティソフトなどでガンマ調整ができるものも増えてきた。


図11 Macintoshのガンマコントロールの画面
 縞模様をなくすようにGammaAdjustmentを調整する。

■色濃度とホワイトバランス

 モニターの色温度は,ビデオの各方式または各国や地域で規格として定められている。したがって,これに従わないと意図した色が再現されない。日本ではD93(約9300K)と決められており,ビデオ作品を制作する場合は9300Kにする(アメリカやヨーロッパなど世界のほとんどはD65(約6500K)が使用されている)。
 モニターによってはこの色温度を持ち合わせてないものもあるが,その場合近似値で使用する。
 色温度を調整してもグレーや,暗部の色温度がずれる場合がある。これらはビデオのマスターモニターではバイアスとゲインで調整する。具体時にはグレースケールを表示し,バイアスで暗部の色温度を,ゲインで明部の色温度を調整すればよい。
 最後にカラー調整を行う。カラーバーを表示し,RGBのバランスを調整しながら色の表示を適切にする(Macの場合は図11のRGBのスライダで調整可能)。


 さて,今回はビデオカメラとビデオ信号,そしてモニターについてお話したが,いかがだっただろうか。
 コンビュータでビデオ映像を扱う場合に知っておかなければいけない最低限のことなのでしっかりと理解してほしい。
 さて,ノンリニア編集ソフトの定番といえばAdobe Premiereになると言えるが,Premiereもいよいよ5.0へとメジャーバージョンアップを果たし登場する予定だ。筆者のところにもいち早くβ版が届いたので,現在いろいろと試しているところだ。インタフェースはAVID社のMCXpressを意識している感じがするが,操作面や機能面でも充実しており,かなり期待できる。詳しくは,本誌来月号でお話しすることにしよう。
 なお,このコーナーへの質問やご意見などあれば編集部宛にどしどしお寄せいただきたい。僕の主催するインターネットのWeb上でも質問を受け付けているのでちょっと覗いてみてほしい 。

日経CG1998年5月号
[目次へもどる]