山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 話題のオールインワン型ビデオシステムTrinityが,米国で出荷された。
 本当に噂通りのすごいシステムなのか確かめるため,さっそく山田氏がTrinityの置いてあるメメックスに向かった。
 じっくりとデモを見た結果,真の映像革命を引き起こす素晴らしいシステムであることが分かった。
 山田氏によると「すぐにでも欲しい」そうだ。今回はTrinityの徹底解剖だ。
 ついに本当の意味での「映像革命」が始まった。待ちに待った「Trinity」がベールを脱ぎ,米国で正式に出荷され始めたのだ。
 振り返ると,最初の映像革命は1987年に始まった。NewTeKが発売したAmigaペースの「VlDEO TOASTER」だ(図1)。発売されると時に,このVIDEO TOASTERはアメリカを始め世界中で話題を呼んだ。放送品質のスイッチャ機能やディジタルエフェクト,キャラクタジェネレータをパソコンで操作でき,なおかつ3次元CGソフトの「LightWave3D」がバンドルされた非常にコストパフォーマンスの良い製品だったからだ。
 NewTekはその後,TOASTERと同時に操作できるノンリニア・マシンの「Flyer」(図2)を出荷したものの,Amigaを生産していたコモドールの倒産の影響もあり,VIDEO TOASTERやFlyerの開発は事実上ストップしてしまった。しかし,その裏で着々と開発が進められているものがあった。それがPlay社のTrinityである。
 実はPlay社はProgressive Image社とDigital Creation社そしてNewTekを辞めた連中(VIDEO TOASTERやFlyerを開発していた人たち)が,一緒に作った会社である。したがって,その基本コンセプトはVIDEO TOASTERやFlyerに非常に近い。
 だが,そのクオリティレベルはVIDEO TOASTERの次元を超え,真の意味での放送レベルを目指している。しかも安いコストで実現しているところが憎い。
 また,TrinityはVIDEO TOASTERのようなブラックボックス的発想ではなく,完全なオープンアーキテクチャを目指している。このため,今後サードパーティ製のオプションやソフトウエアが続々と登場してくることが予想される。

図1●NewTekのVIDEO TOASTERの画面


図2●Flyerの画面

■小型冷蔵庫並みのでかい箱

 では,早速このTrinityについて紹介しよう。
 まずTrinityの外観だが,図3に示すとおり,かなりでかい。ホテルの部屋に付いている小型冷蔵庫くらいの大きさはある(19インチラック10U:17インチ×17インチ×24インチ)。
 このでかい躯体の中に29基の拡張スロットを持ったマザーボード(図4)があり,標準で4枚の拡張カードが刺さっている(図5)。刺さっているボードは,Switcherカード,WarpEngineカード,Framestoreカード,Coordinatorカードである。
 Switcherカードは,D1非圧縮の映像を60フレーム/秒の精度で同期スイッチングできるスイッチャ機能を持っている。
 WarpEngineカードは,DVEをリアルタイム処理するボードだ。「Personal FX」(後述)によって制作したカスタムエフェクトも,このWarpEngineカードによりリアルタイム処理される。
 Framestoreカードは静止画取り込み用の2チャンネルのフレームメモリを搭載する。取り込んだ2枚の静止画はスイッチャから呼び出すことができる。
 Coordinatorカードは,PCからTrinityを制御するためのインタフェースカードである。PCの対応OSはWindows95またはWindowsNT4.0だ。
 このほか,Coordinatorカードと接続するためのPC用インタフェースカードとして,VideoNetカードが標準で添付
される。Coordinatorとは同軸ケーブル2本で接続する。
 箱の中にある内部ドライブペイとしては,5つのハードディスクペイと4つのCD-ROM/CD-R/DVD/テープパックアップペイがある。
 さて,以上が米国で4995ドルで販売されている基本システムだが,ビデオ入出力ボードなどがオプションとなっているので,実際には入出力ボードを必要な枚数分購入しなければならない。そうすると,基本的なシステムでは米国価格で8500ドルくらいになるらしい。

図3●PlayのTrinityの外観 (左) 図5●Trinityの中身(中央) 図4●Trinityのマザーボード(右)

■Trinityの中核を成すスイッチャ機能

 スイッチャは,一般的に言うと複数台のカメラやVTR機器の映像信号を瞬時に切り替えて出力するための装置である。
 Trinityにおける最も重要な核をなすのがこのスイッチャ機能と言えるだろう(図6)。Trinityでは「Live D1 Production Switcher」と呼んでいる。このスイッチャ機能の性能が卓越していることが,以後述べるほかの機能を最大限に引き出せるベースになっている。
 では,Trinityのスイッチャ機能を紹介しよう。
 まず入出力系だが,8チャンネルのライブビデオ入力,ワイプ/カラーマット・ジェネレータ,2チャンネルフレームストア(静止画),ブラックパースト(基準信号),プログラム出力(最終出力),プレビュー出力など多数の映像信号を扱うことができる。
 そして,これらの信号を切り替えるワイプやトランジションとして,標準的なSMPTE規格のワイプパターンのほか,本格的な3次元DVE,24ビットのグラフィックアニメーションをトランジションとして利用できるアニメーションエフェクトなど,Trinity独自の多彩なエフェクト類を用意している。これらの映像に対して,テロップ(タイトル)合成やクロマキー合成を行うこともできる。
 Trinityのすごい点は,これらの処理を内部的にD1解像度のフルディジタルコンポーネントで信号処理し,しかもすべてリアルタイムで行えることだ。つまり,放送局レベルのクオリティを持ったシステムが,丸ごと箱の中に入っているのである。
 先にも話したVIDEO TOASTERと出力映像の比較をすると,VIDEO TOASTERのコンポジット信号と比べて,Trinityの映像は非常に高品位だと言える。
 VIDEO TOASTERは内部処理をコンポジット信号で行っているため,ダビングを繰り返すと,やはり映像のセパレーションに問題が出てくる。DVEについても,VIDEO TOASTERのDVEの品質は放送以外の業務用には使えても放送用として使うにはつらいものがあった。TrinityのDVEの品質は放送用としても十分通用すると悪う。


図6●Switcherの画面

■リアルタイム・ディジタルエフエクトを実現するWarpEngine

 Trinityのもっとも特徴的な機能が,リアルタイム・ディジタルビデオエフェクト(DVE)だろう。
 基本的なDVEとしては,「ピクチャーインピクチャー」のように映像の中に単純に別の画面を挿入する効果や,挿入した画面に3次元的な回転を加える効果がある。
 Trinityの場合,こうした基本的な効果にととまらず,直方体(図7)や球,円筒形,波打った面などの一部や全部に対して入力映像を投影表示させることが可能となっている。環境に反射したDVEも可能だ(図8)。しかもこれらはすべてリアルタイム処理される。これは,ハードウエアとしてWarpEngineモジュールを使用しているからだ。
 特筆すべきは,オリジナルの3次元DVEエフェクトを作成できる「Peronal FX」(図9)と呼ぶソフトウエアが付属していることだ。あらかじめ用意されているプリミティブ・オブジェクトを変形させたり,X,Y,Z軸で移動,回転させながらキーフレームを設定していく。外部からオブジェクトをインポートすることもできる。
 オリジナルの3次元DVEは,いったん作ってしまえば何度でも呼び出して使用することができる。3次元CGソフトを使ったことがあれば,わりと簡単に操作できるソフトだ。
Peronal FXにインポートできる3次元ソフトのファイルとしては,LightWave 3D,3D Studio MAX,Softimage 3D,ElectricImageなどをサポートしているようだ。
 スイッチャのクロマキー合成との連携で,バーチャルセットの作成も可能だ。図10は,メメックス(カコミ記事参照)の簡易クロマキーシステムを使って筆者をバーチャルセットに合成したところだ。水面とティーポットに筆者の影が映り込んでいる。


図7●WarpEngineによる3D DVEの例

図8●環境に反射した3D DVE


図9●自分でオリジナルの3D VDEが作れるPeronal FX


図10●パーチャルセット
水面とティーポットに筆者が映り込んでいる。

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日経CG1998年8月号