ここ数年のデジタル化の発展と普及はすさまじいものがある。一口でデジタルといってしまえば、コンピュータの始まりまで戻ってしまうが、映像・音響分野でいうならば、アナログ文化が急激にデジタル文化へと変貌している現実がまさにいまなのである。もちろん、これらの発展には地道な研究の日々があったではあろうが、一般への普及は見事なまでに急速である。
インターネットの例で例えるならば、'94〜'95年にかけて急激に発展し、今年に入ってからも勢いを落とすことがない。また昨年、ついに民生用デジタルVTR規格DVが登場した。このデジタルの画質を見る限り、Hi8のムービーがDVに移り変わるのも時間の問題かもしれない。
 そして、忘れてはならないのがノンリニア編集機の台頭である。特に昨年あたりから、高画質のノンリニア編集機が各社から発売され、ある種、価格戦争も起こしかねない状況となりつつある。現にRadius社のVideoVision TelecastはTRUEVISION社のTARGA2000に対抗(?)したのか、定価が198万円から120万円に下がってしまった。
 高画質化が進み、値段も安くなってきたことは、導入を考えている人にとっては大変ありがたいことであろう。現に制作プロダクションを初め、演出家、クリエーターにとってDTV、ノンリニア編集への興味は深まる一方だろう。そういう意味でも今年はDTV花盛りは間違いないだろう。しかし、実際のところ、コンピュータに疎い人にとって、どの辺のクラスのものをどこら辺から導入していけばよいのか、さっぱりわからない人も多いことだろう。
 今回は、今後DTVでノンリニア編集機を導入したい人に対して、いくつかの方法論で導入のアプローチをしてみたい。
 まず、ここで導入を考えている人はノンリニア編集機になにを見出したいのか考えてみたい。

1)本編集や特殊効果を低価格で実現したい
2)テロップを外注せずに行えないか
3)編集時間などの作業の短縮化ができないか
4)新しい発想の手助けにならないか?
5)自分で編集すべてを行いたい

 以上のような願望をもちながらノンリニア編集機の導入を検討されている方がほとんどであろう。
 正直いって、ある程度のシステムを組んだ場合、上記の願望はすべて満たすことが可能だ。しかし、その反面リスクも背負わなければならない。たとえば、圧縮による画質の劣化や、オペレーターの負担の増加などである。その辺をクリアすればノンリニアの導入による未来は大変明るいことになる。

■ノンリニア編集機のメリットとデメリット

 ノンリニア編集機とはいったいどのようなものであるか、あえて説明してみたい。
 いままでのテープ編集は、時間軸に沿って順次編集していたわけで、編集後、途中の不要シーンをカットする場合、テープを切るわけにはいかないので、改めて頭から別テープに編集し直さなければならない。これはリニア編集機の宿命でもある。したがって、本編集の前に仮編集を行い、このようなこと(少なくとも尺の変わること)がないようにしなければならない。
多くの場合、編集前に尺が決まっているだろうから、仮編集で尺の詰めも行うことになる。
 それに対し、ノンリニア編集の場合、時間軸をいっさい気にする必要はない。後になってこのシーンをカットしたいとか、尺の変更、カットの前後入替えとかが生じても簡単に変更できる。つまり、自分が編集したいところからやっていけばよく、最後にそれらを並べ替えて完成させることもできるのだ。しかし、実際においては、必要なカットをラフにつなぎ合せ、だいたいの構成をつくった後に、細かい修正を行っていくやり方が一般的だろう。
 いずれにしても、尺合せのためにオフライン機を何度も回して、でき上がったオフラインテープの画質はよれよれといったことは、ノンリニア編集では生じない。あくまで、ビデオキャプチャー(デジタイズ)の際の設定圧縮率の画質で最終出力が可能である。
 また、ノンリニア編集の最大のメリットは、オフライン編集時にオンライン編集の編集操作を同時に行えることである。いい換えるなら、テープ編集でいうオフライン編集時の簡単なカット編集から、スイッチャーを使ったようなディゾルブ効果やDVE特殊効果、テロップ挿入などのオンライン時の編集まで一度に可能である。また、編集時に他のアプリケーションソフトとの連携でさらなる映像効果も期待できる。また、オーディオのミクシングも可能で、簡単なMA処理ならすべて行える。
 通常ノンリニア編集では、データ量を少なくし作業効率を上げるため、まず高圧縮でキャプチャーを行い、その画像を用いてオフライン編集を行う。その後、最終的にオンラインクォリティの画像と入替え、レンダリング(特殊効果などの計算)をさせ、出力させる。
 つまり、扱っている画像がオフラインクォリティであればオフラインであり、オンラインクォリティであればオンラインということになる。
 このことは、最終的な高画質で出力する前に、オフライン画質で完成に近いものをクライアントに提出できることを意味する。ある程度の特殊効果やテロップ入れを行ったものを見せることができるため、ここでOKをもらってから最終レンダリングを行えばいいことになるので、最終出力後の直しはほとんどなくなるかもしれない。


図1●Premiereの操作画面


図2●ノンリニア編集作業の流れ

■ノンリニア編集機のハードとソフト


写真1●AVID Media Composer外観

 ノンリニア編集機は大別すると、ノンリニア編集機専用マシーンとMacintosh、AMIGA、Windowsなどのパソコンや、SGIなどのワークステーションなどにビデオボードを載せたものがある。
 前者は、専用機に専用ソフトのみを走らせることにより、マシーンとしての安定性はあるが、ソフトの固有の機能・性能、操作性に左右されるため、使用ソフトの操作性などの吟味が必要とされる。放送レベルのHeavyWorksなどがそれにあたる。
 後者の中にもAVIDのMedia Composerのように専用編集ソフトのみしか走らないものもあるが、多くの場合、QuickTime互換を利用して他ソフトとの連係プレーにおいて多種特殊効果を楽しむことができる。導入の際にはここら辺のことは見極めておく必要があるだろう。

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ビデオアルファ1996年3月号