映像制作


山田浩之
Yamada Hiroyuki

プロデューサ,
デジタルクリエータ

映像,CG,Web,CD-ROMなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを主宰する。
●DVDやインターネットなど放送・映像分野のメディアの多様化,デザイン,設計,マーケティング,教育などさまざまな分野での映像制作ニーズの高まり。こうした用途の拡大に合わせて,新しいデジタルビデオ制作用製品が続々登場している。ここでは,最近出荷が始まった注目7製品について整理した。
●企業内ユーザーやハイアマチュアに向いた20万円以下の価格帯では,DV形式の映像を簡単に編集するビデオキャプチャボードとして加Matrox社の「RT2000」と米Pinnacle Systems社の「DV500」が新登場。3次元のビデオエフェクトがリアルタイムに施せたり,DVDコンテンツのオーサリングソフトが付属しているので,高品質のプレゼンテーションビデオの制作などに向いている。
●加DPS社のビデオディスクレコーダ「dpsReality」,や,3次元CGソフトとノンリニア編集システムを統合した米NewTek社の「VideoToaster for NT」は,いすれも50万円前後の価格帯でありながら,放送用途にも使えるD1非圧縮の高品質ビデオ映像を制作するシステムだ。このほかリニア編集も可能な米Play社の本格的ビデオ制作システム「Trinity2.0」についても最新情報をレポートする。

●3次元ビデオエフェクトをリアルタイムに施せるDVボード RT2000

問い合わせ●日立計測器サービス TEL(03)5325-5432【URL】www.hisco.co.jp 稼動OS●Windows98/2000 価格●19万8000円 出荷●2000年1月

 加Matrox社の「RT2000」(図1)は,コンシューマ向けのノンリニアビデオ編集システムだ。ビデオの圧縮形式(コーデック)として,DVとMPEG2形式のビデオデータを扱える(図2)。同梱されている同社のグラフィックスアクセラレータ「MillenniumG400」との組み合わせで,2次元と3次元のリアルタイムエフェクトが可能なのが特徴だ(図3)。
 そして,ノンリニアビデオ編集ソフトとして米Adobe Systems社の「Premiere RT5.1」(図4)が採用されている。さらに,台湾Ulead社の3Dロゴ作成ソフト「COOL3D」,米Sonic Foundry社の音楽編集ソフト「ACID Music」,米Sonic社の低価格DVDコンテンツオーサリングソフト「DVDit! LE」(図5)などのソフトが添付されているので,パソコンさえあれば映像から音楽まで編集できてしまう。簡単なDVDオーサリングができるのも魅力的だ。現段階ではWindows98のみ対応。NTに対応する予定はないが,Windows2000には対応する予定だ。
 RT2000は,IEEE1394端子*1によるDVデータの入出力に加え,アナログ信号として,コンポジット,S-VHSのビデオ入出力および,RCAタイプのステレオオーディオ入出力を備えている。これにより,DV以外にも従来のアナログビデオを使用したDVノンリニアビデオ編集を行える。VHS(S-VHS)テープへの出力もできる。

*1lEEE1394はシリアルのデジタルインタフェース。DV端子,i.LINK,FireWireとも言う。


図1●RT2000の構成

図2●DVとMPEG2を扱える

図3●2次元と3次元のトランジションやページめくり(PageCurls)などをリアルタイムに処理できる

図4●リアルタイムエフェクトは,Premiere RT5.1で使用できる

図5●簡単なDVDオーサリングができるDVDit!LE

DVとMPEG2の2種類のデータを扱える

 RT2000の特徴の1つに,DVとMPEG2の2つのコーデックを持っていることが挙げられる。IEEE1394を使用した場合は,すべてDVコーデックでビデオが処理される。アナログ入出力を使用した場合は,DVとMPEG2の2つのコーデックを選べる。ここで,DVコーデックは,約1/5圧縮でサンプリングもYUV4:1:1*2と決まっているが,MPEG2の場合はYUV4:2:2*2で10〜25Mbpsのデータレートで扱えるので,アナログからの入力時には必要に応じて,圧縮レートを選ぶことができる。
 ところで,25MbpsのデータレートでMPEG2形式にビデオキャプチャした場合,おおむねDVの1/5圧縮のデータ転送レートと同じになる。ただし,フレーム間圧縮をしているMPEG2の方が圧縮が効くので,同じデータレートだと画質面ではMPEG2の方が良い。特にRT2000の場合,YUV4:2:2でビデオデータを扱えるのでトータルではMPEG2の方が画質は良さそうだ*3。
 ただ,DVカメラで撮影したものを編集するにはDVコーデックを使って編集するのが一般的だろうし,MPEG2は高圧縮でも画質面で有利なので,DVD(デジタル多用途ディスク)などのマルチメディアコンテンツでの使用を考えた場合に扱いやすいだろう。用途に応じて使い分けることになりそうだ。
 このほか,RT2000は2チャンネルのビデオトラックと1チャンネルのグラフィックチャンネルをリアルタイムに扱える。つまり,ビデオに2Dまたは3Dのトランジション(場面切り換え)効果を施しながら作品タイトルやロゴなどのグラフィックデータをリアルタイムに出力できる。
 そして,同社の業務向けビデオキャプチャボード「DigiSuiteシリーズ」と同じく,ビデオ合成を高速に
処理する「multilayer compositing engine」を搭載している。これにより,Premiereのタイムラインに多重にデータを重ねるような画像合成時にもハードウエアのアクセラレーションによって,非常に高速にレンダリングが完了する。このあたりの使いやすさはとてもありがたいことだ。

*2 YUV4:1:1やYUV4:2:2というのは,アナログのビデオ信号をデジタルデータに変換した時のフォーマット。Yは明るさを表す「輝度信号」,UとVは色の情報を表す「色差信号」のこと。4:1:1や4:2:2というのは,YUVの信号をデジタル化した時のサンプリング周波数の比率を示す。数字が大きいほど周波数が高いので,より正確にデジタイズしていることを示す。
人間の目は,色よりも輝度に敏感なので,輝度信号(Y)を,高い周波数でサンプリングする。

*3 厳密には,lEEE1394を使ってデジタルで入出力を行った場合と,入出力にアナログを使わなければならないMPEG2(25Mbps)を比較した場合では,元々デジタルのデータであるDVの方が画質的に有利かもしれない。このあたりは非常に興味があるところだが,残念ながら,今回は画質の比較をしていない。

3Dエフェクトをリアルタイムに施せる

 RT2000でリアルタイムにディゾルブなどのトランジションを施すには,同梱されているPremiere用のエフェクト(特殊効果)用プラグイン「Flex 3D」を使う。グラフィックスアクセラレータ「Millennium G400」の機能を利用することで,リアルタイムにトランジション効果を施せる。エフェクトの数は500種類以上搭載されているので困ることはないと思われるが,今後もどんどん増えていく予定だ。サードパーティの参入もささやかれている。

 エフェクトを設定する時のユーザーインタフェースは,従来のMatrox製品に比べて良くなった。トランジション効果のかかり具合をキーフレームで設定することはできないが,一般的な使い方では問題ないだろう。
 同梱されるMillennium G400とRT2000ボード同士をケーブルで接続して使用する。G400は「デュアルヘッド」と呼ばれるディスプレイへの出力端子を2個装備しているタイプだ。一般的な使用時には2個のディスプレイを使って作業ができる。だが,Pre-miereを使用する際は,1チャンネル分とられるのでシングルモニターでの使用しかできない。別途,「Millennium G200」や「MillenniumII」といったPCIに接続するグラフィックスアクセラレータを追加すればデュアルディスプレイで作業できる。
図6●強力な音楽編集ソフトACID Musicを同梱
 音楽編集用ソフトとしてSonic Foundry社の「ACID Music」(図6)が添付されてくることも非常にありがたい。
編集した映像に音楽を付けられる。ACIDは以前にも本誌で紹介しているが,音程を変えずに,尺(曲の長さ)を変えられる優れもので,添付されて
いる音のフレーズを自由に並べたり,何回もループさせたりして簡単に曲を作ることができる。ビデオの長さにぴったりと合わせた曲を制作できる。
 DVDオーサリングソフトとして,Sonicの「DVD it! LE」が添付されている。DVDの規格をすべて満たしたものではなく,本格的なオーサリングをするには不向きだが,メニュー画面の作成やボタンを押すと映像再生が始まるといった簡単なインタラクションを持たせたコンテンツを作ることが可能だ。ハウツー物のビデオや企業講習会などセクションごとに再生したいコンテンツなどが作れる。
 ちなみに,制作したコンテンツを元に,一般のDVDプレイヤーで再生できるDVDを作りたいときは,オーサリングしたデータを業者に渡すことになる(自前でDVDレコーダーを買う手もあるが,まだ高い)。ただし,データが小さければCD-ROMライターでCD-Rに焼き込む方法もある。DVD再生ソフトの入ったパソコンなら,再生できる。

●2次元のリアルタイムエフェクトが可能なコンシューマ向けビデオボード DV500

問い合わせ●ピナクルシステムズ TEL(03)5465-0648【URL】www.pinnaclesys.com 稼動OS●Windows98 価格●17万8000円 出荷●2000年2月上旬

 米Pinnacle Systems社の「DV500」(図7)は,MatroxのRT2000の対抗馬だ。DV500はビデオのコーデックにMPEG2を採用せず,DVのみを採用している。ビデオデータを2個同時に扱えるデュアルストーリームに対応しており,2次元のリアルタイムエフェクトが可能となっている。入出力は,DVが2系統と,アナログでは,コンポジット,S-VHS,ステレオオーディオ入出力を備えている。
 DV500はDVコーデック仕様とあって,映像のノンリニア編集を意識したセットだ。そのため,ノン
リニアビデオ編集ソフトPremiere RT5.1で3次元デジタルビデオエフェクト(3DDVE)が可能になるプラグイン「FreeFX」が添付されている。FreeFXは非常に質の高い3次元トランジション効果を施せる。
インタフェースもPinnacleらしいものである。しかし,残念なことにRT2000のようにリアルタイムエフェクトはできない。ただし,使用しているグラフィックスアクセラレータによるレンダリングの高速化が可能で,結構高速に処理できるようだ。基本的にグラフィックスアクセラレータはどの製品を使用しても構わないが,Pinnacleでは動作保証したグラフィックスアクセラレータを同社のホームページ(www.pinnaclesys.com/dv500/)で明示しているので参考にして欲しい。
 DV500には,画面上に文字やグラフィックスを挿入するキャラクタジェネレータに「TitleDeko」(図8)を添付。高品質でインパクトのあるタイトルを手軽に作ることができる。なお,TitleDekoの技術は放送用のキャラクタジェネレータの「DEKOシリーズ」にも利用されているものだ。
 音楽編集ソフト「ACID Music」が添付している。
さらに,VideoCDオーサリング用に「MinervaImpression CD-Pro」が添付されている。DVデータを使用してオーサリングし,MPEG1やMPEG2にソフトで変換できる。ちなみにMinervaImpressionCD-ProはRT2000に同梱されている「DVDit! LE」よりも高機能で,タイムライン上で編集できるのをはじめ,Phtoshopデータを利用でき,インタラクテ
ィブボタンなどを作ることができる。こうしてみると,DV500は非常にコストパフォーマンスのいいオールマイティなマシンといえる。
 業務レベルの使用を考えた場合,DV500はアナログ入出力にコンポーネントを持っていないのが残念だ。しかし,これは,ユーザーターゲットや価格設定を見ても仕方がないことで,むしろDVに割り切るなら,非常にコストパフォーマンスのいい製品であるといえるだろう。


図7●DV500本体

図8●放送向けのソフトが元になっているキャラクタジェネレータ「TitleDeko」
   
日経CG2000年2月号