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映像制作


山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 前回の4月号では,お色気が入った「くノ一忍法帖 柳生外伝」のディジタルエフェクト作業現場へと社会見学に出かけた。
 今回は再びノンリニア編集の講義に戻る。
 あなたが制作したコンテンツをNTSC受像機でみんなに見てもらう場合も多いだろう。
 そのときに欠かせないモニター調整の必須事項を解説じてもらった。
 手持ちのコンビュータディスプレイを使いながら,失敗せずにNTSCコンテンツを制作する手法がわかる。(本誌)
 一般のテレビで視聴するCG映像を制作する人は,プロに限らず,セミプロやホビーユーザーでも増えている。ただし,高価なNTSC用のマスターモニターを使用してモニタリングしている人は少ないと思われる。ではコンピュータディスプレイを使ってできるだけ正確にビデオ信号を扱うにはどうしたらよいだろうか? これに失敗してしまうとせっかく制作したコンテンツが台無しになってしまうので,制作する際に気を付けておかなければならない。
 今回は,手持ちのコンピュータディスプレイを使ったモニター調整のポイントを押さえておこう。
 最初は,ビデオカメラとビデオ映像の原理,ビデオモニターとコンピュータディスプレイの違いという話から始める。ビデオ編集を理解するために必要なことであり,さらにテーフに記録するフォーマットの選択に役立つだろう。最近の面白い製品の話も入れておいた。その次に,モニターの調整方法を,実際の手順に沿って解説しよう。

ビデオカメラとビデオ映像

 まず,簡単にビデオの仕組みを言うならば,ビデオカメラで撮影した被写体は.ビデオ信号として電気信号に変わり,ビデオテープに記録きれる。記録されたビデオ信号は,ビデオデッキで再生され,ビデオモニターで光に戻る。われわれはそれを映像として鑑賞することができる。

■ビデオカメラの原理

 ビデオカメラで撮影した被写体はレンズを通り,撮像管(真空管の一種)または撮像板(CCD)で電気信号に変わる(図1)。民生用ビデオカメラの場合,一般にCCDが使われている。現在では業務用でもCCDを使用しているものがほとんどだ。
 業務用や高級民生用では3つのCCDを使用し,光の三原色の赤(R).緑(G),青(B)用に別々のCCDを使用することで.色の分離の良い映像を得ている。
 余談だが,このCCDは実は可視光以外の幅広い周波数帯域の光をキャッチする能力がある。通常は可視光だけを取り出すために,赤外線カットフィルタが入っている。しかし,最近発売になったソニーのDCR−TRV9(図2)には,赤外線カットフィルタをオンオフする機構が付いている。赤外線カットフィルタをオフすることによって,照明がない暗闇でも子供の寝顔や夜行性動物(?)の撮影が可能になっている。
 CCDでRGBに分離された電気信号は,ホワイトバランス,解像度,階調特性,色再現性などの要素に対応した電子回路により各種補正が行われる。民生機の場合は基本的にオートで処理されるが太陽光,室内光,月光などの光の色温度の違いなどをマニュアルで調整できるものもある。

図1 カメラの原理


図2 ソニーのDCR−TRV9と,暗闇で提影できる「ナイトショット」の仕組み

■ビデオカメラのガンマ特性

 映像の調子を決める大きな要素にガンマ特性がある。これは,入力と出力との関係であるが,ガンマが1.0の場合,45°の角度の理想的な直線となり,入出力が正比例する(図3)。しかし,実際にはカラーテレビやカラーモニターに使用されているCRTのグリッドに加えられた輝度信号は管面で正比例せず,約2.2乗に比例する(つまりNTSCモニターのガンマは2.2)。
 そのため,カメラ入力からモニター出力にいたるカラーテレビ系のどこかに,1/2.2乗の回路を全体の特性が直線になるように補正する必要がある。当初家庭用のTVに組み込むには複雑だったため,カメラ側に組み込まれた。この回路をガンマ補正回路という。


図3 ガンマ補正例

■コンポジット信号のNTSC方式

 アメリカや日本のTVで使用されている白黒テレビと互換性のあるカラーテレビ方式は,NTSC(National Television Standard Commitee)方式と呼ぶ(表1)。このほか,世界にはPAL方式やSECAM方式があることをご存知の方も多いだろう。
 コンピユータのビデオ信号ではRGBの各色と,同期のための(水平・垂直)同期信号が別々の配線として必要であるが,NTSC信号では輝度信号(ルミナンスLuminance信号)と色信号(クロミナンスChrominance信号),そして同期信号(Sync信号)がひとまとめとして組み合わされている。
 このように1つにまとめられた信号をコンポジット信号とも呼ぶ。1つにまとめたことで,丁∨等への遠隔搬送利用が簡単であるが,解像度や色の再現性では若干のロスが生じる。

■NTSC以外のビデオ信号

 RGB信号はコンピュータディスプレイで広く使用されている。また,ハイビジョンの一部でも使用されている。色信号を最初から最後まで分離して扱うため,画質や解像度が高く,色再現性にも優れている。
 YUV信号は(本誌1998年2月号の221ページでも記述したが),RGBの3色を輝度信号(Y)と2つの色差信号U(R−Y),V(B−Y)に変換した信号だ。少ない配線で済むし,データ量を少なくできるため,長距離伝送で高画質を実現したいときに有利になる。輝度(Y)と色差(R−Y,B−Y)はマトリクス回路で簡単にRGBに復元できる。業務用βカムなどに使用されている。
 Y/C信号はRGB信号を輝度信号(Y)と色信号(C)の2つの信号に分離した信号でSVHS,S端子,セパレート信号ともいう。

■ビデオテープのフォーマット高画質はコンボーネント信号

 一般的に輝度信号(ルミナンス)と色信号(クロミナンス)を組み合わせたコンポジット信号の場合,色と映像の解像度が低下してしまう。ビデオテープへの記録方式も1つのビデオトラックにビデオ信号を記録したコンポジット方式と,輝度信号(ルミナンス)と色信号(クロミナンス)または色差信号(U,V)に分けて別々のトラックに記録するコンポーネント方式がある(図4)。コンポジット方式に比べ,コンポーネント方式の方が色や解像度の再現性は優れている。


図4 ビデオテープのフォーマット
   
日経CG1998年5月号