映像制作


山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 4月に開催されたNAB98で,数多くのノンリニアビデオ編集製品が発表された。
 その中で目立ったのは,エフェクトをリアルタイム処理できるビデオ圧縮伸張ボードと映像を非圧縮処理できる高画質なビデオ編集システムだ。
 今回は,エフェクトのリアルタイム化について解説する。合わせて,読者か寄せられた質問にも答える。(本誌)

 本誌5月号のNAB98速報記事でもお分かりのように,今年のNABでもノンリニア関係の新製品の発表が相次いだようだ。それらの新製品を眺めてみると「リアルタイムエフェクト」に対応した製品(図1)や非圧縮に対応した製品の発表が目にとまる。
 これらはいずれもハイエンド向けの製品ではあるが,価格は以前よりも安くなってきた。今後のノンリニア編集システムの動向はズバり,エフェクトのリアルタイム化と非圧縮を利用した映像の高画質化にあると言って間違いない。
 と言うわけで,今回は,エフェクトのリアルタイム化の是非をテーマに,話を進めていこう。また,手まで寄せられた読者からの質問のいくつかにもお答えしたい。

図1●リアルタイムエフェクトが可能なDigiSuite LE

■パソコンのノンリニア編集システムはレンダリング時間が必要だった

 エフェクトのリアルタイム化は,ビデオ映像のプロにとっては,非常に重要な意味合いを持っている。
 ポストプロダクションなどでテープベ一スのリニア編集システムを利用する場合,ワイプ*.ディゾルブ*,テロップ,2次元や3次元のDVE*(3次元のDVEはスタジオによっては無いところもある)などは,スタジオ内に組み込まれた装置によってリアルタイム処理ができるのが一般的だ。
 ところが,パソコンのノンリニア編集システムで,映像問のワイプやテロップ入れ,DVE処理を行う場合にはパソコンのCPUにエフェクト処理の計算をさせなければならないので,必ずレンダリング時間が必要になる。これはどんな簡単なものであっても避けて通れない。
 具体的に言えば,PowerMacintosh8500/132やPentiumPro/200マシンなどの一般的なパソコンを使用して1秒間のディゾルブ/ワイプのようなエフェクトを計算させると約50〜70秒くらいのレンダリング時間を必要とする。これでは,テロップ入れなど長時間の挿入を必要とする場合は,かなりのレンダリング時間を要してしまう。しかも,できたものが気に入らなければ再度やり直しということになり,さらに長い時間が必要になる。
 テープを使った従来のビデオ編集に慣れている人にとっては,このレンダリング時間は実に耐え難い苦痛の一つと言って間違いない。エフェクトのレンダリングが終わるのを待っている間に,演出上のひらめきやノリを悪くする場合もあり得るだろう。
 これを解決するためにちょっと前に登場したのが,DSP(ディジタルシグナルプロセッサ)チップを搭載して,ハードウエアでレンダリングを高速化するビデオ圧縮伸張ボードだ。Truevisionの「Targa1000」や「Targa2000」シリーズ,Media100社の「Media100」シリーズがこれにあたる。これらは,リアルタイムではないものの,ハードウエアに付属する専用のエフェクト・プラグインを使用することで劇的にレンダリング時間を短くすることができる。
 例えば.1秒間に約60秒かかるディゾルブも8〜15秒くらいで処理することができる。一般的にディゾルプやワイプ処理は1〜2秒程度が普通だろうから,これくらいの時間だとレンダリングの待ち時間としてはそんなに苦にならないだろう。


図A ワイプとディソルブ


図B Boris Effectsを使ったDVE例


図C PremiereのプラグインBoris Effectsの操作画面
*ワイプ:前の画像から次の画像への切り替え(トランジション)を,画像を切りながら行うトランジション効果(図A),違う場面への場面展開時に使用される。

*ディゾルブ:前の画像から次の画像への切り替えを,画像をOL(オーバーラップ)させながら行うトランジション効果(図A),回想シーンなど,前の場面を引きずり ながら次の増面へ切り替えるときに使用される。
     
*DVE(ディジタルビデオエフェクト):アナログ編集(テープ編集)が主流だった頃ディジタルで行うビデオエフェクトをDVEと呼んだ。ノンリニア編集においても,画  像の中にさらに多くの映像をエフェクト効果を付けながら挿入する処理をDVEと呼ぶ(図B)。プラグインソフトBorissEffects(図C)はその代表格。

■低価格でリアルタイムエフェクトが可能に

 そして,最近になって登場し始めたのが冒頭で述べたリアルタイムエフェクトが可能なノンリニア編集システムやビデオ圧縮伸張ボードだ。もちろん,ハイエンド向けのノンリニア編集システムでは以前からいくつかの製品が存在していたが,最近ではかなり低価格の製品が登場してきている。

 筆者がこれまで使用したことのあるリアルタイムエフェクトが可能なノンリニア編集システムとしてはMedia100 Xr,Targa2000RTX+「Micro Sphare」(Scitex Digital Videoのノンリニア編集ソフト),Pinacreの「Reeltime」+「Premiere4.2」,Matroxの「Degisuite」+「Speed Razer Mach4.0 RT」(ln:Syncのノンリニア編集ソフト),NewTekの「Video Toaster Flyer」などがある。これらの製品のリアルタイムエフェクトを一度味わうと,もう後へは戻れないと言った気持ちにさえなってしまう。
 リアルタイム処理できるエフェクトの数は編集ソフトによって違ってくるが,通常よく使うディゾルブやワイプがリアルタイム処理できるだけでも作業時間をかなり短縮することができるはずだ。
図2 Media100のリアルタイムタイトラー
 しかし,作業時間を短縮できる理由は,エフェクトのリアルタイム化だけではない。実はこれらの製品に使用されているビデオ圧縮伸張ボードは,「デュアルストリーム」に対応しているのだ。つまり,2つのビデオトラックを同時に再生することができるのである。このため,エフェクト処理をしながらすくにビデオ出力することができ。つまり,無駄なムービーファイルを作る必要がないのである。これはハードディスクの節約にもつながる。
 ただしテロップに関しては,使用する編集ソフトによりリアルタイム処理ができるもの(Media−100Xe,Xs,X「など,図2)とリアルタイム処理ができないもの(Premiereなど)があるので注意が必要だ。概してノンリニア編集システムの専用ソフトや高価な編集ソフトには.テロッフをリアルタイム出力できるものが多い。しかし仮にできない場合でも,「Inscriber CG」などのテロップソフト(海外では一般にCG=キャラクタ・ジェネレータと呼ぷ)を使用すれば,リアルタイムテロップも可能となる。Speed Razer Mach4.0 RTのように高価な編集ソフトにはlnscriberLEが付属しているものもある。

■リアルタイムエフェクトは本当に必要か?

 エフェクトのリアルタイム化は本当に必要なのだろうか?。
 もちろん,システムに十分な予算が組める人は,リアルタイムエフェクトのできるマシンを買うに越したことはない。しかし,コストパフォーマンスを考えるなら,これからどのような目的で使用するかを十分見極めてから決めた方がよいだろう。
 例えば,尺の短い映像編集を行う場合や編集より画像合成の方を主に行う場合なら,リアルタイムエフェクトはそんなに必要ない。リアルタイムエフェクトは,通常ビデオサイズまでしか対応していないので,フィルムなどビデオサイズ以上で使用する場合も意味をなさない。しかし,こういう人でもたまにはビデオの編集をやることもあるだろう。こうしたケースではDSPチップを搭載したビデオ圧縮伸張ボードでレンダリングをアクセラレートした方がコストパフォーマンスはいいだろう。これならテレビサイズの解像度に限らずアクセラレートが可能だ。いずれにせよ,どういう目的で使用するかがシステム選択のキーとなるはずだ。

■OpenGLでエフェクトを高速化するアプローチもある

 ところで,エフェクトのハードウエアアクセラレートが可能なボードとしては,ビデオ圧縮伸張ボードにDSPチップを乗せたもののほかに,専用のアクセラレートボードや汎用のアクセラレートボードも存在する。
 例えば,DPSの「Perception VR」の場合専用のPerception F/Xボードを用いてアクセラレートできる。スピードはオンボードタイプと同じくらいだ。
 また,汎用で使える「lceFX4.0」(http://www.iced.com)は「After Effects」などのエフェクトをハードウエアアクセラレートできる。このボードを使用すると,複雑なエフェクトも高速化できる。3〜25倍の高速化はとても魅力的だが,値段の方も少々張ってしまう。ちなみに,lceFXは近い将来解像度フリーになるようなので,シネサイズでも大丈夫だ。
 最近ではインターグラフのRender GLのように,Open GLボードを使って2次元画像をアクセラレートする新しいアプローチも登場している。
 Open GLは,3次元CGソフトなどでモニター上の表示を高速化きせるために開発されたもので,シェーデインクやテクスチヤマッピング,バンプマッピンクなどをリアルタイムに表示できる。しかし,表示だけではもったいないということで,この性能をCGの最終画像のレンダリングにも利用しようというのがRender GLの考えだ。レンダリングの質感を上げるためにOpen GLの扱える項目を拡張している。最近ではLight Wave3Dや3D Studio MAXに搭載されており,Softimage3Dも採用が決まっているようだ。
 このRender GLを使ってノンリニア編集のエフェクト処理をしようというのがインターグラフの新しいアプローチだ。Render GL対応のプラグイン・フィルタViZfxを利用する。現在,3D Studio Max,After Effects,Premiere,Speed Razer Mach4.0用のプラグインがある。実は.筆者も先日デモを見せてもらったのだが,7秒くらいの凝ったエフェクトを約15秒でレンダリングしてしまった。驚きである。今度じっくり触ってみたいと思った。
 ただし,日本ではインターグラフのOpen GL搭載マシンにしかバンドルきれないようで,単体では発売されない。日本インターグラフでVizFXが他社のOpen GLボードで動作するかどうか保証できないためのようだ。実際はどうなのかは分からないが・・・。どうしても欲しい人は,アメリカから購入する手もある。アメリカでは単体発売されているようだ。詳しくはインターグラフのホームページ(http://www.intergraph.com/vizfx/)を見て欲しい。


 エフェクトのリアルタイム化の必要性について考えてみたが,読者の方はどう思われるだろうか。次回は,非圧縮による高画質化について触れてみたい。
 なお,このコーナーへの質問やご意見などあれば編集部宛にどしどしお寄せいただきたい。僕の主催するインターネットのWeb上でも質問を受け付けているのでちょっと覗いてみて欲しい。

日経CG1998年6月号
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