映像制作


■今後筆者が注目するノンリニア編集システム

 今後筆者が注目する製品は3つある。
 1つめは,VideoToaster for NTだ(図6,www.dstorm.co.jp/)。本当にパソコンのCPU能力だけでリアルタイムエフェクトをかけながらスイッチングまでできるのだろうか。これができればVJをはじめ多くの映像作家に受け入れられるのは間違いないだろう。ただし,非圧縮しか扱えないので,ディスク容量などいろいろとつらいことがあるかもしれない。しかし,これは贅沢な悩みなのだろう。
 2つめは,DPSの新製品dpsReality(図7,www.dpsj.co.jp/)。dpsRealityは,VldeoToasterと異なり圧縮から非圧縮まで扱えるので便利だ。VFS(バーチャルファイルシステム)が進化したVTFS(バーチャルテープファイルシステム)や,デッキエミュレーションに対応しているので,CGや合成をやっている人には非常に重宝されることは間違いない。非圧縮は1ストリーム,圧縮は2ストリームに対応している。
 3つめは,PlayのTrinity(図8,www.memex.co.jp/)。実は,この製品が一番気になっている。先日,日本語テロッップにも対応したバージョン2のプレス発表に参加したが,あのボディーとソフトウエアのインタフェースにはそそられる。特に最近発売になったノンリニアオプションのTimeMachineとの組み合わせは強力なようだ。
 多くの製品がCPUパワーによるソフトウエアエフェクトに移行しつつある中,Trinityはれっきとしたハードウエアアクセラレーション方式を採用している。CPUが速くなっても処理が高速化されるわけではないが,ハードウエアアクセラレーションによる安定した動作のアドバンテージは,今しばらく続くのではないだろうか。


図6●Video Toaster for NTで使われるFrame Factory1/0カード

図7●圧縮,非圧縮の両方をサポートするDPSのdpsReality

図8●PlayのTrinity

■デジタル合成ソフトウエアの高速処理に期待

 デジタル合成ソフトウエアは,しばらく前までは,After Effectsが定番だったが,最近ではDiscreetのeffect*,paint*,eyeonのDigital Fusion,Puffin Designsの,Commotionも広く使われるようになっている。Digital OriginのRotoDVやNothing RealのShakeVideoなど新しい製品も登場してきた。それぞれの持つ個性により使い分けたり,複数を組み合わせて使用するといったスタイルが浸透しつつあるようだ。
  従来放送向けのハイエンドマシンでしか使用できなかったモーショントラッカーやモーションスタビライザを搭載している製品も多く,UltimatteやPrimatteなど高精度なキーヤーが使用できるものもある。こうした非常に高度な合成がそこそこの価格で手に入るようになったことは非常に喜ばしい。
図9●EffettoProntoの画面
 しかし,ハイエンドシステムと比べるとまだまだレンダリング時間がネックになってしまう。これは今後CPUの高速化でだいぶ解消されるだろうが,それまで待てないという人は,lCE fxやEffetto Prontoなどのアクセラレターカードを使用して生産性の向上を図ることも一考に価するだろう。
lCE fxは,専用のアクセラレータカードBlue lCEを使用して処理を高速化しているエフェクトプラグイン(www.iced.com,日本の販売はイメージアンドメジャーメント)。最高50〜120倍高速化できるという。After EffectsやAvid Media composer7.0,Avid Xpress2.0,Com-motion,Media100上で使用できる。
 Blue lCEには,4プロセッサを使用したBasic Blue-ICEと8プロセッサを使用したUltra BluelCEがある。AfterEffectsを使用する場合,従来はlCE専用のエフェクトしか高速化できなかったが,最新バージョンではAfterEffectsのすべてのコンポジションを高速化できるようになった。ドーターカードのBluelCE SDIをオプション追加すると非圧縮D1解像度のビデオ入出力ボードとしても使用することができる。
 VideonicsのEffetto Pronto(www.videonics.com,日本の販売は東和インターナショナル)はプラグイン形式ではなく,専用合成ソフトをアクセラレーターカードにより高速化させている。インタフエースは一見AfterEffectsに似ているが,操作性は若干異なる(図9)。
lCE fxにしろEffetto Prontoにしろ実際はどのくらい高速化されるか具体的に知りたい人も多いことだろう。残念ながらこの連載ではテストできなかったが,機会があったら本誌でレポートしてみたい。

■ますます進化するデジタルメディア

 今年のlnterBEEでは,HD(ハイディフィニション)製品が多数出品されていた。目前に迫ったデジタル放送に向けて,ハイエンド製品はHD分野で火花を散らしている。
 また,インターネットを使ったストリーミング映像の分野では,低い転送レートでいかに高画質の映像を送るかが大事
なため,その圧縮コーデックのよしあしが論じられている。
 このところぱっとしなかったDVDも,PlayStation2の発表以来,にわかに盛り上がり始めている。PS2がDVDの再生機能を持っているので,DVDの普及に弾みがつくのでは,という予想からだ。
 このように,デジタルメディアは大きく変化しその裾野も広がりつつある。だが,そのメディアで流れるデジタル映像そのものは同じであり,作り事のクリエイティビティが問われることに変わりはない。デジタル技術が進歩して,エフェクトや合成が簡単にできるようになったとしても作り手の感性がなければ,いいものは作れない。たまには野に出たり,芸術に触れたりしながら感性を磨かなければと思う今日この頃だ。


 2年間愛読していただいたDigital Video Wonderlandの連載は今回で終わりだが,来年以降も特集など単発のレポートを行う予定だ。質問などがあったら引き続き編集部にご一報頂きたい。

日経CG1999年12月号