映像制作


モニター調整は映像制作の命

 一般のテレビで視聴するCG映像を制作する人は,プロに限らず,セミプロやホビーユーザーでも増えている。ただし,高価なNTSC用のマスターモニターを使用してモニタリングしている人は少ないと思われる。ではコンピュータディスプレイを使ってできるだけ正確にビデオ信号を扱うにはどうしたらよいだろうか? これに失敗してしまうとせっかく制作したコンテンツが台無しになってしまうので,制作する際に気を付けておかなければならない。
 最初は,ビデオカメラとビデオ映像の原理,ビデオモニターとコンピュータ・ディスプレイの違いという話から始める。ビデオ編集を理解するために必要なことであり,さらにテープに記録するフォーマットの選択に役立つだろう。最近の面白い製品の話も入れておいた。その次に,モニターの調整方法を,実際の手順に沿って解説しよう。

■ビデオカメラとビデオ映像

 まず,簡単にビデオの仕組みを言うならば,ビデオカメラで撮影した被写体は,ビデオ信号として電気信号に変わり,ビデオテープに記録される。記録されたビデオ信号は,ビデオデッキで再生され,ビデオモニターで光に戻る。われわれはそれを映像として鑑賞することができる。

ビデオカメラの原理

 ビデオカメラで撮影した被写体はレンズを通り,撮像管(真空管の一種)または撮像板(CCD)で電気信号に変わる(図8)。民生用ビデオカメラの場合,一般にCCDが/使われている。現在では業務用でもCCDを使用しているものがほとんどだ。
 業務用や高級民生用では3つのCCDを使用し,光の三原色の赤(R),緑(G),青(B)用に別々のCCDを使用することで,色の分離の良い映像を得ている
 CCDでRGBに分離された電気信号は,ホワイトバランス,解像度,階調特性,色再現性などの要素に対応した電子回路により各種補正が行われる。民生機の場合は基本的にオートで処理されるが,太陽光,室内光,月光などの光の色温度の違いなどをマニュアルで調整できるものもある。


図8●カメラの原理

ビデオカメラのガンマ特性

 映像の調子を決める大きな要素にガンマ特性がある。これは,入力と出力との関係であるが,ガンマが1.0の場合,45°の角度の理想的な直線となり,入出力が正比例する(図9)。しかし,実際にはカラーテレビやカラーモニターに使用されているCRTのグリッドに加えられた輝度信号は管面で正比例せず,約2.2乗に比例する(つまりNTSCモニターのガンマは2.2)。
 そのため,カメラ入力からモニター出力にいたるカラーテレビ系のどこかに,1/2.2釆の回路を設け全体の特性が直線になるように補正する必要がある。当初家庭用のTVに組み込むには複雑だったため,カメラ側に組み込まれた。この回路をガンマ補正回路という。


図9●ガンマ補正例

コンポジット信号のNTSC方式

 アメリカや日本のTVで使用されている白黒テレビと互換性のあるカラーテレビ方式は,NTSC(National Television Standard Commitee)方式と呼ぶ(表4)。このほか,世界にはPAL方式やSECAM方式があることをご存知の方も多いだろう。
 コンピュータのビデオ信号ではRGBの各色と,同期のための(水平・垂直)同期信号が別々の配線として必要であるが,NTSC信号では輝度信号(ルミナンスLuminance信号)と色信号(クロミナンスChrominance信号),そして同期信号(Sync信号)がひとまとめとして組み合わされている。
 このように1つにまとめられた信号をコンポジット信号とも呼ぶ。1つにまとめたことでTV等への遠隔搬送利用が簡単であるが,解像度や色の再現性では若干のロスが生じる。


表4●NTSC,PAL,SECAMの比較

NTSC以外のビデオ信号

 RGB信号はコンピュータディスプレイで広く使用されている。また,ハイビジョンの一部でも使用されている。色信号を最初から最後まで分離して扱うため,画質や解像度が高く,色再現性にも優れている。
 YUV信号はRGBの3色を輝度信号(Y)と2つの色差信号U(R−Y),V(B−Y)に変換した信号だ。少ない配線で済むし,データ量を少なくできるため,長距離伝送で高画質を実現したいときに有利になる。輝度(Y)と色差(R−Y,B−Y)はマトリクス回路で簡単にRGBに復元できる。業務用βカムなどに使用されている。
 Y/C信号はRGB信号を輝度信号(Y)と色信号(C)の2つの信号に分離した信号でSVHS,S端子,セパレート信号ともいう。

ビデオテープのフォーマット

 一般的に輝度信号(ルミナンス)と色信号(クロミナンス)を組み合わせたコンポジット信号の場合,色と映像の解像度が低下してしまう。ビデオテープへの記録方式も1つのビデオトラックにビデオ信号を記録したコンポジット方式と,輝度信号(ルミナンス)と色信号(クロミナンス)または色差信号(U,V)に分けて別々のトラックに記録するコンポーネント方式がある(図10)。コンポジット方式に比べ,コンポーネント方式の方が色や解像度の再現性は優れている。


図10●ビデオテープのフォーマット

■ビデオモニターとコンピュータディスプレイ

 ビデオモニターはインタレース,コンピュータディスプレイはノンインタレースという違いがある。
 テレビでは画面のちらつきを防ぐために,まず,走査線を1本おきに飛び越して描き(これを1フィールドという),次に残りの半分を措いて1画面(これを1フレームという)としている。これをインタレース(飛び越し走査)という。インタレースは各テレビ方式に採用されており,NTSCの場合60フィールド30フレームの映像で構成される。
 これに対し,すべての走査線を順番に描いていく方式をノンインタレース(順次走査)という。これはコンピュータのティスプレイに広く採用されている。
 したがってテレビ映像をコンピュータティスプレイで表示した場合,インタレースの線が日立つ場合がある。静止画でキャプチャするとインタレースの線の入った映像になる。

アンダースキャンとオーバースキャン

 ビデオ用のモニターには,ビデオ信号の全体を確認するために一般のテレビより狭い範朗に画像を表示する機能がある。これをアンダースキャンという(図11)。こうすると画像サイズは小さくなるがそれまで見えなかった四隅まですべてをチェックできる。
 言い換えるなら,一般のテレビでは映像の周囲は見えていないことになる。このような状態をオーバースキャンという。
 映像制作時には必ず全体の映像を表示して確認できるようにしないと写ってないと思っていたものが写っていたりしてしまう。また,逆にコンピュータディスプレイで制作した画面の四隅は見えないことになるが,この度合いはTVモニター(家庭のテレビ受信機など)によって異なる。したがって,一般的に全画面の90%を動画のセーフティーエリアとし,テキストなどの文字は80%のセーフティーエリアに収まるように作成する(図12)。


図12●セーフティーエリア
2つの白粋がセーフティーエリア。外側が動画用、内側がテキスト用。

図11●アンダースキャンとオーバースキャン

カラーバーとセットアップレベル

 カメラやVTR,あるいはモニターなどの動作状態を確かめるための基準信号としてカラーバー信号を用いる。ビデオ信号を記録する際には基準となるカラーバーを必ず記録する必要がある。再生の際にこのカラーバーを基準にモニター類を調整すると,撮影された映像を適正の色で再現することが出来る。
 ジェネレータ(信号発生器)で発生されるカラーバーの色は光の三原色の赤(R),緑(G),青(B)とその補色であるシアン,イエロー,マゼンタおよび白と黒で構成される。カラーバーにはいろいろな規格があるが,一般的にはSMPTEカラーバーが多く使用されている(図13)。
 アメリカで録画された映像をアメリカのTVモニターで再生表示すると黒は真っ黒で表示される。しかし,そのテープを日本に持ってきて日本用のTVで再生表示すると黒が少し明るく表示される。
 これは,アメリカのNTSCと日本のNTSCではセットアップレベル(ビデオ信号の基準となる黒信号レベルのこと)が異なっているためである。このセットアップレベルはアメリカでは7.5IREが,日本では0.0IREが用いられている。したがって,日本で映像を使用する場合は,セットアップ0.0IREのカラーバーを使わなければならない。
 セットアップレベルは,Macintoshの場合は機能拡張で調整できる。Windowsの場合は,通常はビデオボードのユーティリティなどで設定する。セットアップレベルを7.5IREに設定した米国の映像を日本で使う場合は,TBC(タイムベースコレタタ)やカラーコレタタなどを使用して0.0IREに補正する。

図13●SMPTEカラーバー

■モニターの調整

 いよいよモニターの調整方法について解説しよう。手順を図14にまとめた。
 最終的にNTSCに出力する場合は,やはりNTSC用のマスターモニターを用意し,制作の過程で随時モニターチェックすることが望ましい。しかし,ビデオ映像をコンピュータ用ティスプレイでモニターする場合は,黒レベルやコントラスト,ガンマ,色温度,ホワイトバランスなどを,NTSC用のモニターの特性に合わせることが必要である。
 このような調整はちゃんとやっておかなければならない。手順通りにやっておけば,制作したコンテンツをテレビで見てびっくりするようなことにはならないはずだ。映像制作をする場合はモニターの調整が命だ。

黒レベル

 黒レベル(Black Lebel)は,ブライトネス(Brightness)とも呼ばれる。言葉の通り,入力するビデオ信号と明るさの関係を調整する(図15)。
 具体的には次のように行う。セットアップレベル0IREのカラーバーの場合,その一部にビデオ信号レベルの-4IRE,0IRE,+4IREの3種類の黒からなる,プルージ信号と呼ばれる部分がある(図13)。この黒の部分を使ってビデオのモニターの黒レベルを調整する。調整の方法は,−4IREと0IREは真っ黒で,+4IREがかすかに見える明るさに黒レベルを調整すればよい。

ピクチャー(コントラスト)

 ピクチャーの調整では,自をできるだけ明るくした方が,明るさのダイナミックレンジを広くとることができる(図16)。しかし,あまり明るくすると,細かい線がにじんだり,明るい部分の階調がつぶれて,白とびとなる場合もある。グレースケールを表示して,階調が綺麗に表示されるように調整する。

ガンマ

 NTSCモニターの場合,ガンマ値は2.2に設定されているが,コンピュータティスプレイでは通常のグラフィック作成時は1.8に設定されている場合が多いだろう。しかし,コンピュータディスプレイでNTSC用のビデオをモニターする場合は,ガンマ値を2.2に設定し,NTSCモニターの特性に合わせなければならない。
 MacでPhotoshopを使っている場合,コントロールパネルでガンマ値の調整が出来る(図17)。
 Windows機を使用する場合,最近ではビデオボードに付属するユーティリティソフトなどでガンマ調整ができるものも増えてきた。

色温度とホワイトバランス

 モニターの色温度は,ビデオの各方式または各国や地域で規格として定められている。したがって,これに従わないと意図した色が再現されない。日本ではD93(約9300K)と決められており,ビデオ作品を制作する場合は9300Kにする(アメリカやヨーロッパなど世界のほとんどはD65(約6500K)が使用されている)。
 モニターによってはこの色温度を持ち合わせてないものもあるが,その場合近似値で使用する。
 色温度を調整してもグレーや,暗部の色温度がずれる場合がある。これらはビデオのマスターモニターではバイアスとゲインで調整する。具体的にはグレースケールを表示し,バイアスで暗部の色温度を,ゲインで明部の色温度を調整すればよい。
 最後にカラー調整を行う。カラーバーを表示し,RGBのバランスを調整しながら色の表示を適切にする(Macの場合は図17のRGBのスライダで調整可能)。


図15●黒レベル調整の原理


図16●ピクチヤ(コントラスト)調整の原理


図17●Macintoshのガンマコントロールの画面縞模様をなくすようにGamma Adjustmentを調整する。


図14●モニター調整の手順
コンピュータディスプレイ(CRT)を使った場合。電源オン後,1〜2時間おいてから以上の調整をする。
1〜2はコンピュータディスプレイの基本的な調整であり、本文では特に解説していない。
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