映像制作


 ノンリニア編集機の新製品が、ここのところ各社から発表されている。中でも一番の注目株はなんといってもソニーが発売したノンリニアシステムではなかろうか。ビデオ系の人にとっては、激変するコンピュータ系の会社から発売されるシステムより、従来からなじみが深いソニーから発売されれば、それだけでも安心感があるに違いない。
 そんななか、先日開催されたNABで注目を集めたノンリニアシステム(圧縮ボード)にTRUEVISION社のTARGA2000RTXがある(写真1)。TARGA2000RTXはTARGA2000PROをベースにリアルタイムエフェクトを可能にした圧縮伸長ボードだ。つまり、TARGA2000PROを完全なNTSCノンリニアマシーンとして登場させたのだ。たしかに、いままでもオンボード上のDSPにより、エフェクト処理の高速化は図られていたのだが、それでも、けっして速いとはいえなかったようだ。これで、編集時のエフェクト待ちによるストレスから解放されることになるだろう。
 もちろんTARGA2000RTXの特筆すべきことは価格にもある。従来の他社のリアルタイムエフェクト搭載機は高価なものが多かったが、業務機クラスの値段で発表されたのだ。また、真に注目すべきはこれらのボードが、他社のノンリニアシステムの圧縮伸長ボードとして採用され、OEM供給されていることだ。AVIDのメディアコンポーザーの圧縮伸長部に使用されているのはよく知られており、マックエキスポで発表されたソニーのDVC用の編集システムにも使用されているようだ。そして、さらにその数が増えているらしい。
特に、DVCPRO用にDVCPRO-TARGA2000RTXを松下と協力開発しているというプレス発表は興味深い。もちろんデジタル入出力もできるようだ。
 このように、他メーカーへのOEM供給が広がっているということはTRUEVISIONのユーザーにとって、将来の明るい展望も示してくれている。なぜなら、どんなにいい製品をつくってくれても、つぶれてしまってはユーザーにとっては因るからだ。そんなわけで、
TRUEVISIONもTARGA2000も、しばらくはひと安心といったところだろうか。もちろん、ノンリニアの世界は安心したらいつ抜かれるかわからないといった戦国の世界ではあるのだが。
 さて、今回はTARGA2000RTXのベースになっているTARGA2000PROの試用レポートをお届けしたい。


写真1●TARGA2000RTX


写真2●TARGA2000(PRO)

TARGA2000シリーズ性能表
●映像
カラー方式:NTSCまたはPAL
入出力:コンポジット(RCA)またはS映像。Pro Upgrade追加でGBR、S/Gs、B、R/Y、PB、PRに対応(NTSC、ベータカム、PAL、SMPTE/EBU)
解像度:640×480または648×486、Pro Upgrade追加で720×486(NTSC)。768×576(PAL)
A/Dコンバーター:8ビット
D/Aコンバーター:9ビット
デジタル映像方式:4:2:2
色彩領域変換:YUB to 24ビット RGB
ガンマ補正テーブル:各領域ごとに256×8ビット
ゲンロック入力:ブラックバーストまたはコンポジット
映像圧縮:モーションJPEG、プロセッサー形式LSI、クロックスピード55MHz、ピクセルデータレート44Mバイト(連続)、ピクセルごとに24ビット量子化
ビデオ帯域:−3dB@6MHz以上(sinx/xコンペンセーションフィルター使用時)
ゲイン差(DG):2%以内
フエイズ差(DP):1.5°以内
Kファクター(2Tパルス):1%以内
コンポーネント遅延:20ns
●音声
プロセッサー:水晶チップ型番CS4216、64倍オーバーサンプリング、デルターシグマA/DならびにD/A変換
入力:不平衡/インピーダンス20kオーム(RCA端子)
出力:不平衡/インピータンス600kオーム(RCA端子)
AD/DAコンバーター:16ビット
周波数特性:48kHzにて20Hz〜20kHz
ソフトウェア制御によるゲイン:1.5dBステップ
デスクトップディスプレー機能:解像度;1152×870、1024×768、832×624、640×870、640×480。ハードウェアパン/ズーム;2〜6倍。出力信号;RGB、Hsync、VsyncMID、D-2、Sync on Greenまたはexternal sync。出力端子;HD15オス(Mac)、HD15VGAメス(DOS/V)。D/Aコンバーター;各色毎10ビット。ガンマ補正テーブル;各色毎256×10ビット。ピクセル:24ビット
ビデオウィンドウマネージャー:ビデオリサイズ機能;2Dフィルター。ビデオブレンド機能;256階調。内部ビデオポート;3種類(ビデオ入力・出力、圧縮)。内部ビデオポート帯域;640×480×30フレーム/秒(37Mバイト/秒)、768×576×25フレーム/秒(44Mバイト/秒)。
ハードウェアBLIT:100Mバイト
オンボードDSP:プロセッサー型番;AT&T3210不動小数点DSP。専用プロセッサークロックスピード;55MHz/PCIMac、50MHz/PCI DOS/V。専用プロセッサー用メモリー;128kバイトSRAM。メモリー帯域;237Mバイト/秒
メモリー:フレームバッファーメモリー;4Mバイト VRAM。オフスクリーンメモリー;16Mバイト DRAM バスインターフェース:Mac NuBusモデル;NuBusスロット Mac PCIバスモデル;PCIバススロット DOS/V PCIバスモデル;PCIバススロット、ノンシェアーPCIインタラプト
大きさ:12.75×4インチ
消責電力:27W
問合せ先:フォーカルポイントコンピュータ・営業部
TEL03(5484)0140

はじめに

 筆者がTARGA2000を知ったのは、昨年の秋ごろだった。輸入専門誌の広告欄の片隅に『いま、最も画質のいいボード』と小さく書かれたコメントに目が止まったときだった。折しも、RadiusのVideo Vision Studioが成熟期を迎えていたときだ。
『いま、最も画質のいいボード』という言葉は、筆者の脳裏に深く刻まれることになるのだが、その後TARGA2000をテストする機会に恵まれず、なかなか真の評価がわからなかった。
 そんな広告に心揺れながらもVideo Vision Studioのユーザーだった筆者が選択したのはRadiusのVideo Vision StudioからTelecastへのアップグレードだった。
 現在、Telecastは価格的にみて、とりあえず納得しているのだが、今回TARGA2000のコンポーネントモデルであるTARGA2000PRO、PCI版をテストできることになり、喜んで挑んだ次第である。
 TARGA2000PROはMac用にはNubus版と、PCI版が存在する。今回テストしたのはPCI版である。また、動作環境としてPowerMac9500 120MHzモデルにメルコ製の32MB DIMMを2枚搭載して使用した。ディスクには、ディスクアレーとしてMicroNetのAVシリーズ「Digital A/VStation」を、SCSIカードにはATTOのWideSCSIカードExpressPCIを使用した。
画像編集ソフトはAdobe Premiere4.2.1を用いた。

TARGA2000PROについて

 TARGA2000PROはJPEG圧縮伸長ビデオボードで、映像入出力系にコンポジット、Y/CおよびRGBまたはYUVのコンポーネントをサポートしている。また、ゲンロックをサポートしているので、既存のビデオシステムとの親和性もある。
 デジタイズ能力はフルサイズ、フルフレーム(30フレーム/秒・60フィールド/秒)でリアルタイム圧縮伸長を行うのは当然で、解像度はCCIR601準拠の720×486NTSCである。気になる圧縮率だが、最も低いのは、YUVにおいて4.4:1、RGBにおいて7:1ということであるが、これでいくと4Mバイト/sのレートということになる。

 TARGA2000PROはオンボードにDSPチップをもっており、Adobe Premiereの6つのプラグインエフェクトを高速処理することができる。カタログによると、2倍(PPC604/132MHz)から5倍(PPC601/80MHz)の高速処理を行えるということである。しかし、今回テストした結果では、他のフィルターとの差はあまりなかった。たぶん使ったマシーンが高速マシーンだったからかもしれない。
 また、画像の表示処理および圧縮伸長時に活躍するDRAMがなんと24Mバイトも乗っている。画像の展開をここでやっているためか、キャプチャー後のオープン等がきわめて速く表示される。
図1●TARGA2000PCIコントロールパネル:ここでセットアップが0.0IRE or 7.5IREでセットできる
 また、オンボード上に2MバイトのVRAMをもっているため、本体にビデオボードをもたなくても1152×820の解像度で24ビットフルカラー表示ができる。そのとき、同時にNTSC画面にも同じ画面を表示することができる。
 TARGA2000PROはインストールされたTARGAのコントロールパネルで解像度、および入出力系を設定する(図1)。ここで、解像度は720×486以外にも640×480および648×480NTSCもサポートしているように出るのだが、実際には設定しても使用できなかった。これは、コントロールパネルがTARGA2000PROだけではなくTARGA2000の設定項目も兼ねているためだろう。TARGA2000PROは基本的に720×486のみのサポートのようだ。
パフォーマンスについて

 画像のキャプチャーの方法だが、TARGA2000のソフトウェアをインストールするとpremiere4.2上で、現在使用しているディスクのパフォーマンスを図れるようになるので、最初にここでディスクのパフォーマンスを図る(図2)。そして、つぎに圧縮レートを設定するのだが、圧縮レートは先ほど調べた、ディスクのパフォーマンスを超えないように設定する(図3)。 画像の表示、およびpremiere上でのQuickTimeMovieの再生はかなりスムーズに行えた。特に、ムービーをオープンしての再生はほとんどコマ落ちなしで行える。しかし、プレビュー画面を通してみた場合は、かなりのコマ落ちとなってしまった。この画面がコマ落ちなしで行えると文句なしなのだが・・・・・・。
 ところで、以前、デモで見たNuBus版ではもっとパフォーマンス(7Mバイト/sぐらい)が出たように記憶しているのだが、なぜなのだろうか。今回使用したディスクアレーシステムは優秀なものであるから、ディスクによるリミットがかかっているとは考えがたい。
カタログデータではMAXで200kバイト/fということなので、6Mバイト/sぐらいまでは流せるはずなのだが・・・。今回は5.5Mバイト/sでコマ落ちが生じた。200kバイト/fはMAX値なので、まあこのぐらいのものだろうか(ちなみにTARGA2000RTXはMAX360kバイト/f)。
 つぎにTARGA2000のうたい文句であるDSPチップによるエフェクト速度をテストしてみた。
 高速処理ができるフィルター6つと、そのほかのフィルター3つでテストした結果は表1のとおりであるが、思ったより差がなかった。これは使ったマシーンが高速のものだったので、マシーンのCPUの処理速度とDSPの処理速度があまり変わらないためだろうか。下位マシーン(PM7500/80MHzなど)を使えばその差は出てくるのだろう(もちろん値段も違うが)。以前MEDIA100のテストの際、エフェクト処理をしたスピードと比べるとけっして速いとはいえない。もうちょっと高速だとうれしいのだが。ちなみに、今後TARGA2000RTXが発売されればリアルタイムエフェクトができるわけであるから本当に待ちどおしいかぎりだ。もちろんTARGA2000PROユーザーは、TARGA2000PROからTARGA2000RTXにアップグレードできるわけだ。


図2●ディスクパフォーマンスのテスト


図3●圧縮レートの設定


図4●ガンマ、ゲンロック設定コントロールパネル


図5●Premiereでの操作中の画面。
素材のムービーはスムーズに見ることができるが、 プレビューウィンドウを通すとコマ落ちしてしまう。
Premiereの問題かもしれないが解決してほしい


表1●3500kバイト/sで取込んだ画像をl秒間のトランジション効果をかけた場合
※Power Mac9500/120を使用したためか速度差はほとんどなかった

図6●キャプチャー画面を水平・垂直で調節できる

画質について

 ベータカム撮りした素材をPVW-2800からコンポーネント出力し、圧縮比(転送レート)を変えてキャプチャーしてみた(カラーp.35参照)。
 画質を見て感じのは、高圧縮時、特に500kビット/s時にはモザイク状の圧縮がかかっている。筆者は通常、ビデオのオフラインには500kビット/sを用いることが多いが、VideoVisionStudioと比べるとモザイクがちょっときついようだ。しかし、色の鮮度はいいようだ。ただし、これだとものの判断がつきにくいので、オフラインとして用いるにはもう少しレートを上げて使ったほうがよいだろう。1000kビット/sぐらいになると色の鮮度もあり、オフラインとしては充分だろう。
 2000〜3000kビット/sあたりが、VHSからS-VHSの画質といったところだろうか。4000kビット/sになるとかなり画質はよくなり、ノイズ感もほとんど目立たない。4500〜5000kビット/sになると見方にもよるだろうが、ベータカム、ベータカムSPクラスといってもいいのかもしれない。なお、5500kビット/sでの取込みはコマ落ちが生じたので参考までに示す。
 オンラインで使用する場合の画質だが、色の鮮度もよく、細部のディテールもよくVPの編集にはまず文句なく問題なく使えるだろう。全般的にTARGA2000PROは高画質で、特にディテール感と色の発色、抜けがいいようだ。

TARGA2000PROの画像例
※圧縮伸長後の画像比較。写真下の記述はキャプチャーサイズ、()内はAdobe Premiere4.2で見た平均転送レート

500kバイト/S(590kバイト)

1000kバイト/S(995kバイト)

1500kバイト/S(1.4Mバイト)

2500kバイト/S(2.1Mバイト)

4000kバイト/S(3.7Mバイト)

5500kバイト/S(5.0Mバイト)
最後に

 マルチメディアからビデオまで幅広く仕事に使っていこうとした場合、現在ある圧縮伸長ボードでは選択肢はかなり絞り込まれていくが、そのなかにあって、(いまさらいうのも変だが)TARGA2000シリーズは特に期待できる製品だといえるだろう。特に、マルチメディアよりもビデオ映像の仕事で使用することが多い場合は、今回テストしたTARGA2000PROは最適なマシーンの1つだろう。そして今後発売されるTARGA2000RTXへもグレードアップできるわけだから、実にたのもしい。
 ところで、Premiere4.2から9pinVTRを制御するディパイスコントローラーProVtr4.5.4(¥6万5000)と、VTRの任意の位置に挿入できるPipeline Recoder2.1(¥11万5000)がフォーカルポイントから発売されているので、購入の際は、併せて購入したほうがいいだろう。Pipeline Recoder2.1はかならずしも必要なものではないが、VTRの任意の位置にビデオのみや、音声のみを挿入することができるので、あると大変便利である。ちなみにVideoVision Studio(Nubus)用のProVtr4.4やStudioRecorder1.2はTARGA2000には使用できないのでそのつもりで。
 また、最近VideoVision StudioのボードなしでもVideoVisionで圧縮したムービーを開けるSoftStudioなるものがRadiusから無料配布されているが、このソフトを用いてファイルを開くことで、TARGAフォーマットで圧縮し直すことも可能となる(TARGA2000 NuBus版Video Visionファイルを開けるが、PCI版は開けないから)。


写真3●今回のテストに使用した機材システム


表2●TARGA2000シリーズの性能比較

●機材協力:アップルコンピュータ株式会社  株式会社メルコ  
ビデオアルファ1996年6月号