映像制作


 今年のNABで、気になる話を聞いた。使用されていたマシーンのほとんどがPCマシーンだったそうだ。しかもほとんどがWindowsNTマシーンだったと開く。なんとMacの置かれたコーナーはポツンとあっただけだそうで、あのAdobe社でさえデモンストレーションにはPCマシーンを使っていたと聞く。こんな話を聞くと、もう時代はWindowsNTへと流れているのを実感する。
 筆者が思うに、ノンリニアマシーンや映像処理で見た場合、まだまだMacのほうが有利だし安定していると思う。特に音を伴った場合、まだまだMacのほうが安心だ。これはQuickTimeの信頼性がAVIよりも勝っているからだ。しかし、それ以外を除けばその差はほとんどなくなってきているのも事実だ。
 QuickTime3.0のWindows版、Mac版同時リリースに伴い、Windows上でQuickTimeを正式採用するソフトが増えそうな気配もあり、将来像を考えてみると今後はWindowsマシーンのほうが有利になりそうだ。これは、コストパフォーマンスから見ればはっきりいえる。なぜか同じソフトが、Windows版のほうが安かったりするのだ。そして、メーカーにとっても利用者の多いPCのはうが利益が見込めるからだ。
 なにはともあれ筆者もWindowsNTの比重を大きくしようとしている。もちろんMacもDTP用など使い分けをする予定だ。というのも3DCGをやるにはもはやWindowsNTはなくてはならなくなったからだ。しかし何度もいうようだが、特殊映像効果用のソフトにおいては、まだ充分な数がそろっているとはいいがたい。したがってNT版のAfter Effects3.1版(6月ごろ予定)か、それに代わるものが出るまではMacのAfter Efffectsに頼らざるを得ないのが現状だ。
 そんななか、一足速くNT上に登場した特殊映像効果用のソフトがeyeon Software社のDigital Fusion(デジタルフュージョン)だ。このDigltal Fusionは本誌の昨年12月でも速報として報告していたが、今回Digital Fusion1.1を試用する機会に恵まれたので詳しく紹介したい。

■はじめに

 Digital FusionはDPS社の子会社のeyeon Software社(http://www.eyeonline.com/)が開発しているノンリニア上で行う特殊効果の画像処理ソフトだ。そして、Digital Fuslonには通常のスタンダードタイプと機能限定のLE版およびフィルム出力の可能なFilmバージョンの3つがある。このソフトを一口にいってしまえばいわゆるAfter Effectsのようなものだが、開発元にいわせると、SGI上で動くDiscreet Logic社のFLINTやFLAMEが対抗馬であり、そのNT版であるらしい。したがってもっと目線は高い。
 CPUはDEC AIphaとIntel Pentiumに対応しており、バージョン1.2からはpentiumIIに対応し同時にMMXにも対応する。MMXに対応することで画像処理のスピードアップにかなりの期待がもてる。また、完全なマルチステッドアーキテクチヤー、マルチCPUにも対応している。このためカタログによると、Dual Prosessorマシーンで使用すると演算速度が2倍になるらしい。一般的にはDual Prosessorの場合、レンダリングスピードはせいぜい1.5倍くらいのアップであるので、おそらくDigltal Fusionの場合も1.5、2倍くらいと考えられる。しかし、完全なマルチプロセスで作動するので、画像の表示などでは体感で2倍は感じるのかもしれない。いずれにせよ、MMX搭載PentlumIIのマルチプロセッサータイプで使用すればかなりのパフォーマンスの期待がもてそうだ。しかし、残念なことに、今回はバージョンの違いでこれらのパフォーマンスはテストできなかった。
 今回のテストはDEC Alpha chip 300MHzを搭載したRapter3というシングルプロセッサーの高速マシーンにスタンダード版Digital Fusion1.1を使用して行った。また、ビデオの入出力にはDPSのPerceptionを使用した。

■Digital Fusionの特徴と機能

 Digital Fusionの特徴は、そのインターフェースにある(図1)。これは、Adobe After Effects等がレイヤーをもったタイムライン上に動画像を並べていくのに対し、Digital Fusionの場合、動画像を1つのオブジェクトと見立ててFlowLayoutに並べていく。そしてこれらは自由に関係をつけることができ、そしておのおのにベジェ、スプライン、タイムラインおよびキーフレームをもたせてコントロールすることができる(図2)。この際、下のラインになるほどレイヤーの上位となり、これらのレイヤーも無制限に組むことができる。
 また、デジタルフィルムの入出力において、解像度2kと4kの64ビットカラーデプスでの処理が可能で、KodakのCineonログカラー画像をサポートしている(Filmバージョン)。
 また、DPSのHollywood、10ビットD-1非圧縮デジタルビデオを用いた場合でも色再現を忠実に行うことができる。
 ここで、主だった機能を列挙しよう。


図1●Digital Fusionのインターフェース

●スプライン(図2)

 すべてのエフェクトコントロールは(時間軸とエフェクト座標上の)スプラインカーブでコントロールすることができる。そして、スプラインはスムーズ、リニアの2つのモードをもち、それらの変形も可能となっている。


図2●スプライン

●モーションパス(図3)

 スプラインモーションパスは、レイヤーエフェクトあるいは機能制御の動きをコントロールできる。このモーションパスもリニアとスムーズの2つのタイプがある。モーションおよびパスはそれぞれ別のタイムライン上でコントロールすることができ、キーフレームも双方同時にあるいは単独でも設定できるようになっている。


図3●モーションパス

●入出力

 TRGA、TIFF、JPEG等のファイルタイプのインポート、セーブやロードは当然サポートしており、Kodak Cineonフォーマットのダイレクト入出力にも対応している(Filmバージョンのみ)。
 また、DSP Hollywood、Perception、PARを使用した場合、ダイレクト入出力が可能で、ロードしたデータのリアルタイムプレビューも可能となる。他のビデオ入出力ボードたとえばTARGA2000シリーズなどを使用した場合はAVIファイルとして入出力できるので心配はいらない。
 イメージサイズやフォーマットの異なる画像のミックスやフレームあるいはフィールドプロセスもNTSC/PALの両方で実行可能だ。フィールドドミナンスでのミックス、NTSCとPAL画像のミックスも1つの合成作業のなかで行うことができる。

●バックグラウンドカラー(図4)

 バックグラウンドカラーは四方四隅で独立したカラー設定が可能のため、グラデーションもかなりきれいに行える。


図4●バックグラウンドカラー

●イメージマニュピレーション

 拡大・縮小、移動、回転、ストレッチなどのすべてのパラメーターはタイムライン上でコントロールすることができる。画像の切り抜きやリサイズなどにより画像の一部抜粋も可能。

●コーナー/パースペクティブピンニング(図5)

 画像のコーナーを別のレイヤーの画像へ自由に移動させ張り付けることができる。動画の中の掲示板などに完全にはめ込んで、3次元の奥行のある映像をつくり出すことが可能である。反対にパースペクティブピンニングはピンニングされたパースペクティブを与えられた画像をフラットな画像につくり替えることができる。


図5●コーナー/パースペクティブピンニング

●カラーコレクター

 ヒュー、ルミナンス、サチュレーション、RGBの各パラメーターの調節ができ、LUTはハイライトを超える部分やシャドー部分までも正確にコントロールできる。

●クロマキー・マットキー(図6)

 After Effectsの場合のクロマキーは、単にキーで抜くという感じだが、Digital Fusionのクロマキーは、フルレンジのαチャンネルを作成し、そのエッジをぼかしたりすることが可能で、マットを拡大・縮小したときでも完全なコントロールによってルミナンスキー信号を生成可能だ。つまりαマットを生成するのだ。したがって、同色のキーで抜くのとは違い、色むらのバックにも強い。また、クロマスクリーンのバックグラウンドからの色漏れも、Haloリジェクション機能により防ぐことができる。


図6●クロマキー・マットキー

●ワープ(図1)

 最新のDVEタイプのワープエフェクト、ドリップ(波紋)、デフォーム(歪み)、デント(くぼみ)フレグメント(爆発)、ボルテックス(渦巻き)を装備。これらを同時に加えることで、よりパワフルな効果を生み出すことができる。

●ブーリアン合成

 レイヤー同士のミックスはADD、OR、XORといったブーリアンを用いて合成。もちろん通常のマルチプライ分割、カット、コピー、ペーストといった磯能をレイヤー間で自由に使用することも可能。

●トラッキング(図1)

 画像のステデイング、スタビライゼーションコーナーピンニングなどをオートトラッキング機能にて自動的に行うことができる。トラッキングポイントは無制限でドリップのようなトラックエフェクトも簡単に作成することができる。

●テキスト(図7)

 プラグインのキャラクタージェネレーションとしてCharGenがある。TrueTypeフォントを使用し位置、角度、色、大きさを自由にアニメートできる。日本語にはまだ対応していないようだ。


図7●テキスト
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ビデオアルファ1997年7月号