映像制作


 数年前まではDTV(デスクトップビデオ)といえば、「パソコンおたくが行う、お遊び程度の映像編集のためのシステムである」といった誤った認識をされていた映像業界の諸氏も大勢おられたことだろう。しかし、その当時からDTVの可能性は相当高かったわけで、当時からそれらのパソコンベースのマシーンで、さまざまな作品を制作し活踵されている人も多数いるわけだ。現在はDTVの発展した形としてノンリニア編集機といった新たな名称を受け、進歩し続けているのである。
 いまや、映像業界の人にとって、ノンリニアシステムは注目の的であるに違いない。ここまできても、ノンリニア編集機を軽視する人は見裾えた根性の持ち主か、はたまた将来のない鈍感な人に違いない。ノンリニア編集機の導入は、現にポストプロダクションにとっては死活問題なのである。
 現在ノンリニア編集機には、パソコンをベースに、ビデオ入出力ハードウェアと画像編集ソフトウェアを組み合わせた動画圧縮システムから、ワークステーションを用いた非圧縮の放送レベルシステムまで多数存在している。これらには、他社のソフトウェアを組み合わせることができるものから、専用のソフトのみで稼働するものまである。もちろん、ソフトウェアのバージョンアップに伴いマシーンの性能や操作性を上げることが可能であるのはいうまでもない。
 このように多数の選択肢が存在するので、ユーザーは自分に合ったノンリニア編集機を選択することが可能となる反面、どんなマシーンを導入したらよいのか、導入の際どんな点に注意したらよいか、とまどうことにならないとも限らない。
 そんなわけで、ノンリニア編集機の導入にあたって、少しでも手助けができればというのが本稿のねらいである。

ノンリニア編集機のメリット,デメリット

 ノンリニア編集機の特徴は、時間軸に沿って編集するテープ編集(リニア編集7)とは異なり、時間軸を意識せずに編集することが可能である点だ。したがって編集したカットを即時に入れ替えたり、カット間に挿入したりすることを、いとも簡単に行うことができる。これは、画像をデジタル信号としてコンピュータのハードディスクなどに収納することにより、ランダムアクセスが可能となったためだ。
 また、もう1つの特徴としては、操作のためのインターフェースを視覚的にすることにより、効率的な編集を可能としている点だ(図1)。
 たとえば、画面上で編集カットの並びや素材を確認できるため、必要カットを探すためにテープを巻き戻したりする時間が必要ない。もし、編集したカットに戻るとしても、タイムコード入力で一瞬で戻ることができる。
 しかし、このようなメリットの陰には、テープ編集時には必要なかったビデオデジタイズという作業を行わなければならない。これは、アナログビデオ信号をデジタル信号に変換する作業である。このデジタイズの作業を効率良く行うことさえできれば、後の作業はテープ編集よりもずっと効率良く編集できるはずである(図2)。
 また、別の見方をしてみると、ノンリニア編集機の最大のメリットとして、非常に経済性に優れていることが挙げられる。多くのノンリニア編集機はスイッチャー(ソフト的、ハード的の違いはあるが)を内蔵しており、それ自身でABロール以上の編集ができる。また、従来のワイプ、ディゾルブを初め、特殊エフェクトをかけることも可能である(図1)。これらの処理にはハードで行うタイプとソフトで行うタイプがあり、ソフトで行う場合には計算のためのレンダリング時間が必要となる。
 いずれにせよ、ノンリニア編集機と人出力用のビデオレコーダーが1台あれば編集システムを構築できることになる。ビデオレコーダーを共有すれば、その後ノンリニア編集機を1台増やすごとに1つの編集システムを構築することも可能だ。


図1 視覚的なインターフェースを採用しているノンリニア編集(アドビ・プレミア)

DTVでどんな仕事ができるか?

 DTV(ノンリニアシステム)の導入により、どのようなことができるのか、そのメリットを目的別に見てみよう。

■マルチメディア

 DTVはマルチメディアから始まったといっても過言ではないが、現在、マルチメディアでの利用のされ方として、パソコン向け、ゲームマシーン向けCD−ROMタイトルで使用するMovieの制作がほとんどだろう。また今後は、インターネットなどのネットワーク上で使用するためのMovieの制作にも利用されていくだろう。
 筆者が知っているA社では最近、ビデオデータの圧縮サービスを始めた。3DOやプレイステーション(Playstation)などのゲームソフトで使用するための実写や3D CGの圧縮サービスだ。このビデオ人出力にノンリニアシステムを使用しているのだ。この会社の売りは、高画質取り込みによる高画質圧縮である。当然、下手な圧縮屋とは一線を画している。

■アーティスト

 DTVの最大の魅力は、1人で画像編集から特珠効果、音楽効果まで行うことができる点にある。これは芸術肌の人には最もとり付かれる魅力の1つだろう。彼らは充分に時間をかけ、いろんなソフトを駆使し、1人で作品を完成させていくだろう。そう考えると、今後デジタルアーティストが台頭してくることは間違いないだろう。

■企業内ビデオの制作

 一般素人にはいままでは難しかったビデオ編集も、ノンリニアシステムを導入することで、視覚的に編集することが可能となり、編集が楽しくなるであろう。これで、導入はしたけれども使用しないといったことは、少なくともなくなるはずだ。
 そして、導入における最大の利点は経済的であるということも大きなポイントだ。つまり、ビデオ編集室を仰々しく設置しなくてもいいし、室の片隅に置くことも可能である。昔ながらの考えをみんな取っ払ってしまえば、実に低コストで編集システムを組めるのだ。ここで、社内報やイベント記録映像などをつくってしまえば、外注の必要もなく非常に経済的だといえる。

■教育の現場

 従来のキャラクターベースの編集機を用いたビデオ編集システムは、学生を初め教師にとっても、お世辞にも使いやすいとはいいがたい。したがって、いままでに導入されているビデオ編集システムは、一部の担当者以外は繰作ができずに、眠っているケースも意外とあるのではなかろうか。
 ノンリニアシステムを導入すれば、視覚的な編集インターフェースにより、だれでも簡単に編集ができるようになるだろう。少なくともいままで見向きもしなかった人たちが、興味を示してくれることは間違いない。
 学生たちに解放すれば、いち早く操作を覚えるに違いない。未来のデジタルアーティストの卵たちが育つのも夢ではない。

■制作プロダクション

 映像制作のプロダクションは、編集作業をポストプロで行っているのが普通だろう。バブル崩壊後、そのしわ寄せは、制作費の低下となって制作プロダクションに訪れている。かといって、映像クオリティを落とすわけにもいかず、頭の痛いプロデューサーも多いことと思う。そういうところにノンリニアシステムを導入すれば、編集費の削減をすることができるだろう。
 ノンリニアシステムの場合、決して専用の編集者がいる必要はなく、ある程度コンピュータが触れる人であれば短期間で覚えることができるだろう。場合によっては、ディレクターに操作を覚えてもらえれば、確実に編集コストを下げることができる。そして、簡単なオンライン編集やオフライン編集に利用することで、かならず元は取れるはずだ。
 現在、CM制作ではポストプロにアビッド・メディアコンポーザー(Avid Media Composer)などを使用してオフライン編集を行い、そのEDLデータを基にD−1オンライン編集をするところが増えている。たしかにこれでも従来の方法でやるよりも低コストで、しかも効率良い編集ができるだろう。しかし、EDLデータに限っていえば、もっと低コストのマシーンでも出力は可能であり、思い切ってこちらの製品でも勝入したほうが経済効果は大きいと考えられる。ノンリニアシステムを導入することで、確実にコストの削減を図れるのではないだろうか。
 コンピュータグラフィックスなどの制作会社においては、CGをビデオ出力するのにノンリニアシステムを用いることになるだろう。従来のように編集室にもち込んでコマ撮りする必要もなく、時間もお金もかからない。そして、CGの合成作業をノンリニアシステムで行うことで、さらに効果的なCG制作が可能となるだろう。

■ポストプロダクション

 ポストプロダクションにおいては、ノンリニアシステムの導入は今後必至と考えられる。導入時には、現在のシステムを最大限に生かしてノンリニアシステムを組むことができる。しかし、その反面、低価格のノンリニアシステムが販売され、制作プロダクションが購入すると、自分たちの仕事がなくなるのではないかといった心配が出てくるだろう。したがって、現在の業務状況と今後の方針を的確に判断し、いつ、どのようなシステムを導入するかが大きなかぎになる。導入時の間違いは死活問題に発展しかねないのだ。
 「低価格マシーンとは一線を画したノンリニアマシーンを導入し、差別化を図る」か、はたまた「低コストマシーンで安く提供する」か、難しいところである。


図2 ノンリニア編集作業の流れ
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