映像制作


 ここ数年のノンリニア編集システムの進歩はめざましいものがある。ノンリニア編集で欠かすことのできなかったMotionJPEG圧縮技術もいまでは非常に成熟した技術のため、各メーカーの技術格差は非常に小さくなったといえるだろう。また、最近ではハードディスクの高性能(高速転送レート)化、大容量化、低価格化が日々進んでいるため、一昔前のように高圧縮(低解像)での編集にこだわることもなく、低圧縮・高画質でのノンリニア編集が手軽に楽しめるようになってきた。
 また、DVカメラの登場で民生レベルでもDVノンリニア編集を低価格かつ高画質で楽しめるようになった。もちろん業務レベルのDV機器も充実し、いまではベータカムを追い越す勢いさえ感じる。そんな人気に後押しされて、DVノンリニア編集製品も各メーカーからプロフェッショナル向けから民生レベルまで、幅広いラインナップが登場してきた。選択肢が増えた分、決めるのもたいへんだ。
 さらに、しばらく前に登場したPlayStation 2によりDVDが再注目を受け、併せてDVD-ROMドライブやDVD-RAMドライブ、またDVDプレーヤーが低価格化したこともあり、MPEG2圧縮によるノンリニア編集にも注目が集まり始めた。
 さて、このようにめまぐるしく変化しているノンリニア編集の環境だが、市場の成熟化にともない、非常に幅広い製品が登揚してきたため、ユーザーにとって選択時に大きな悩みを抱え込むことになっている。どのような製品を購入し、どのようにシステム構築したらよいのか。数万円で手に入るビデオボードと数百万のシステムの違いはどこにあるのか。使ってみたけど、思ったような使用感が得られないなど、その問題は山積みしている。
 筆者も専門誌で執筆している関係上、いろいろな相談を受けることが多いが、そんな人のために最近インターネット上にDVWorld(デジタルビデオワールド www.DVWorld.net)をオープンした。初心者から業務レベルまで悩みを解決できるサイトを目指しているので、ぜひのぞいてみてほしい。
 というわけで、今回はノンリニア編集/合成システムの傾向と選択のポイントをお話ししたい。新規導入や増設のお役に立てれば幸いだ。

ノンリニア編集システムの近年の傾向

 まず、ノンリニア編集システムを大別すると以下の7つとなる。
(1)DVコーデックを使用したもの
(2)MotionJPEG圧縮コーデックを使用したもの
(3)MPEG 2圧縮コーデックを使用したもの
(4)非圧縮に対応したもの
(5)HDTVに対応したもの
(6)インターネットストリーミングに対応したもの
(7)上記のコーデック、フォーマットに複数対応したもの
 これは、ハードウェアの観点から分類しているが、使用目的がはっきりしていれば、ハードウェアから選択していったほうが理解しやすい。しかし、ノンリニア編集システムの使用感は編集ソフトウェアで大きく異なるので、最終的にはそれらのハードウェアで使用できる編集ソフトとの組み合わせを考慮して選択することになる。編集ソフトは初めから添付しているものにかぎられているものや、後から選択できるものなどがあるので、そこらへんも考えなければならない。
 さて、最近のノンリニア編集システムの傾向として、2000年末から始まるBSデジタル放送のHDTVに対応したシステムや、インターネットのブロードバンド化をにらんだインターネットストリーミングヘの対応、また先にも述べたDVDに対応したMPEG 2編集など、数多くのフォーマットに対応したノンリニア編集機器が登場している。
 ここでは、これらのフォーマットを使用した場合の特徴をお話しするとともに、最近の傾向や選択のポイントを市販されてる製品も列挙しながら解説していこう。

■DVフォーマットを使用したノンリニア編集システム

 民生用のDVカメラの人気もさることながら、最近では業務でもDVカメラにより撮影されるケースが増えてきた。これは、アナログに比べ色のにじみやダビングによる画質劣化が少ないなど、1/5圧縮をしているにもかかわらず高画質を楽しむことができるところによるといえるだろう。また、DVの性能を100%活かすためにはカメラ部の性能の善し悪しも重要になるが、業務レベルにおいてはその性能は充分に楽しむことができ、かつ価格的にも従来のベータカムのカメラよりも安価に手に入るところも起因しているのだろう。
 さて、このように幅広い支持層をもつDVのため、DVノンリニア編集機器は、下は数千円のDV入出力ボードから上は数百万円のシステムまで非常に幅広くなっている。また、最近ではAppleのiMacやソニーのVAIOノートなど、標準でDV入出力端子を備えているパソコンも多数存在している。では、これらのシステムではどのような機能や性能が異なっているのか、簡単に説明しよう。
 iMacやVAIOノートなどに搭載されているDV端子は、DVカメラなどのDV機器からDVデータを入出力できる。そして、添付された編集ソフトウェア(たとえばiMovieやDVgate assemble)を使用すれば非常に簡単にノンリニア編集を行うことができる。しかし、これはあくまでも初心者にとって簡単に編集することができるということであって、編集作業になれた人には逆に使いづらかったりする。これは、使いたい機能がかぎられており、本格的な作業を行えなかったり、行えても非常に時間がかかったりするからだ。
 しかし、編集ソフトウェアを変えることで、機能や操作性を上げることができる。低予算で組み上げるオフラインマシーンや持ち運び可能なオフラインマシーンとして考えるなら、非常に優秀なシステムに組み上がる。しかし、本格的な編集を行うには少々荷が重い。これはハードウェアが 単にDVの入出力をもっているにすぎず、編集作業やエフェクトをすべてソフトウェアで行わなければならないからだ。
 低価格でもわりと使えるシステムには、DigitalOrigin EditDV、カノープスDVRaptorなどがある。EditDV、DVRaptorともに専用のソフトウェアを使用し、DVRaptorはAdobePremiereを使用することもできる。それぞれ、DV機器の操作が確実にできる。EditDVはエフェクトのレンダリング時間を高速処理してくれるので作業性が増す。
 そして、本格的な編集システムを考えているのなら、Matrox RT2000やPinnacleSystemsのDV500などがお勧めだ。これらはデュアルストリームの映像信号を流せるので、リアルタイムでのトランジション効果をかけることができる。そのほか専用のハードウェアの力を使用することで、繰作性のよいDVノンリニア編集が可能となっている。また、同程度の機能/価格のシステムとしては、カノープスのDVStorm−RTも挙げられる。これは同社のDVRex−RTの廉価版ともいえる製品で、DVRex−RTの約1/3の価格でほぼ同じ機能を実現している。

 そして、さらに業務用の編集システムを組みたいのなら、Matrox DigiSuiteDTVやカノープスのDVRex−RT Professionalなどは本格的な編集作業にも応えてくれる。Matrox DigiSuiteDTVは編集ソフトをPremiereからInciteに変えるとさらに操作性を上げることができる。DVRex−RTの上位機種となるDVRex−RT Professionalは、コンポーネント入出力、9ピンコントロール、バランスオーディオ、オーディオレベルメーターなどが追加され、ピークメーターやオーディオゲインコントローラが搭載された19インチラックマウント対応の本格的なブレークアウトボックスも標準で装備されるなど、かなり魅力的な製品となっている。
 このほか、ハードウェアコーデックは持ち合わせていないものの、パソコンにIBMのIntelliStationを採用したDV専用のターンキーシステムとして、Avid XpressDV on IntelliStation M Proが挙げられる。同社のAvid XpressNTのDV対応ソフトウェアを搭載していることで、操作性はもちろんのこと、安心感も得られる。50種頚以上のトランジション効果のほか、ストリーミングビデオヘの出力も備えている。
 また、Media100iなどはMotion JPEGのノンリニア編集システムで定評あるシステムだが、DVオプションを利用することで、DVノンリニア編集も行うことができる。操作性はもちろんすばらしい。


Matrox DigiSuite DTV


カノープス DVRex−RT Professional

■MotionJPEG圧縮コーテックを使用したもの

 MotionJPEG圧縮のビデオ入出力ボードの画質の差は、高圧縮で比較するとはっきりする。特にブロックノイズの乗り方ではっきりわかる。しかし、最近ではハードディスクの性能が上がり、また大容量化と低価格化により、高圧縮での編集はあまりやらなくなってきた。そのためボードによる画質の差は、表面上わかりにくくなってきたといえよう。1/3以下の低圧縮ならかなり高画質を得ることができるだろう。 DPS dpsVelocity
 しかし、ぜひ理解しておきたいのは、アナログ信号を入出力しデジタルに変えるAD/DA変換部の性能が、画質に影響しているということだ。これは、DVのように安いボードも高いボードも入出力による画質の劣化がないのとは異なることに注意したい。したがって、できるだけ高画質を求めるのならコンポーネント入出力の可能なボードを使用したほうがよい。業務レベルの編集を行うなら少なくともY/C入出力は必要だろう。
 さて、Motion JPEG圧縮コーデックを利用したビデオ入出力ボードは最近まで低圧縮・高画質化が進み、製品も出そろった感がある。
 そして、業務レベルのものとして、デュアルストリーム(リアルタイムエフェクト)に対応したマシーン化が進んできた。PinnacleSystems TARGA2000、DPS dpsReality、DPSdpsVelocity、Matrox DigiSuiteLE、Media100i、iFinishなどがラインナップされる。これらの上位機種の製品はここにきて非常に落ち着いた感があり、成熟しきった製品群ということになる。とりわけ、新製品の話はあまり聞かない。
 さて、これらのリアルタイムエフェクト製品は、基本的には2次元のトランジション効果やDVEエフェクトが標準で搭載されており、3次元エフェクトにはオプションボードを使用して対応できる。どれもすばらしい製品だが、使用できる編集ソフトとしては、TARGA2000、DigiSuiteLEがPremiere、edit、Speed Razorなど、DPS dps VelocityやMedia100i、iFinishには専用の編集ソフトが添付される。

■MPEG2圧縮を使用したもの

 最近はDVDが見直され始めたこともあり、MPEG2の圧縮フォーマットを使用したノンリニア編集システムも登場している。MPEG2はフレーム間圧縮を行うのでDVフォーマットやMotionJPEGに比べて高圧縮のわりに高画質が期待できる。フォーマットの性格上、特に動きの少ない映像にはもってこいであるが、動きの激しい映像では圧縮による画質劣化が現れ始める。しかし、映画などの長時間の映像を記録するには画質面を考慮してももっとも優位なフォーマットといえるだろう。
 MPEG2はフレーム間圧縮を行っているため、従来はフレーム単位での編集は非常にむずかしかったが、最近ではフレーム単位での編集も可能となっている。
 MPEG2が扱えるビデオ入出力ボードには、MPEG2のみしか扱えないもの(PinnacleSystemsのDVD1000、DVD2000など)から、MPEG2のほかDVフォーマットも扱えるもの(Matorox DigiSuiteDTV、RT2000など)までさまざまだ、また、なかにはDVフォーマットで編集後MPEG2で吐き出すなど、とりあえずMPEG2に対応したもの(PinnacleSystemsDV500など)もある。
 MPEG2が扱えるビデオボードとして、お勧めできる製品にはPinnacleSystemsのDVD2000があげられる。これはコンポーネント入出力をもち高画質での編集作業が可能なうえ、DVDオーサリングソフトMinerva Impressionというマルチアングル付きの本格的なオーサリング機能が搭載されているので、本格的DVD制作も可能だ。このほか、後述する同社のTARGA3000にもMinerva Impressionが同梱されている。DV500、DVD1000にはMinerva Impressionの下位モデルMinerva DVDが同梱されている。また、MatroxのRT2000やDigiSuiteDTVにはSONIC SOLUTIONSのオーサリングソフトDVDit!が同梱されている。

■非圧縮、ロスレス圧縮に対応したもの

 より高画質を求めるなら非圧縮に対応したものが必要になる。しかし、非圧縮ともなると1秒間の転送レートはYUV4:2:2で21Mバイト/s、RGB4:4:4なら30Mバイト/sものデータ転送量が必要となり、ハードウェアの負担も大きい。そのため、非圧縮に対応したボードではデュアルストリームに対応せず、シングルストリームのものが多かった。たとえば、PinnacleSystemsTarga2000DTXは非圧縮対応だがシングルストリームだ。DSPのdpsVelocityは圧縮から非圧縮まで扱えるが、圧縮時はデュアルストリーム、非圧縮時はシングルストリーム対応になる。NewTekのVideoToasterNTも非圧縮に対応しているが、現在ではシングルストリーム対応だ。近い将来オプションボードの追加でデュアルストリームが可能となるようだ。
PinnacleSystems TARGA3000
 一方、非圧縮ではないが、非圧縮クオリティを実現しているのがMatrox DigiSuiteのロスレス圧縮だ。これはMotionJPEGの非可逆圧縮とは異なり、画質劣化をともなわない圧縮方法だ。この方法だとハードウェアの負担も軽減し、Digisuiteはデュアルストリームでの編集も可能となっている。
 これらの製品はどれも登場してしばらく経っており、非圧縮製品群も安定した感があった。しかし、最近とてつもない製品が登場した。PinnacleSystemsのTARGA3000だ。これは非圧縮YUV4:2:2:4(約30Mバイト/s)のほか非圧縮YUVA/RGBA4:4:4:4(約42Mバイト/s)を最大3ストリームの転送が可能だ。また同時にグラフィックストラックスを4ストリーム追加してリアルタイム再生を行うことがでさる。なんともマンモス級のスペックをもったボードの登場だ。
 また、DV/MPEG2映像も扱えるので、使用用途の幅は非常に広がる。ただし、Motion JPEG圧縮コーデックはサポートしていない。圧縮を使うならDVまたはMPEG2を使えばいいといった割り切りからだろう。現在対応している編集ソフトはPremiere5.1だけだが、Pinnacle独自のプラグインドライバーによりエフェクト系や画質調整など非常に優れた機能が搭載されている。今後はin-sync Speed Razorやdiscreet editに対応する予定だ。今後台風の目になる製品にまちがいない。

■HDTVに対応したもの

 HDTV放送をにらんでHDTVに対応した製品も出始めてきた。なんといっても今年のNAB2000で衝撃的な発表はMac用に開発されたPinnacleSystemsのHDTV対応ボードTARGACineである。
 また、BOXX TechnologyのFusion Boxx HDやAvid|DSHDなどはすでに登場しているようだが、当然価格的に非常に高価だ。そこに突如登楊したのはDPS dpsReality HDだ。執筆時の現段階では価格は明らかにされてないが、DPSのこれまでの傾向を見るといままでとは比べようのない価格でHD編集が可能になりそうだ。編集に使用されるのはeyeonのDigital Fusion HDとなると、期待はますます大きくなる。ぜひ早く全貌を見たいものだ。

■インターネットストリーミングに対応したもの

 さて、インターネットのブロードバンド化は徐々にではあるが確実に近づいている。既存の電話回線の銅線(メタリック)を使用したDSL通信の場合1.5Mbps程度の速度が可能だ。規制緩和により年内には東京23区内でこのDSL通信が可能になるので、来年度はかなりの世帯にこのDSLを使用したインターネット接続が急増することが考えられる。そうなれば、もうブロードバンドの幕開けといっていいだろう。
DSL通信は海外ではすでにかなり広まっているため、メーカーもこのブロードバンドを見越しての開発が進んでいる。
 ここでいうインターネットに対応したものというのは、前述のビデオ入出力ボードを使用して、インターネット用ストリーミング映像を出力できるようにしたものを意味する。これは、ハードウェアというよりもソフトウェアに依存するところが大きいが、今後はこれらに対応したモデルであることが必要条件となる日は近いだろう。

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ビデオシステムと機材2000-2001