映像制作


ノンリニア環境のリアルタイム性

ノンリニア編集様にリアルタイムを求めるのは究極の願望である。そして、それは1つずつ確実にリアルタイム化されてきた。しかし、それが実現されるたびに編集者はまた多くの願望を抱いてしまう。このように、ノンリニア編集機における"リアルタイム"という言葉の意味は、時とともに大きく変わってきた。  ここで、簡単にノンリニア編集様におけるリアルタイム性の変遷を追うと
・フルフレーム、フルモーションでリアルタイム再生           
       ↓
・カット編集でリアルタイム編集             
       ↓
・ディゾルブ付きでリアルタイム編集         
       ↓
・ルミナンス、クロミナンスのリアルタイムコントロール             
       ↓
・多チャンネルオーディオのリアルタイムミクシング 再生             
       ↓
・2Dトランジションエフェクト、2D DVEを含んだリアルタイム編集             
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・3Dトランジションエフェクト、3D DVEを含んだリアルタイム編集             
       ↓
・画像処理(フィルター)を含めたリアルタイム編集となる。そして近い将来には
       ↓
・多重合成を含んだリアルタイム編集             
       ↓
・3D CGオブジェクトを含んだリアルタイム編集 という具合だろう。
 これはいい換えればノンリニア編集システムがスペ ック的には真のリアルタイムマシーンに近づいてきたことを意味している。そして、DVの登場で価格も大きく下がってきた。  しかし、残念ながらこれらの事実をクリアすれば即、真のリアルタイムマシーンになり得るかというと、現実は違う。つまり、これはあくまでハードウェアのもつリアルタイム性であり、映像作品を完成させるまでの過程におけるシステム全体でのリアルタイム性ではない。システム全体でのリアルタイム性を求めるなら、システムの安定性、ユーティリティソフトの充実、編集ソフトウェアの使いやすさ、確実でスムーズなVTRデッキコントロールなど、実はカタログではわからないことがかなり大きな要因になっていたりするのである。  今回は、価格破壊的に登場したpinnacle SystemsDV500(¥17万8000)、Matrox RT2000(¥19万8000)、そして日本から世界に放つカノープスDVRex-RT(¥49万8000)の、いわゆるDVノンリニア編集の御三家を採り上げ、それらのリアルタイム性とシステムコンセプトを総合的に評価してみた。

Pinnacle Systems DV500

 DV5OOのシステム構成は、ハードとしてDV入出力PCIボード(DV500)、ブレークアウトボックス、編集ソフトウェアとしてPremiere5.1E(将来的には日本語版に移行予定)が使用されている(なお、Premiere5.1は厳密にはバージョンcの5.1cで、この5.1cからRT版と一般市販品が同じものに統合された)。入出力はDVのほか、コンポジット、Y/Cでの入出力が可能で、オーディオも2ch(ステレオ)での入出力が可能だ。また、コーデックにはDVコーデックが採用され、DVネイティブで編集される。  ここで、DV500のもつリアルタイム性を見てみよう。 DV500は基本的に2Dリアルタイムエフェクトに対応している。つまり、2DのDVEおよびトランジションエフェクトである。また、映像の透明度もリアルタイムに処理できる。これらは同じタイムラインでは、どれか1つのみリアルタイムになる。また、アルファチャンネルをもつ32ビット静止画のリアルタイム合成にも対応しており、先に述べたエフェクト時に同時合成することができる。このほか明るさ、彩度などのカラー調整や カラー反転などもリアルタイム処理が可能だ。  2Dのトランジションにはワイブ系、ディゾルブ系を初め、Gradientワイプも可能だ。 Gradientワイプは8ビットのグラデーションマット画を利用したディゾルブで、同時に添付されるSpiceRackには、非常に沢山のパターンが用意されている。質もいいので編集にはかなり使えるだろう。  残念ながらDV500にできないのが3Dトランジションのリアルタイム処理だ。しかし、同梱されるpremiere用プラグインのFreeFXを使うことで高速レンダリングが可能になる。FreeFXはPremiereのプラグインとして供給され、DirectXによりグラフィックスボードの3Dアクセラレーション機能を使用して3D効果をアクセラレートする。1秒のエフェクトなら10秒前後での計算が可能だ。FreeFXのエフェクトは(波紋や湾曲など)3Dの形状変化を伴ったエフェクトで、非常に品のある仕事でも使えるエフェクト が多数そろっている。リアルタイムとはいかないまでも、高速レンダリングが可能なのでかなり魅力だ。  うれしいことにDV500にはTitleDekoが添付されてくる。これはpremiere用のプラグインで、Premiereの貧弱なタイトル機能を強化してくれる。タイトルのエッジや影などを簡単につくれ、ロール/クロールにも対応している。アルファ付き静止画で出力すれば、映像へリアルタイム合成が可能だ。ただし、ロール/クロールの場合はリアルタイムは無理のようだ。価格的にもそこまでは求められないだろう。  ところで、DV500はネイティブDVであるが、編集後にMPEG 1、MPEG 2に出力できる。これにより、Video-CDやDVD-Video制作に利用することができる。 オーサリングには同梱されてくるMinerva Impressionを使用すれはMPEG映像を編集できるほか、簡単なインタラクティブCDやDVDを制作できる。  このほか、ミュージック作成ソフトSonicFoundry Acid Musicが同梱されてくる。これは、用意されたサンプリング音源を使って、並べ替えたり、ループさせたりしながら音楽をつくれるもので、音程を変えずに尺(時間)を変えられる優れものである。  さて、仕事で使うなら重要になるのがディパイスコントロールだろう。DV500はサードパーティのPipelineDigitalの協力の下ディパイスコントローラーがつくられているようだ。PipelineDigitalは安価ながらもしっかりしたディパイスコントローラーを提供してきた会社だ。したがって、今回のテストでも的確なコントロールができた。しかし、時間の都合ですべてのディパイスをチェックしたわけではない。DVはディパイスの違いで制御できる内容に差があるので、購入前には自分のVTRとの相性を調べておく必要があるだろう。 また、業務用に9ピンのコントロールができるともっとうれしいかもしれない。


図1 DV500にはGradientワイブを初め豊富な
2Dトランジションが用意されている。
上図はそのほんの一部

図2 DV500の2Dトランジション設定画面


図4 DV500に添付されたTitleDekoの操作画面

図5 DV500のディパイスコントローラー

図3 DV500に同梱されたFreeFXの設定画面(上)と各種効果のプレビュー画面(下)

Matrox RT2000 

 Matrox RT2000はDV500のライバル的存在で、価格的にも¥2万高いだけだ。では、この¥2万の差はどこにあるのだろうか。  まず、RT2000の構成だが、ハードウェアとしてDV 入出力用のPCIカードにグラフィックスカードG400が付属する。入出力はDVのほかアナログとしてコンポジット、Y/C入出力があり、ブレークアウトボックスが用意されている。そして、編集はPremiere5.1(5.1c)日本語版を使用して行う。  RT2000の2D糸のエフェクトはスペック的にはDV500とほとんど同等である。ワイプ系、ディゾルブ系のほか、Organicワイプ(DV500でいうGradientワイプ)のリアルタイムエフェクトが可能だ。Organicワイプは上位機のDigiSuiteシリーズの場合キーフィルターのところで設定しなければならなかったが、今回やっとトランジションのところでできるようになった。インターフェースもビジュアル的で扱いやすくなった。用意されているエフェクトも仕事で使えるレベルといえるだろう。


写真2 Matrox RT2000
 さて、RT2000の特徴は3Dトランジションのリアルタイム処理にある。この手助けをしているのがG400である。G400はジオメトリーエンジンを搭載し、2D/3Dのアクセラレーションが可能なグラフィックスカードで、デュアルモニターに対応したタイプだ。しかし、リアルタイム編集時はMovie 2 Busに相当するケーブルでRT2000と内部でつなぎ使用するため、G400DHの片方のグラフィックス能力を使用するので、デュアルモニターでの使用ができるわけではない。
  3Dエフェクトは基本的には画像フレームを3次元で回転させたり移動させたりできるというもので、リニアでいう一昔前の3D DVEといったところだ。用意されたパターンを少しカスタマイズして使える。しかし、オーソドックスながらけっこう使い勝手はあるだ ろう。そして、唯一形状変化を伴った3Dトランジションがページカールだ。このページカールは品質もよく、いろいろなパターンが用意されているのでなかなか使えるのではないだろうか。このように、現時点では形状変化を伴った3Dエフェクトはページカール以外ないわけだが、今後はエフェクトパターンも増えてくるという話なので、ぜひ形状変化を伴った3Dトランジションの登場に期待したい。波紋とか、揺らぎができたら最高だろう…。
  さて、このほか32ビット静止画のアルファチャンネルを利用した合成や透明度による合成のリアルタイム処理はDV500と同様に行える。そして、RT2000の場合2D/3Dのリアルタイムトランジション効果と同様のものがフィルターでも使用できる。これにより、透明度と2Dまたは3D DVEを同時に扱える。たとえば、アルファキーで抜いてCGタイトルを合成する際、透明度で徐々に現れながら、動きは3D DVEを使用することができる。  もう1つの特徴はDigiSuite製品と同じくmulti-layer compositing engineを搭載していることだ。これにより、Premiereのタイムラインに多重にデータを重ねるような画像合成時にも、ハードウェアのアクセラレーションによって非常に高速にレンダリングができる。  RT2000の弱点はテロップ機能だろう。 これはRT2000の問題ではなく、Premiereのテロップ機能の貧弱さによるのだが、Premiereのオリジナルテロップ機能では、テキストのエッジに色をつけることができない。アルファベットの場合は必要性が少ないのかもしれないが、日本語の場合エッジ処理を行いたいものだ。ただし、 未定ながら、上位機種のDigiSuiteシリーズで使用されているプラグインでInscriberCGがオプションとして登場する気配があるようなので期待したい。なぐさめといってはなんだが、おまけで付いてくるUlead Cool 3Dは立体文字が非常に簡単につくれ、3D DVEと併用すればフライングロゴみたいなものが超簡単につくれるので案外仕事で使えるかもしれない。  ところで、RT2000はアナログ入力のときに限ってDVまたはMPEG2フォーマットでキャプチャーし、ネイティブDVまたはネイティブMPEG2で編集が可能だ。また、DVで編集したものでもMPEG2で出力できる。そして、DVDit! LEが付属しているので、簡単なインタラクティプDVDオーサリングが可能だ。  このほかにSonicFoundry ACID Musicが同梱されているので音楽も簡単に作成できる。  さて、最後にちょっと辛口だが気になった点として、筆者が試用した時点ではDV機器のデイパイスコントロールに若干の不安が残った点が挙げられる。タイムコードを使ったキャプチャーやバッチキャプチャー、正確なタイムコード位置への出力などに少々不安が付さまとったのだ。すばらしいスペックをもった製品だけにぜひ改善してもらいたい(現在、すべてのDV機器での検証がすんでいないものの、RT2000ユーザーに向けて上記を改善するバッチがMatroxのWeb上で公開されているとのこと)。


図6 RT2000の2D系エフェクトの1つOrganicワイプ


図7 RT2000のリアルタイム2D/3Dエフェクトの設定画面


図8 形状変化を伴った3Dトランジションであるページカールの設定画面

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ビデオアルファ2000年5月号