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山田浩之(やまだ ひろゆき)

本誌で好評連載中の「DIGITAL VIDEO WONDERLAND」の著者。映像,CG,Web,CD-ROMなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを主宰する。日経CGで販売中のノンリニア編集の初心者向け解説ビデオ「Premiere5.0によるノンリニア編集完全制覇」を制作した。
URL:http://www.b-artist.com/

 アドビシステムズから「After Effects 4.0日本語版」が発表になった(図1)。After Effects 3.0の発表が96年2月。バージョン3.1でバグフィックスを含めマイナーアップデートは行われたが,メジャーアップグレードは約3年ぶりということになる。この3年間で合成ソフトとして不動の地位を固めてきただけに,今回のメジャーアップグレードはユーザーにとって非常に待ち遠しかった。製品の出荷は4月下旬の予定だそうだが,今回ベータ版を使用する機会を得たので早速レポートしたい。
 After Effects4.0のユーザーインタフェースは基本的に旧バージョンを踏襲しているが,ほかのアドビ製品と整合性をとるために随所で変更が加えられている。また,操作性の向上が図られ,エフェクト処理の精度が向上した。加えて,新しい機能やフィルタの追加により合成ソフトとしてさらに進歩している。
 では,今回のメジャーアップグレードの主要機能について,具体的に見ていくことにしよう。

図1●After Effects4.0の画面ほかのアドピ製品と同じユーザーインタフェースになった

●ユーザーインタフェースの一新で操作性が向上

問い合わせ●アドピシステムズ
(03)5423-1860
【URL】http://www.adobe.co.jp/
 価格●Proパージョンが28万8000円,
 スタンダードバージョンが13万8000円
 出荷●1999年4月
稼働OS●MacOS
 Windows95/98/NT

 旧バージョンのインタフェースを踏襲しながらも操作性の向上を目指して,画面デザインは一新された。
 まず,プロジェクトウィンドウ(図2)だが,アドビのノンリニアビデオ編集ソフト「Premiere5.x」と同じような操作ができるウインドウに変更された。これにより,事前に定義された名前,ラベル,種類,サイズ,継続時間,ファイルパス,日付,コメントで分類表示できるようになった。これらは表示/非表示の設定,順番の入れ替えもできるので,読み込んだファイルの整理がやりやすくなった。これらのファイルにラベルを貼ってグループ管理ができるので,作業も効率良く行える。
 さて,After Effects4.0のユーザーインタフェースの一番の売りはタブ付きウィンドウだろう(図3)。
 コンポジション,フッテージ,レイヤー,エフェクト制御,タイムレイアウトの各ウインドウをタブ付きで表示し,表示を切り替えられるので,作業スペースを有効に使える。これらのタブは分離したり,統合したりすることが可能で,コンポジション,フッテージ,レイヤーの3ウインドウを1つにまとめることもできる。これらのウインドウとタイムレイアウトのタブの表示はリンクしているので,タイムレイアウト上で選択されたコンポジションはコンポジションウィンドウで自動的に表示される。
 ただ,選択されているタブの色(薄いグレー)と非選択のタブの色(グレー)の見分けがつきにくいことは気になった。例えば,すでに削除したにも関わらず,タイムラインウインドウに配置されたままになっているコンポジションファイルを(削除したことを忘れたまま)クリックして編集しようとしたとする。この時,コンポジションウインドウには(そのファイルは存在しないため),直前まで編集していた別のファイルの画像が表示される。しかし,似たようなコンポジションだと見分けが付かないので,そのまま,編集してしまうことがあった。こうした事故は,選択されたタブの色がもう少しはっきりした色なら,防げると思う。


図2●Premiereと同じ操作かできるようになり,便利になったプロジェクトウィンドウ

図3●タブ付きウインドウ

●ほかのアドピ製品のファイルが利用しやすくなった

 After Effectsはバージョン3.0からPhotoshopデータをレイヤーを保持したまま読み込むことはできたが,今回のバージョンからPhotoshop4.0以降の調整レイヤーも読み込めるようになった。Photoshop5.0のレイヤー効果情報(ドロップシャドウや光彩,エンボスなど)も,レイヤーを保持したままAfter Effectsの効果(Effects)プロパティに反映されるようになった。このように,Photoshopとの連携操作がさらにスムーズになったことは喜ばしい限りだ。ここまで来れば,いっそのことPhotoshopがAfter Effectsのプラグインのように扱えてペイント機能を直接扱えれば・・・という欲も出てくる。
 Illustratorについても,Illustrator7.0/8.0のファイルのRGBカラーが取り込め,Illustrator8.0のグラデーションメッシュのインポートが行える。レイヤー構成もそのままインポートできる。
 PhotoshopのマスクやIllustratorのパスをコピーしてAfter Effectsにペーストしマスクとして利用することもできる。この機能を使うことで,今回のバージョンで強化されたマスク機能をさらに強力に使い込むことができるだろう。
 Premiereとの連携も当然,考えられている。After Effectsユーザーの約半分がPremiereのユーザーであるという現状を踏まえ,Premiereで作成したプロジェクトファイルをAfter Effectsで利用できるようになった。
 Premiereで作ったムービーをAfter Effectsで利用するには,従来はPremiere側でいったんレンダリングしてムービーファイルを作り,これをインポートして利用する必要があったが,今回からプロジェクトファイルを直接インポートできるため,After Effectsの高品位なレンダリングエンジンを使ってAfter Effects内で一気にレンダリングできる。これにより,無駄な作業を一段飛ばすことができるようになった。

新しく搭載された注目の機能

今回のバージョンアップはユーザーインタフェースがアドビ共通になっただけではない。いろんな機能が追加,強化されている。主なものを順に見ていこう。

■RAMプレビュー
 RAMプレピューは,イメージアンドメジャーメントが販売しているビデオレタッチソフト「Commotion」が搭載していることで脚光を浴びた機能だ。After Effectsへの搭載を心待ちにしていたユーザーも多かったと思う。
 After EffectsにもRAMプレビュー(図A)が搭載されたことで,簡単にリアルタイムプレピューができるようになった。ただし,すべてのデータをメモリーに読み込むため,表示サイズや継続時間によっては膨大なメモリーを消費する。
 メモリーさえあれば,フィルム解像度のサイズでもリアルタイムプレピューができるわけだから,今日のメモリー価格の低下を考えると,これを利用する価値は大きいと思う。

■調整レイヤー
 タイムレイアウトウィンドウにPhotoshop同様の調整レイヤーを作ることができるようになった。このレイヤーにエフェクト効果を付けることで,下位のレイヤーすべてに効果を与えることができる。

■強化されたマスキング機能

 After Effects4.0では最高128個までのパス(ベジェ)をマスクとして任意のレイヤーに追加することができるようになった(図B)。これらのパスに加算,減算,交差などの組み合わせを設定して複合利用することができる。

■改良されたモーショントラッカー

 以前のProバージョンで使用できたモーショントラッカーによるモーションの検出方法は「トラックの位置(1ポイント)」,「トラックの回転(2ポイント)」,「トラックの位置と回転(2ポイント)」,「コーナーピン(4ポイント)」の4種類であった。今回のバージョンから「疑似コーナーピン(3ポイント)」が加わった。従来の「コーナーピン」も改良されて「遠近法コーナーピン(4ポイント)」となった。
 従来の「コーナーピン」だと遠近感まで計算されてしまうので,遠近感が必要ないときにうまくいかない場合があった。このような時,今回追加された「疑似コーナーピン」を使用し,レイヤー上の3ポイントでモーションを検出することで遠近感が計算されることなく,画像の大きさ,位置,回転だけを他のレイヤーに正確に反映させることができるようになった。
 また,モーショントラッカーすべてにおいて,エッジ強化オプションが追加されている。これにより,低コントラストのレイヤーを処理する場合でもトラッキングを正確にできるようになった。RGB値以外にも輝度や彩度を利用してトラッキングしたり,時間的に逆方向にもトラッキングできるようになっている。


図A●リアルタイムプレピューが可能になるRAMプレピュー

図B●最高128個のパスをマスクに設定可能
パスは加算,減算,交差などの演算をすることで,複雑な形状にできる。
画面は,顔全体のパスから目の周りに設定したパスで減算したところ
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日経CG1999年4月号