山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 今回から,新連載「ディジタルビデオワンダーランド」をお届けする。
 映画やCM,TV番組を見ても分かるように,今やCG制作とディジタル合成,ディジタルエフェクト,ノンリニアビデオ編集は切っても切れない関係にある。
 だが,CGクリエータにとって,ディジタルビデオの分野は知らないことが多いというのも事実ではないだろうか。この連載では,ディジタルビデオの初心者向けに,ノンリニアビデオ編集,ディジタル合成,ディジタルエフェクトなどのディジタルビデオのすべてを分かりやすく解説していく。(本誌)

図1●現在ヒット中の映画MEN IN BLACK(MIB)でも,
CGと実写の合成がふんだんに使われている
写真のロケットカーはILMが作ったCGだ。

 コンピュータグラフィックスス(CG)の技術は近年ますます進歩を遂げている。そして最近のテレビや映画を見ていると,すべてをCGで作ったものだけではなく,実写とCGあるいは実写同士が実に巧みに合成された映像が使われている。これらの合成映像は一昔前の映像とは違い,どこで合成が使われているか見分けがつかないほどである(図1)。実はそこにはディジタル映像処理技術がふんだんに使われているのだ。
 昔は,これらの合成処理には,テレビではビデオ合成,映画ではフィルムを光学的に合成するオプチカル合成が用いられていた。
 しかし近年では,コンピュータの発達にともないコンピュータを用いたディジタル合成やディジタルエフェクト,ディジタル編集が盛んに用いられるようになってきた。
 ディジタル合成やディジタルエフェクトは,10年ほど前に発売されたQuantel社のPaintboxやHarryに始まる。現在では同社のHenry,Dominoのほか,Discreet Logic社のFlintやFlameなどが利用されている。これらのディジタルシステムが,いわゆるハイエンドのノンリニアシステムである。
 このノンリニアシステムは,ディジタル化した映像をコンピュータ上のメモリーまたはハードディスク上に展開し,ソフトウエアにより映像処理を行うものだ。
 当初のシステムではハードディスクの性能が低かったことからハードディスクでのリアルタイム再生は不可能だった。そのためリアルタイム再生をするには膨大なメモリーを乗せたストレージシステムが必要だった。それでもリアルタイムに扱えるのは1分とか2分とか非常に短かかった。しかもメモリーも高価だったので,ストレージだけでもかなり高価であった。しかし,現在ではハードディスクの性能力が上がり長時間のリアルタイム再生も可能となっている。
 CMや映画で用いられているこれらのノンリニアシステムは,コンピュータにシリコングラフィックス・クレイ(SGl)のマシンを使ったいわゆるハイエンドシステムである。したがって,ポストプロダクションや一部の制作プロダクションを除いては,これらのシステムを購入するのは現実的ではないだろう。なぜならシステムだけで数千万から数億円もするからだ。
 しかし,あきらめるのはまだ早い。最近のハードウエアやソフトウエアの進歩により,ハイエンドマシンにも負けないシステムをある程度の価格で手に入れることが可能となってきたからだ。事実,パソコン用合成ソフトのAdobe After Effects(図3)を使用した合成映像はCMをはじめ映画でも多数使用されている。また,ハードウエアで見るとAVIDのMedia ComposerやMedia100(図4)などMacintoshベースのシステムで編集された映像がテレビ番組で使用されている。場合によってはさらに安いシステムで作られたものもあるかもしれない。
 このようにコンピュータの進歩によりCGとビデオ映像(またはフィルム映像)が融合し新しい映像分野が生まれているのだ。それにともない,従来は関係の薄かった,コンピュータ/CG業界と映像業界(ビデオ,フィルム)など別の分野の人が同じ土俵で仕事をする機会も増えてきた。
 しかし,ここで困ったことが予想される。というのは,コンピュータやCG寄りの人はビデオの知識に弱く,ビデオ系の人はコンピュータに弱いとう現実があるからだ。
 そこで,今回から始まる,『ディジタルビデオワンダーランド』ではCGデザイナやCGアーティストなどコンピュータ/CG寄りの人が映像(ビデオ,フィルム)業界で仕事をするのに少なくとも知っておかなければならないことや,知っておいた方が得する豆知識,これからノンリニア編集やディジタル合成を始める人にとってためになる最新情報をお話ししていきたい。
 ところで,筆者の仕事は映像制作をはじめ3次元CGやCD-ROM,Web制作まで幅広い。使っているマシンもPower Macintosh,Windows NTマシン(PentiumIIマシンやAlpha/533ベースのマシン),AMIGAなどが混在している(図5)。これらをネットワークでつなげて効果的に使用している。そんな筆者の仕事できわめて重要な役割を果たしているのもノンリニア編集機である。
 ノンリニア編集機を用いることで,映像の編集や合成,エフェクトCGのビデオ出力などディジタルビデオの真髄を得ることができる。
 もちろん,ノンリニア編集機と言っても専用機ではなく,先に述べたパソコンにビデオ圧縮伸張ボードを積み,ノンリニア編集システムとしているわけだ。したがって,いろんなアプリケーションソフトとの共存ができ,コストパフォーマンスも優れている。
 現在筆者が使っているノンリニア編集システムを具体的に述べると,MacintoshにはRadiusのVideo Vision Telecast,Windows NTにはDPSのPerception,Amiga4000にはNewTekのVideo Toaster Flyer,Amiga 2000にはDPSのParsonal Animation Recorder(PAR)を搭載している。
 現在使用しているシステムがベストとは言えないかもしれないが,これらを使い分けることでコストパフォーマンスよく質の高い映像を作り出すことができるのだ。もちろん必要に応じてポストプロダクションの編集スタジオも利用している。
 これらのシステムの特長は次回予定している「ノンリニア編集システム徹底比較」の中で詳しくお話しすることとして,第1回目の今回はビデオ編集とノンリニア編集について簡単にお話ししよう。すでに分かっている人にはちょっとつらいかもしれないが.とりあえずおつきあい願いたい。

★ハイエンドのノンリニアシステムも低価格化が起こっている。
最近発売されたマイクロソフトのSoftimage! DSのシステム価格は17(00万円だ(写真2)。

図2 マイクロソフトのSoftimage|DS


図3 パソコンでディジタル合成やディジタルエフェクトができるAdobe After Effects


図4 Macintoshベースのノンリニア編集システムMedia100の画面

図5●筆者の作業スタジオ

■オフラインとオンラインという2つの作業が必要な従来のビデオ編集

 従来のテープによるビデオ編集について少しお話ししよう(図6)。通常,本編集(オンライン編集)の前には仮編集(オフライン編集)を行う。オフライン編集は,オンライン編集を効率よく行うためだ。もちろん本編集を行う編集スタジオの料金を安く抑える目的もある。
 まず,オリジナルの素材をすべて1/2テープ(VHS)や8ミリテープ(またはHI8)にコピーする。この時,映像にタイムコードを表示させながらダビングする。ここでできたテープを「ワークテープ」と呼ぶ。
 次に,このワークテープを素材として,本当の編集と同じように必要な素材を必要な長さで編集していく。この際映像のつなぎは,オーバーラップやワイプなどの特殊効果を入れないカット編集を行う。トータルの時間が決まっている場合は1度の編集では時間がぴったり合わない場合がある。この場合は1度編集したものをやりくりして再度編集を行う。
 オフライン編集が終了すると,この映像をプロデューサやクライアントに見せ,本編集に入る前のコンセンサスを得る。ここでは本編集で行う特殊効果やテロップナレーションなどの説明も必要になる。
 コンセンサスが取れると,完成したオフラインビデオからオンライン編集用のデータを作成する。つまり,オフライン編集した映像上のタイムコードを読み取って,使用されている素材のlN点とOUT点を書き出し,エディットシートを作成する。実はこの作業が結構面倒なのだ。
 エディットシート作成が終了するといよいよオンライン編集(本編集)に入る。
 ところで,このオンライン編集の方法にはアセンブル編集とインサート編集がある(図7)。
 アセンブル編集とはマスターテープ(収録テープ)に対して時間軸にう沿って順次編集を行う方法で,編集しながらタイムコードを記録していく方法だ。
 インサート編集とは一度アセンブル編集されたマスターテープ(当然タイムコードも記録されている)や,あらかじめタイムコードのみが記録されたマスターテープに対して,映像または音声を挿入していく方法だ。
 一般的には,編集前にマスターテープにタイムコードを記録しておき,インサート編集でオンライン編集を行うことが多いようだ。
 さて,このオンライン編集では通常VTRは3台以上用意して,1台を「受け」としそれ以外の2台以上を「出し」として使用する(図6参照)。2台以上の出しVTRを使用することで映像のオーバーラップ(OL)が可能となる。これをABロール編集という。この際,出し側は録画のできない再生専用機でもいいことになる。
 また,「出し」と「受け」の間にはスイッチャやDVE(ディジタルビデオエフェクト),テロッパーを使用して編集を行う。スイッチャはオーバーラップやワイプ,DVEは2次元や3次元のディジタルエフェクト,テロッパーはテロップ作成を行う。このときVTRやスイッチャは編集コントローラにつながれており,lN点やOUT点,スイッチャの映像の切替タイミングをコントロールできるようになっている。
 オンライン編集はオフライン編集で作成したエディットシートをもとに編集を進める。この際,編集オペレータは編集コントローラに素材のlN点とOUT点を手で打ち込んでいく。
 もっとも,最近の編集コントローラは編集リスト(EDL)を記録したり,再利用できるようになっている。したがって,ノンリニア編集システムで行ったオフライン編集のデータをEDLに変換し,そのデータを利用して本編集を行うこともできる。EDLはCMX,GrassVallay,Sonyなど編集コントローラの機種により異なったフォーマットが用いられているが,ノンリア編集システムのソフトがそれらの編集コントローラに対応していれば,オフライン編集を正確にオンライン編集に再現できる(AVIDのMediaComposerはCM用のオフライン機として広く使われている)。また,編集後に直しが生じた場合でもEDLを用いることでスピーディな直し作業が行える。
 ざっと,従来のビデオ編集(リニア編集)を見てきたが,結構手間がかかるのがお分かりいただけただろう。つまり,従来の編集ではオフライン編集とオンライン編集という2つの作業を行わなくてはならず,しかも,オフライン編集後のエディットシート出しが結構手間がかかる作業なのだ。また,コスト面から見ると,本編集用の編集システムを組むには数千万円から数億円かかるのである。

★タイムコード:複数のVTR同士や,VTRとMTR(マルチトラックレコーダ)などの他の機械の間で同期を取る目的で使われる同期信号の一種で,通常はアメリカのSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)が規格化したSMPTEタイムコードを指す
 タイムコードはビデオ編集の際に各フレームのテープ上での絶対位置を知らせるために付けらわた通し番号のようなもので,24時間表示で00時00分00秒00フレーム”という形式で絶対時間が記録される。
 また,タイムコードにはLTCとVITCという2種類の記録方法がある。LTCは,テープが動いているときには記録したり読み込むことができるがテープが止まっていると記録や読み込みができない。VITCは映像の垂直ブランキング(つまりヘッドの回転方向)に記録されるので,テープがスローやスチル再生時でも読みとることができる(ヘッドは常に回転しているため)。
 通常VTRではLTCとVITCの両方を記録して使用するが,オーディオ関係のアナログMTRはVITCを記録できないので,これらとの同期にはLTCを使用する。
★lN点OUT点;編集した一つの素材の始まりをIN点,終わりをOUT点という。
★EDL:Edit Decision Listの略,先に述べたエディットシートを基に編集コントローラを使用して編集した編集点などの最終決定データのこと。EDLにはCMX,GrassVallay,Sonyなどの異なったフォーマットが存在する。通常フロッピディスクを使う。
図6 従来のビデオ編集の提影から編集までの流れ
(1)撮影
(2)キヤラ出し(ワークテープ作り)

βカムなとのVTRは映像にタイムコードを表示することができる。この映像を用いて,1/2(VHS)テープにダビングする。
(3)オフライン編集

ワークテープを素材こしてオフライン編集を行う。トータル時間が決ま
っている場合は,決められた時間内におさまるように編集を繰り返す。
4)本編集前の合意
プロデューサーや代理店,クライアントにオフラインテープを見せ,本編集前の合意をとる。合意がとれなかった場合,再度オフライン編集のやり直し。


(5)シート出し

オフライン編集したテープを再生しながら、映像のlN点0UT点をエディットシートに書き出す。これによリ,どの素材のどこの場所が,どの順番で並んでいるかを知ることができる。

(6)オンライン編集

送り出しVTRから再生された映像は,スイッチャで切り換えられ、録画VTRで録画される。
これらのVTRやスイッチャは編集コントローラで制御される。


(7)MA(マルチ・オーディオ)

オンライン編集が終了すると,MAスタジオでナレーションやBGMなどを入れる。


1)編集したマスターテープの音声を,タイムコードといっしょにMTR(24ch,48chなどのマルチトラックレコーダ)のチャネルにコピーする。この時,小型VTR(3/4など)にマスターテープの映像、音声、タイムコードすべてをコピーする(これは,いたずらにマスターテープを使用して、テープをいためないため)。

2)コピーしたVTRを再生させることで映像を確認しながら,MTRにナレーション,BGMを収録する。このときシンクロナイザで、MTRはVTRに同期する。

3)MTRでトラックダウンが終了すると、完成マスターのタイムコードに同期させながら,MTRの完成音を戻す。
図7●アセンブル編集とインサート編集
アセンブル編集
アセンブル編集は,順次編集しながら映像と一緒にタイムコードを記録するので,タイムコードがとぎれないように,END点は本来のOUT点より長めにとる。
インサート編集
インサート編集は,すでにマスターテープにタイムコードが記録されているので,マスターのどの位置にでも映像や音声を挿入することができる。
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日経CG1998年1月号