山田浩之
(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV番組,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,Webなどのマルチメディア制作会社B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らディジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,ディジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。PCを自作するなど大の機械好きである。

 前回までは少々堅苦しい教料書的な内容であったが,これも知っておかなければならない映像の基礎知識を説明するためだ。
今回はそんな教科書を閉じて社会見学に出かけよう。実際の現場を見るのは楽しいし読者も興味があるだろう。
 7月に公開される「くノ一忍法帖 柳生外伝」を題材にディジタルエフェクト作業の現場を紹介する。(本誌)
 Digital Video Wonderlandも早4回目となるが,基本的なことが続いたので,今回は,ちょっと趣向を変えて,フィルム(Motion Picture)におけるビジュアルエフェクトと題して,撮影現場とディジタルエフェクトの作業現場の様子をお伝えしたい。
 ところで,筆者は広い意味で,Motion Pictureのためのディジタルエフェクトもディジタルビデオと同じ位置づけにしている。近いうちにフィルム(Motion Picture)のためのディジタル基礎知識についてもお話しできればと思っている。そういうこともあって,情報収集もかねて訪れたのが,「くノ一忍法帖柳生外伝」の撮影現場とディジタルエフェクトの作業現場だ。では,早速お伝えしよう。

■時代劇とディジタルの融合

 「くノ一忍法帖 柳生外伝」は,お色気忍法で話題を取り,劇場版へと移行していった「くノ一忍法帖」シリーズの最新作である。原作は同シリーズと同じく山田風太郎の「柳生忍法帖」である。
 さて,今回の「くノ一忍法帖 柳生外伝」では,監督・主演に小沢仁志氏が抜てきされた。氏は「SCORE」で名を上げ,「殺しやとうそつき娘」で監督デビューを果たし,監督第2作目「THE BIG FIGHT」は昨年度の東京ファンタ上映で超大入り満員を果たしている。そして,今回が第3作目となるわけだ。
 このほかの出演者も「ゼイラム」シリーズや「タオの月」に主演している森山祐子や,毎日映画コンクールで男優助演賞をとった田口トモロヲをはじめ個性派俳優陣がそろっている。
 この映画の見所は,何と言っても京都映画の時代劇と東京のディジタルエフェクト技術との融合だろう。もちろんお色気忍法も健在だが,今までのとは違いそのようなシーンの数は少ない。つまり,それで売ろうとしているのではないのが分かる。
 特技監督にはコダイの小林浩一氏があたり,ディジタルエフェクトではモスラをはじめ,数多くの映画でCG,マットペイントを手がけているマリンポストのスタッフ(図1)および,シネカメラマンでありながら自らディジタルエフェクトを行っている岡垣亨氏が当たっている(今回はディジタルエフェクト部の撮影の一部とディジタルエフェクトで参加)。
 この映画を通して,ディジタルエフェクトの内側を紹介できればと思い,プロデューサーの林哲次氏にお願いして,撮影の現場とディジタルエフェクトの現場を訪問した。
 「くノ一忍法帖 柳生外伝」が松竹京都映画撮影所で撮影されていると聞いて,現地を訪れたのは昨年の12月の後半だった。現場は活気にあふれており,深夜におよぶハードスケジュールで撮影が続けられていた。この日は,監督でもあり主演の小沢仁志扮する柳生十兵衛(図2)が城の中に掘られた落とし穴に閉じこめられたシーンだった。撮影は江原祥二カメラマンの的確な指示で進められ(図3),特撮の場面では,特技監督の小林浩一氏の激が飛んでいた(図4)。そして,この日も深夜まで撮影が続けられた。


図1 マリンポストのスタッフのみなさんと大屋哲男氏(後列右)。
前列左はフロントラインの岡垣亨氏

図2 柳生十兵街


図3 撮影現場(左)
図4 特技藍督の激が飛ぶ(右)

■オールMacintoshで構成したマリンポストのディジタル環境

 では,ディジタルエフェクトの現場はどうなっているのだろうか。
 モスラをはじめ.数多くの映画でCG,マットペイントを手がけているマリンポストではMacintoshを使用している。最近はOSにWindowsNTを導入するプロダクションが多い中,マリンポストでは頑なにMacintoshが用いられている。というのも,Macintoshのソフトウエアでほぽすべてを満足できる作業形態を確立しているからだ。
 使用しているソフトウエアやその確立された形態について,取締役でビジュアルエフェクトスーパーバイザの大屋哲男氏に尋ねてみたところ,快くお話しをいただけた。では,マリンポストで使用きれているソフトウエアや作業形態についてご紹介しよう。

千姫とお千絵の合成

 ElectriclmageでTree Pro−Sプラグインを使って樹木のモデリングを行い(a),CGの樹木を完成させる(b)。その後After Effects(c)を使って,実写の空舞台(d)を背景にCGの樹木とブルーバック撮影された人物(e,f)を合成していく。
 完成された映像(g)を見れば分かるが,空舞台や樹木の水辺に人物も写り込んでいる。合成部分のCGと実写と上手になじんでいる。細かいディテールの描写の積み重ねがリアリティを生む。


(a)Tree Pro−Sを使って樹木のモデリングをしているところ

(b)完成したCGの樹木

(c)After Effects操作ウインドウ

(d)空舞台

(e)お千絵のブルーバック

(f)千姫とお笛のブルーバック

(g)合成完成映像

■3次元CGにはElectricImageを使用

 マリンポストで使用されているソフトウエアは,Photoshop.Illustratorは当然として,3次元CG制作には「ElectricImage」が使用されている。Macintoshでは老舗の3次元CGソフトだ。レンダリングの質感や柔軟なカメラワークに定評がある。そのため,国内外を問わず映画制作の現場で多数使用されている。レンダリング解像度の違いで,「ElectricImage Broadcast」と「ElectricImage Animation System」の2種類が存在する。マリンポストではフィルム解像度まで扱っているので当然「Animation System」が使用されている。そして,このソフトにプラグインを使用することで,さらに幅広いアニメーション作成に対応している。
 今回訪れた時には,Tree Pro-S」というプラグインソフトを使用して,風になぴく樹木の作成が行われていた(170ページ別掲記事図a参照)。ちなみに従来からあったTree Proは単に樹木の生成プラグインであるが,Tree Pro-Sは風などの物理特性を与えることができる。
 現在出荷されているElectricImageの最新版はバージョン2.7であるが,なぜかバージョン2.8が稼働していた。この樹木のシーンで初めてV2.8を使用して制作したため,操作に慣れるのに少しだけ時間がかかったという。Tree Pro-Sによる膨大なポリゴン数の樹木モデルを扱ったことで表示そのものが非常に重たくなってしまったのも思ったより制作に時間がかかった要因だった。

■お色気忍法でのディジタル合成

 「くノ一忍法帖」の見所であるお色気忍法の一つ。この特殊効果はAfter EffectsのプラグインFinal Effectsを使用して作られている。

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日経CG1998年4月号