初心者が失敗しないためのビデオ制作のお作法

 一口にビデオ制作と言っても,そのなかにはいろんなジャンルがある。たとえば,プロフェッショナルな映像制作では,テレビ番組,CM(コマーシャル),映画(ドラマ),ドキュメンタリー,企業案内VP(ビデオパッケージ),ハウツービデオ,記録ビデオなどがある。そしてその使用目的によって,作成する内容も大きく違ってくる。これらは主に映像専門の制作スタッフが手がけているのが一般的だ。
 映像制作の初心者が作成するものといえば,一般的には運動会,結楯式などの記録ものがほとんどだと考えられるが,中にはドラマチックなものや アート的なものを制作しようとしている人もいるだろう。また,最近では企業内で映像を作成する機会も増えてきているようで,映像制作の初心者が会社の社内ビデオを制作しなければならない場合もあるだろう。
 そこで,初心者が失敗しないためのビデオ制作のお作法をいくつかの観点からお話ししよう。

■初心者とプロの制作するビデオには決定的な違いがある

 ここで,ある結婚式のビデオについて考えてみよう。この制作をプロが行った場合,映像制作の初心者が制作したものと比べて以下のような点で違いが現れる。
 プロが撮影した映像(図4)を見ると,(1)状況説明のための映像(引きの映像やパンニング)と主映像(クローズアップの映像)のバランスを考えながら撮影されており,さらに,(2)被写体の構図にも気が配られる。そして,それらの映像は,(3)ぶれのない安定した映像として撮影されていることだろう。
 また,プロが編集した映像を見ると,結楯式会場の外観や披露宴前の様子をはじめ,披露宴中の映像には新郎新婦の映像や来賓の挨拶の映像のほか,テーブルの花やメニュー,キャンドル,シャンデリアなどがうまく挿入されているはずだ。このテーブルの花やメニュー,キャンドル,シャンデリアなどの小物は撮影現場の雰囲気を伝えるためだけではなく,映像と映像の時間経過を埋める役目などにも使われる。


図4●プロの制作した結婚式ビデオ
状況説明の引きの映像,アップ,式場の外観や小物が遺産に挿入されている。構図の良さにも注目していただきたい。

■撮影時には,ここを押さえよう

 では初心者が撮影をする場合,どのような点に注意して撮影すればよいのだろうか?ここでは,初心者のための撮影のポイントをまとめてみた。

(1)ぶれのない映像を撮影しよう

 先にも述べたが,できるだけ三脚を使い,ぶれのない映像を撮影しよう。どうしても三脚が使えないようなら,カメラの手ぶれ防止機能を使い,カメラはゆっくりと動かすように心がけよう。

(2)被写体の構図(フレーミング,カメラアングル)を考えよう

 撮影に余裕ができてきたら,被写体とバック(または周り)の構図を考えながら撮影しよう。構図の取り方一つで,同じ場面でも映像に安定感が出てくる。
 つまりフレーム内の被写体の位置や大きさなどバランスが大切なのだ。しかし,被写体はスチール写真とは違い,動いている場合が常だ。つまりビデオでは構図は常に変化する。したがって,頭の中で構図がどう変化するかを予想しながら,最良のポジションをキープしながら撮影するようにする。
 とはいえ,初心者はあまり構図にこだわりすぎると撮影ができなくなってしまう恐れもある。まずは被写体の魅力をいかに映し出すかが大切なので,少しづつ慣れながら,構図のことも忘れずに撮影しよう。

(3)主映像と状況説明映像を使い分けよう

 ビデオの解像度は思ったよりも低いので,映したい被写体には思いっきりアップして振影してみよう(クローズアップ)。これにより被写体の表情をつぶさに映し出すことができる。それとは逆に,その状況を説明するための映像を振ることも忘れてはならない。状況説明にもいくつかの段階がある。たとえば被写体の衣装を映すならフルショットサイズが必要だし,観客との関係を映すにはさらに引きの映像も必要だろう。それでも全体を映しきれない場合は,パンニングを使って全体の状況を説明する(図5)。室内撮影の場合などはカメラに広角レンズを取り付けると非常に便利だ。


図5●パンニングによる状況説明
 その埠がとのような場所なのかの睨明には、パンニングが有効だ。

(4)建物の外観や飾り物,小物など主役以外のものも撮影しておこう

 主要と思われるものの撮影のほかにも,建物の外観や,飾り物や小物といったオブジェを撮影することも忘れてはいけない(図6)。とくに,飾り物や小物は三脚を使ってアップで撮影しておこう。撮影尺も15秒から30秒くらいの長めで取っておくと,編集の際にいろんな使い方ができる。これらの撮影のために,撮影現場には早めに行って,撮影できるものを早めに撮影しておくと良い。


図6●式場の小物や外観をあらかじめ掘りだめしておく
 あとからの編集のアクセントに役立つ。このためにも式場には早めに出かけておくこと。

■映像のつながりと切面転換を学ぶ

 映像の一番短い単位はカット(ショット)と呼ばれる。カット(ショット)が集まってシーン(場面)を形成する。つまり,1つのシーン(場面)は複数のカットで成り立っている(図7)。
 ここで,時間経過を考えてみる。一般的に同一シーンのカットとカットは時間経過の順につながっている。しかし,シーンとシーンは時間経過と必ずしも同じとはいえない。たとえば次にくるシーンが,回想(過去)のシーンだったり,または夢(未来)を見るシーン,はたまた別場所で同じ時刻のシーンだったりするかもしれない。もっと過激に考えるとまったくテーマの違った映像かもしれない。このようなシーンからシーンに変わる映像のつながりが不自然にならないように映像をつなぐことが必要だ。もちろん,撮影の際にこのつながりを考えて撮影しておかなければならない。


図7●カット(ショット)とシーン
1つのシーンの中で、枚数のカットがつながる。

図8●カットの切れ目は明快に
一つのカットに次にくるカットは、できるだけ違う構図やアングルのものがよい。

(1)似通った映像同士をつなげないようにしよう

 一般的にカットとカットのつながりは,構図的に似かよらないカットをつないでいったほうがつながりがよい。たとえばアップからはアップに行かず,バストショット*や,フルショットに行ったほうがよい。どうしてもアップからアップに行きたいのなら,カメラアングルの違ったものにするとよい(図8)。
 たとえば,被写体が投影中にしゃべりをとちった楊合は,カメラサイズを変えて投影を再開し,しばらく振影した後,再度カメラサイズを元に戻して撮影する。すると3つのカットがうまくつながってくれるのだ。

* バストショットとは,人物の胸より上の部分を掘ったもの。フルショットとは、全身像のこと。

(2)トランジションエフェクトをマスターしよう

 さて,このようにカットをつないでシーンができたわけだが,シーンとシーンを単にカットつなぎしたのでは,なんとなくしっくりしない場合がある。このような場合にはシーンとシーンの場面展開にトランジションエフェクトを使用する。しかし,トランジションエフェクトをむやみやたらに使うと,品のない映像になってしまうので要注意だ。目的に合ったエフェクトを品よく使うことが上級者になる秘訣だが,まずはいろんなエフェクトを使って自分なりに体験してみることも大切だろう。
 では,様々なトランジションエフェクトの種類と,その特徴を学んでおこう。

(a)カット(切り換え/切り返し)

 カットとカットでシーンは形成されるが,シーン間もカットでつなぐことができる(図9)。基本的に時間経過とともに進む現在進行形のつながりを示し,シーンとシーンは連結される。つまり,時間とともにどんどん進んでいく場合は,変なエフェクトをやたらに使用しなくとも,カットつなぎだけで十分に役目を果たす。

(b)ディゾルブ

 ディゾルプは,非連続の時間と空間の橋渡しに使用することができる(図10)。例えば,回想(過去)のシーンや,夢(未来)を見るシーン,同じ時刻だが別の場所などの場面転換で使用することができる。一般的な場面転換には0.5秒から2.0秒くらいが多く使われるが,ディゾルプの長さで経過した時間の長さを雰囲気として伝えることもできる。場合によっては5秒〜60秒などが使われる場合もあるだろう。
 ディゾルプは非連続の時間と空間の橋渡し以外に,現在進行杉のカットつなぎで,映像の繋がりが悪い場合にも使用される。たとえば,司会者のミステイク発言をカットしてつなぎたい場合などで,この場合は10フレームから30フレーム(0.3〜1.0秒)くらいの短いティゾルブを使用する。
 なお,ディゾルブを使用した場合はシーンとシーンは連結されている。

(c)フェードアウト/フェードイン(黒落ち/黒開け)

 フェードアウトは映像から黒味に変わり,フェードインは黒味から映像が現れる(図11)。
 作品の最初と最後にフェードイン,フェードアウトを使用するのと違い,場面転換でフェードアウト,フェードインを使用すると,非連続の時間と空間の橋渡しをするとともに,エピソード(一つの意味あるシーンの固まり)の分断が起こるのでシーンとシーンの連続性はなくなる。たとえば一夜の出来事が終わり,昨日とは違った翌朝が始まる場合などである。

(d)ホワイトアウト/ホワイトイン(白落ち/由明け)

 フェードを白で行う場合のことで,ホワイトアウトは映像が自に変わり,ホワイトインは白から映像が現れる(図12)。フェードと同様,非連続の時間と空間の橋渡しをするとともに,エピソードの分断が起こるのでシーンとシーンの連続性はなくなる。ただ,フェードとは違い白で開けるので明るい印象があり,フェードとは違った狙いを持って使用できる。


図9●カットによるシーンのつなぎ
文章で言えば順接に当たる。最もオーソドックスなつなぎかた。


図10●ディゾルブ
 一つのシーンから,次のシーンがオーバーラップする。基本的には.非連続の時間と空間の橋渡しに使う。


図11●フェードアウトフェードイン
 一旦,画面が真っ黒になる。シーン同士のつながりを断ち切りたい時によく使う。


図12●ホワイトアウト・ホワイトイン
 フェードイン、フェードアウトの黒い部分が白くなったもの。フェードに比べてやや持たれる印象が違う。

(e)ワイブ

 ワイプは垂直,水平,斜めなど映像を横切って切り換える方法で,古い映像は新しい映像で置き扱えられる(図13)。一般的に非違続の時間と空間の橋渡しを行う。
 ワイプの変形にはプッシュオフ(図14),プッシュオーバー(図15)などもある。プッシュオフはフレーム内に映像が入ってくるのと同時に,古い映像は横に追い出される。プッシュオーバーは古い映像の上に新しい映像がフレームインするもの。


図13●ワイプ


図14●プッシュオフ


図15●プッシュオーバー

(f)DVE(デジタルビデオエフェクト)

 DVEはデジタル処理による場面転換効果で,ページカール(図16)などの3Dエフェクトなどがあるが,最近では非常に多くの種類のエフェクトが登場してきた。非連続の時間と空間の橋渡しをするというよりも,エピソードやテーマの違った映像をつなぎあわせたりする場合に使用する。エフェクトの種類も多いので,次の映像との関係を考えて選択する。品よくまとめるにはオーソドックスなものを使用したほうがよく,また遊び心や過激に行きたい人は自分の好みのエフェクトをいろいろ選ぼう。


図16●ページカールDVEの一種。DVEにはこのほか大量の種類のものがある。非常に派手だが,使いすぎに注意。
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ノンリニアビデオ編集完全ガイド2001