映像制作


Reviewer

山田浩之(やまだ ひろゆき)

プロデューサ,デジタルクリエータ。TV番組制作会社でTV,CM,イベントなどのプロデューサを経て独立。映像,CG,CD-ROM,WEBなどのマルチメディア企画制作会社,B-ARTISTを設立。現在B-ARTIST代表取締役。映像,マルチメディアのプロデュースのほか,自らデジタルビデオや3次元CGをクリエイトする。その傍ら,デジタルビデオやCG関連の評価,試用レポートを執筆。

 まず,従来のビデオ編集とノンリニア編集について簡単にお話ししよう。すでに分かっている人にはちょっとつらいかもしれないが,とりあえずおつきあい願いたい。

■オフラインとオンラインという2つの作業が必要な従来のビデオ編集

 従来のテープによるビデオ編集について少しお話ししよう(図1)。
 通常,本編集(オンライン編集)の前には仮編集(オフライン編集)を行う。オフライン編集は,オンライン編集を効率よく行うためだ。もちろん本編集を行う編集スタジオの料金を安く抑える目的もある。
 まず,オリジナルの素材をすべて1/2テープ(VHS)や8ミリテープ(またはHI8)にコピーする。この時,映像にタイムコードを表示させながらダビングする。ここでできたテープを「ワークテープ」と呼ぶ。
 次に,このワークテープを素材として,本当の編集と同じように必要な素材を必要な長さで編集していく。この際映像のつなぎは,オーバーラップやワイブなどの特殊効果を入れないカット編集を行う。トータルの時間が決まっている場合は1度の編集では時間がぴったり合わない場合がある。この場合は1度編集したものをやりくりして再度編集を行う。
 このオフライン編集が終了すると,この映像をプロデューサーやクライアントに見せ,本編集に入る前のコンセンサスを得る。ここでは本編集で行う特殊効果やテロップ,ナレーションなどの説明も必要になる。
 コンセンサスが取れると,完成したオフラインビデオからオンライン編集用のデータを作成する。つまり,オフライン編集した映像上のタイムコード*を読み取って,使用されている素材のIN点とOUT点を書き出し,エディットシートを作成する。実はこの作業が結構面倒なのだ。
 エディットシート作成が終了するといよいよオンライン編集(本編集)に入る。
 ところで,このオンライン編集の方法にはアセンブル編集とインサート編集がある(図2)。
 アセンブル編集とはマスターテープ(収録テープ)に対して時間軸に沿って順次編集を行う方法で,編集しながらタイムコードを記録していく方法だ。
 インサート編集とは一度アセンブル編集されたマスターテープ(当然タイムコードも記録されている)や,あらかじめタイムコードのみが記録されたマスターテープに対して,映像または音声を挿入していく方法だ。
 一般的には,編集前にマスターテープにタイムコードを記録しておき,インサート編集でオンライン編集を行うことが多いようだ さて,このオンライン編集では通常VTRは3台以上用意して,1台を「受け」としそれ以外の2台以上を「出し」として使用する(図1参照)。2台以上の出しVTRを使用することで映像のオーバーラップ(OL)が可能となる。これをABロール編集という。この際,出し側は録画のできない再生専用機でもいいことになる。
 また,「出し」と「受け」の間にはスイッチャやDVE(デジタルビデオエフェクト),テロッパーを使用して編集を行う。スイッチャはオーバーラップやワイプ,DVEは2次元や3次元のデジタルエフェクト,テロッパーはテロップ作成を行う。このときVTRやスイッチャは編集コントローラにつながれており,IN点やOUT点,スイッチャの映像の切替タイミングをコントロールできるようになっている。
 オンライン編集はオフライン編集で作成したエディットシートをもとに編集を進める。この際,編集オペレータは編集コントローラに素材のIN点とOUT点*を手で打ち込んでいく。
 もっとも,最近の編集コントローラは編集リスト(EDL*)を記録したり,再利用できるようになっている。したがって,ノンリニア編集システムで行ったオフライン編集のデータをEDLに変換し,そのデータを利用して本編集を行うこともできる。EDLはCMX,GrassVallay,Sonyなど編集コントローラの機種により異なったフォーマットが用いられているが,ノンリア編集システムのソフトがそれらの編集コントローラに対応していれば,オフライン編集を正確にオンライン編集に再現できる(AVIDのMedia ComposerはCM用のオフライン機として広く使われている)。また,編集後に直しが生じた場合でもEDLを用いることでスピーディな直し作業が行える。
 ざっと,従来のビデオ編集(リニア編集)を見てきたが,結構手間がかかるのがお分かりいただけただろう。つまり,従来の編集ではオフライン編集とオンライン編集という2つの作業を行わなくてはならず,しかも,オフライン編集後のエディットシート出しが結構手間がかかる作第なのだ。また,コスト面から見ると,本編集用の編集システムを組むには数千万円から数億円かかるのである。

 図1●従来のビデオ編集の提影から編集までの流れ

(1)撮影

(2)キヤラ出し(ワークテープ作り)

βカムなとのVTRは映像にタイムコードを表示することができる。この映像を用いて,1/2(VHS)テープにダビングする。

(3)オフライン編集


ワークテープを素材こしてオフライン編集を行う。トータル時間が決まっている場合は,決められた時間内におさまるように編集を繰り返す。

(4)本編集前の合意

プロデューサーや代理店,クライアントにオフラインテープを見せ,本編集前の合意をとる。合意がとれなかった場合,再度オフライン編集のやり直し。

(5)シート出し


オフライン編集したテープを再生しながら、映像のlN点0UT点をエディットシートに書き出す。これによリ,どの素材のどこの場所が,どの順番で並んでいるかを知ることができる。

(6)オンライン編集


送り出しVTRから再生された映像は,スイッチャで切り換えられ、録画VTRで録画される。これらのVTRやスイッチャは編集コントローラで制御される。

(7)MA(マルチ・オーディオ)

オンライン編集が終了すると,MAスタジオでナレーションやBGMなどを入れる。

1)編集したマスターテープの音声を,タイムコードといっしょにMTR(24ch,48chなどのマルチトラックレコーダ)のチャネルにコピーする。この時,小型VTR(3/4など)にマスターテープの映像、音声、タイムコードすべてをコピーする(これは,いたずらにマスターテープを使用して、テープをいためないため)。
2)コピーしたVTRを再生させることで映像を確認しながら,MTRにナレーション,BGMを収録する。このときシンクロナイザで、MTRはVTRに同期する。
3)MTRでトラックダウンが終了すると、完成マスターのタイムコードに同期させながら,MTRの完成音を戻す。
アセンブル編集
アセンブル編集は,順次編集しながら映像と一緒にタイムコードを記録するので,タイムコードがとぎれないように,END点は本来のOUT点より長めにとる。
インサート編集

インサート編集は,すでにマスターテープにタイムコードが記録されているので,マスターのどの位置にでも映像や音声を挿入することができる。

図2●アセンブル編集とインサート編集

*タイムコード:複数のVTR同士や。VTRとMTR(マルチトラックレコーダ)などの他の機械の間で同期を取る目的で使われる同期信号の一種で,通常はアメリカのSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)が規格化したSMPTEタイムコードを指す。
 タイムコードはビデオ編集の際に各フレームのテープ上での絶対位置を知らせるために付けられた通し番号のようなもので,24時間表示で”00時00分00秒00フレーム”という形式で絶対時間が記録される。
 また,タイムコードにはLTCとVITCという2種類の記録方法がある。LTCは,テープが動いているときには記録したり読み込むことができるがテープが止まっていると記録や読み込みができない。VITCは映像の垂直プランキング(つまりヘッドの回転方向)に記録されるので,テープがスローやスチル再生時でも読みとることができる(ヘッドは常に回転しているため)。
 通常VTRではLTCとVITCの両方を記録して使用するが,オーディオ関孫のアナログMTRはVITCを記録できないので これらとの同期にはLTCを使用する。

*IN点OUT点:編集した一つの素材の始まりをIN点,終わりをOUT点という。

*EDL:Edit Decisio Listの略。先に述べたエディットシートを基に編集コントローラを使用して編集した編集点などの最終決定データのこと。
EDLにはCMX,GrassVallay,Sonyなどの異なったフォーマットが存在する。通常フロッピディスクを使う。

■ノンリニア編集って何だろう?

 ノンリニア編集とは,テープで収録された映像データやフィルムで撮影された映像データをいったんコンピュータのデジタルデータに変換し,このデータをコンピュータ上でデジタル編集することである。デジタルデータとして扱うことで,時間軸を考えずに自分の好きなところから好きなように編集していくことが可能である。仮に途中のカットがいらなくなっても後ろのカットを前にずらせばよい。これはビデオテープを使った編集では考えられないことである。
 これから分かるように従来のテープ編集の方法論とは比べものにならないほどの豊富な編集アプローチができる。“ノンリニア”という意味は,時間軸を気にしないで編集できるということなのだ。
 また,従来のビデオ編集はタイムコードという数字を中心に扱っていたので熟練者でないと分かりにくいという側面があった。ところが,ノンリニア編集ではソフトの力を借りることで,素材映像をビジュアル化し,それらをグローバルに見渡せるので,初めて使う人でも扱いやすくなっている。編集ソフトによっては,機械が苦手な人から完全なプロフェッショナルまで幅広い対応も可能である。
 そして,映像をデジタル化したことで単に編集するにとどまらず,デジタル合成やデジタルエフェクトなどを駆使でき,非常に高度な映像を作り出すことができるのも魅力である。机の上のパソコンでスピルバーグ風映像を作り出すことも,時間と才能さえあれば決して不可能ではない。
 ところで,先に述べた仮編集(オフライン編集)はノンリニア編集にはあるのだろうか。
 ノンリニア編集の場合,扱う素材が低画質(高圧縮)の場合はオフラインに当たり,高画質(低圧縮または非圧縮)の場合はオンライン編集に当たる。通常,素材の多いオフライン時は,ハードティスク容量を節約し,システムのパフォーマンスを上げるために低画質(高圧縮・低容量)で編集を行う。編集にはワイプやオーバーラップなどの特珠効果もかけて完成させる。一度編集を完成させると,ここでできた編集データを使用してオンライン編集を自動的に行うことができる。ビデオ編集(リニア編集)のようにオンライン編集を再度行うことは必要なく,当然エディットシート出しも必要ない。

■教育や研究分野にも向く

 ノンリニア編集システムはビデオ制作者をはじめ学校,企業,イベント業界,医療関係,CGクリエータなど帽広い分野で使用され始めている。
 なにより,楽しみながら編集できるので,学校や企業で導入しても決して遊ばせることはないだろう。今までのように購入はしてみたがあまり使わず,最後には挨をかぶったままのテープ編集機のようにはならないだろう。
 ノンリニア編集システムでは,映像素材をデジタルデータで管理しており,しかも映像素材はビジュアルですぐ確認することができる。したがって,研究資料の作成や学会発表資料を作成する場合の管理がとてもやりやすい。このように考えると,ノンリニア編集システムを教育や研究の現場で利用するメリットは非常に大きいと言える。

■CGアーティストの仕事の幅が広がる

 今まで3次元CGソフトだけでCGを制作してきたCGデザイナやCGアーティストも,今後は編集ソフトや合成ソフト,エフェクトソフトなどいろんなソフトを組み合わせて使用する機会が増えだろうと思われる。なぜなら,今までと同じ映像を作るにしてもこれらのソフトを効果的に使うことで,レンダリング時間の節約や,制作時間の短縮を図ることができるからだ。
 また,今まではハイエンドシステムを持つポストプロダクションでしか不可能だったデジタル合成やデジタルエフェクトが一般のパソコンでも十分可能となったことで,デジタル合成やデジタルエフェクトの分野もますます盛んになることが予想される。CGデザイナやCGアーティストが才能を発揮できる分野がさらに広がろうとしているのである。

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ノンリニアビデオ編集完全ガイド2000