映像制作


目的別ノンリニア編集システム構築術

 ビデオキャプチャ再生ボードを含めて,選定時に注意しなければならない点を挙げる。読者の制作環境に合わせて,(A)オンライン編集(本編集)用,(B)マルチメディアコンテンツ制作用,(C)オフライン編集(仮編集)用,という順番で見てみよう(表3)。


表3●ビデオキャプチャ再生ボード必要条件

■A−オンライン(本編集)用

 ここでは,ビデオパッケージの完パケ制作用としてノンリニアシステムを見た場合に,必要となる集件をみてみよう。

(1)最終完パケの画質を満足させるべき画質クオリティの確保
(2)SMPTEタイムコードのサポート
(3)フルサイズ(640×480,720×486),フルモーション(フルフィールド)の確保
(4)波形,セットアップレベルなどの信号管理ができるか?

 オンライン編集で最も重要になってくるのは画質である。この画質のチェックは自分の目で見た方が確実だ。特に高価なシステムを組む場合は,販売店に見慣れたビデオ素材(ベーカム以上のもの)を持参し,デジタイズとビデオ出力をやってもらい画質のチェックをした方がいいだろう。この画質の目安として,カタログ上ではビデオ信号の圧縮率で判断することができる。
 通常オンラインで使用する場合1/2〜1/4の低圧縮をサポートしていなければならないだろう。また,入出力には当然コンポーネントの入出力を装備したものがよい。画質は確実によくなるだろう。
 ところで,最近ではITU(旧CCIR)601のD1品質の解像度(720×486)をサポートしたものが増えてきたが,解像度と画質は別物だからくれぐれも混同しないように。ただ,概してITU(旧CCIR事参照)601をサポートしたものは画質がいいものが多いのも事実だ。
 オンライン用のシステムを組む場合は,信号の管理ができた方がいい。特にセットアップレベル(デジタルビデオ一口メモ参照)の設定は必ず必要だろう。アメリカの場合7.5IRE,日本の場合0.0IREが用いられることが多いので,0.0IREにセットできることが必要になる。または波形モニターも別途用意してもいいが,MEDIA100などは波形モニターやベクトルスコープを搭載している(オプション)のですごく便利である(図7)。
 オンラインとなると音声も重要だ。入力端子のしっかりしたものを選ぼう。キャノン端子*を装備したものや,デジタル入出力を備えていれば文句ない。そして,ソフト上で音声ミックスもできた方がいいので必ずチェックしよう。汎用の映像編集ソフトでは音声のミキシングはあまりよくないのが現状だ。その点システム化されたノンリニアシステムの音声ミキシングは若干良い。それでも映像に比べてまだまだの感もある。その辺のところも是非チェックしてもらいたい。
 既存のビデオシステムに組み込むなら,ゲンロック*を装備したものを選ぶとよい。そして,スイッチャからGPI信号*でノンリニアのスタートができれば使用範囲がずっと広がる。オンラインをうたったシステムは大抵これらを装備しているが,念のためにチェックをしよう。
 最近はハイエンドとして,非圧縮のビデオ人出カボードを搭載したマシンも多く登場している。

(a)

(b)

(c)

図7 MEDIA100の波形モニター
(a)ベクトルスコープ,(b)波形モニター,(c)コンポーネント信号カラーバー

*キャノン端子:業務用ビデオのオーディオ端子の形状,仕様のこと。別名バランス(平衡)端子とも言う一般的に使われるRCAピンはプラス(+)とマイナス(−)だが,キャノン端子はこれらを外部ノイズから守るシールド線の3つの線を独立した線,端子でやり取りする。したがってノイズに強い。形状はオスとメスに別れており,接続時はロックされる。一般的にキャノン端子を使った業務用のオーディオレベルは一般のレベル(-10db)より高く,+4dbが用いられているので注意する。また,日本とアメリカではオス,メスが逆なので注意が必要。

*ゲンロック:映像に同期することをゲンロックという。リファレンス信号またはほかのビデオ信号に同期させることで,ビデオ機器による映像の合成が可能となる。

*GPI信号(General Purpose Interface:ビデオ編集コントローラがスイッチャに対して送るトリガー信号をGPI信号と言う。ノンリニア縮集機を既存のビデオ編集システムに導入した場合,ノンリニア編集機がこのGPI信号入力を持っている場合には、ビデオ編集コントローラのGPI信号で,ノンリニア編集機のトリガー(スタート)が行える。

デジタルビデオ一ロメモ
セットアップレベル:ビデオ信号の基準となる黒信号のレベルのこと。日本では0.0IRE,アメリカでは7.5IREが規格として定められている。従って,0.0IREに設定された日本のモニターで7.5IREで制作されたアメリカの映像をみると黒が浮いた映像になる。モニターと映像のセットアップレベルは合わせておく必要がある。また,アメリカのノンリニア編集システムを購入するときは0.0IRE出力ができるか,調べておく必要がある。しかし,7.5IRE出力しかできなくても,TBC(タイムベースコレクタ)やカラーコレクタなどを使用して補正できる。

7.5IREのSMPTEカラーバーを0.0IREで調整されたモニターでみた場合
誌面上では分かり難いが,モニターで見ると黒が浮いて見える

Perceptionの7.5IRE SMPTEカラーバーを波形モニターでみた場合
セットアップレベルが0になっていない。

0.0IREの映像を0.0IREに合わせた映像でみた場合

Perceptionの7.5IRE SMPTEカラーバーをスーパーブラックにて強制的に0.0IREでみた場合
0レベル以下が少しなまっているが,セットアップは0になっている。

■B−マルチメディアコンテンツ制作用

 マルチメディアコンテンツ制作用としてQuickTime(QT)ムービーなどの制作をする場合を考えてみよう。
 CD−ROMタイトルの場合,一般的なユーザーが使用するハードの環境を考慮して制作される。タイトルによっては6倍速の選択ができるものもあるようだが,通常2倍速CD−ROMドライブを標準に制作される。したがって,2倍速の転送レートである300Kバイト/秒を越えないデータ量にすることがほとんどだ。
この場合,画像サイズは最大で320×240,コマ数も10〜15フレーム/秒になるだろう。
 しかし,業務としてデジタルムービーを制作するには,できるだけ高画質でデジタイズすることが望ましい。そして,最後にそのデータをCinepakなどで圧縮して使用するのだ。

●フルサイズ(640×480),フルモーション(フルフィールド),フルカラーの取り込み再生ができるか
 この項目は,CD−ROMタイトル用のムービー制作に必須ではないが,ビデオ信号を忠実に取り込むには必要最低条件だ。決してクリアしておく必要はないが,将来的なことも考慮すると,是非クリアさせておきたい。

●S端子(VC)の入出力をサポートしているか
 高画質での取り込みには最低S端子の入出力が必要だ。最近のものはほとんどS端子入出力を持っているので問題ないだろう。そして導入後は,必ずS端子を使用してもらいたい。低価格帝のボードにはS入出力に比べ,コンポジット信号での入出力が異常によくないものがあるからだ。さもないと甘い画像でデジタイズしてしまうことになりかねないから要注意。コンポーネントの入出力があれば,画質はさらに良くなる。

●オーディオの入出力を装備しているか。その際のサンプリングは16ビットに対応しているか
 マルチメディア制作においては音声も重要だ。通常のCD−ROMタイトルでは16ビットサンプリングでの収録はほとんど必要ないかもしれないが,例に漏れず,高音質でのデジタイズが最終完パケに影響することを考えると,16ビットステレオ対応が望まれる。
 ところで,最近,音楽CDとCD−ROMを融合させたエンハンスドCDなるものが登場しているが,これらのことも考えるとデジタルでの音声人出力も導入したいところだ。ビデオボードがデジタル入出力を持っていなくても,サウンドボードを併用すれば,音声のデジタル入出カが可能になる。

ビデオキキャプチャ再生ボードのビデオ出力

 ところで,ビデオキャプチャ再生ボードは機種によって,NTSCのみの出力を有するものや,コンピュータモニター用のRGB出力とNTSCを同時に行えるものや,どちらかを切り替えて使用するものがある。
 例えば,DPSのPerceptionの場合出力はNTSCのみである。従って,コンピュータの操作用には別のビデオボードを使用する
 TARGA2000をMacintoshで使用する場合,NTSCとRGBの同時出力が可能で,本体も合わせると3画面表示できる優れものだ。このRGB出力は1152×870の24ビット表示ができる。また、Windows上で使用する場合は,他のビデオボードを使用しなくても操作できるので,PCIスロットの節約につながる。

付属ソフトや使えるソフトを調べよう

 マルチメディアコンテンツ制作者にとっては,制作中にいろんなソフトを使い分けるため,できるだけ多くのソフトを使える環境を構築したい。
 基本的にシステムがコンピュータと一緒に組まれているものは専用ソフトのみで稼働し,ビデオ圧縮ボードのみを販売しているものはいろんなソフトが使えることが多い。
 また,圧縮ボードには編集ソフトが付いている場合が多いのでどんなものが付いてくるかチェックしておこう。編集ソフトは付属していてもビデオデッキをコントロールするデバイスコントローラなどが別売のものもある。

■C−オフライン編集(仮編集)用

 さて,ノンリニアシステムを映像用のオラインシステムとして使用する場合の注点,及び最低条件を考えてみよう。この合,完パケは編集スタジオの機材を使用て制作することになる。そのため,EDL出力するまでのベストな環境を構築するが目的だ。

(1)フルモーション(フルフィールド)の入出力が可能か?
(2)SMPTEのタイムコードをサポートしているか?
(3)EDLの編集データを出力できるか?
(4)将来のオンラインシステムへのアップグレードは可能か?

 映像用のオフライン機として使用する場合,上記1〜3は必ずクリアしておかなければならない。そして,将来に向けて,オンラインの画質での編集ができるようにアップグレード可能なようにしておけばなおさらいいだろう。
 ノンリニアシステムを映像用のオフライン機としてのみ使用するには決して高価なシステムを購入する必要はない。例えば先に説明したマルチメディア向けのシステムで上記1〜3をクリアしていれば,オフライン機として十分に機能する。ということは1/2のオフライン編集機の導入価格で比べても,同額程度でそろえることができるだろう。
 ここでEDLについて注意しなければならないことがある。EDLデータが出せるからすぐオンラインに利用できるかと言ったらそうではなく。オンライン編集室との互換を調べておく必要がある。また,ポストプロの編集者がEDLデータの編集になれていれば,事前に注意事項を開いておくことも必要だろう。
 ビデオ編集とノンリニア編集での違いに,レンダリングというものが存在する。画像編集ソフトは画像編集の際,ワイプやディゾルブなどのエフェクト処理をコンピュータで計算させ処理するのにレンダリングが必要になる。この処理は,コンピュータのCPUの能力如何でかかる時間が違ってくるのだ。
 オフラインでカット編集しか′使用しない場合は関係ないが,ワイプ,ディゾルブなどを使用する場合,この処理にかかる時間が重要なのだ。ビデオ編集ではワイプ,ディゾルプはリアルタイムなので,ビデオ系の人にとってはこのレンダリング時間を待ってられないと感じる人も多いだろう。
 最近ではボードにDSPを搭載させ,あるエフェクトに限って高速処理が行えるようになっているものもある。
 また,2トラックの映像を同時再生(デュアルストリーム)することを可能にすることで,リアルタイムエフェクトを可能にした製品も登場している。これらは,エフェクトによる待ち時間は生じないので,非常に快適である。ただし,その分値段もはるのだが…。

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